第13話 褒賞と昇格
「おい聞いたか? あいつら、敵の旅団長を倒したって」
「ああそれ! すっげーよなー。しかもD上級に昇格、金貨三枚の褒賞だろ?」
「くぅー、やっぱああいう奴らが偉くなっていくのかね……。俺たちも頑張んねぇと」
朝。
眠い目を擦りながら兵舎の食堂で食事をとっていると、周りから痛いほどの視線を感じた。どうやら、噂になっているらしい。
「はぁ、なんか落ち着かねーな」
隣で硬い黒パンを齧りながら、エディがため息をつく。
「まあ仕方ないだろ、こんなの今だけだって。皆すぐに忘れるよ」
「だといいんだけどよお……。お前、よく平気だよな。オレは気になって飯さえゆっくり食えねえ」
石造りの大部屋に、ずらりと並んだ長机と長椅子。
声が反響し、他人の会話が聞こえやすいこの場所で、周囲から視線を注がれるのは確かに居心地が悪い。
エディは手に持ったパンを置き、食事を一度中断して木目の粗い机に肘をついた。
「しかしまさかあの男が旅団長クラスだったとはな。オレたち、手柄上げすぎだろ」
「おい、それ自分で言うか? 確かにすごいことだとは思うけどさ。めちゃくちゃ危なかったぞ、あの時。まさに九死に一生を得たって感じで」
後から知ったのだが、あのとき倒した両手剣使いの大男は、約二千人の兵を束ねる旅団長級の人物だったらしい。
前線に出ていたことからも分かるように、かなり好戦的な敵だった。戦場を己の圧倒的な強さで切り開く、そんな猛者だ。
俺とエディは今回の戦争でたしか……戦場にいた敵国のナンバー3? の首を取ったとのこと。
ナンバー3が複数人いるとはいえ、これはかなりの手柄で、俺たちは異例の出世を果たし、『D上級』に昇格した。
ちなみに帝国では軍のトップ──『元帥』に皇帝が、その下にS・A・B・C・D・Eの順に階級がある。
SからCは上中下の三つに、DとEは上下の二つにその中でさらに細分化されている。
平民が普通入隊した時は『E下級』になるので、つまりこの戦争を経て、俺とエディはいきなり三つも上の階級になったのだ。
「いやぁ……レイのおかげで、何とか生き延びたな。──っつーか、あんなに戦えるならなんで隠してたんだよっ! さてはお前、楽するために手ぇ抜いてただろ、訓練中!?」
「いやいや! 単純にあの場でコツを掴んだだけだよ、コツを!」
「ふぅ〜ん……ま、そういうことにしといてやるか……」
オラーゼ隊長に『発展』のことは他に漏らすなと言われているので、真実を告げることはできない。
明らかに納得していない、怪しむような目を向けてくるエディだったが、それ以上は深追いしないでおいてくれた。
今もまだ、平穏の中に帰ってきたとは感じられず、眠っていると突然目が覚める時がある。そのため睡眠不足になっているのだけど、どうも気まずく、俺は出そうになった欠伸を噛み殺し、残りのパンを一気に口に詰め込む。
その時だった。
「ふんっ、【両手剣使い】ごときが調子に乗りやがって。運だけだろ」
いまだにぽつりぽつりと聞こえてくる俺たちの話題の中に、そんな声があることに気がついたのは。
「ちっ、アンドレかよ」
横でエディが舌打ちをする。
声の主の方を確認してみると、一つ後ろの列に座った長髪の男が、こちらを見ながらせせら笑っていた。
「どうせ無能はすぐに死ぬだろうに。運良く生き残って憐れだな」
目が合うとアンドレは俺に向かってそう語りかけてくる。
こいつは一応同期ではあるが、前々から平凡な【職業】を持つ俺みたいな連中を、下に見てくるため敬遠していた。
腹が立ち、今回ばかりは何か言い返してやろうと思ったが……その前に。
「行こうぜ」
いつの間にか食事を終えたエディがそう言って、盆を持って立ち上がる。
「……お、おう」
俺は呆気にとられながらも、残りのスープを急いで飲み干し、エディに続いて食堂を出ることにした。
このあと、
「あーうっぜーあいつ!! 自分がちょっと珍しい【職業】持ちだからってよ。どうにかなんねえーのか!? ああいう選民意識!」
と苛立ちを見せるエディだったが、意外と喧嘩っ早くなく、面倒ごとを避けられるタイプなんだな、と俺は彼の新たな一面を知り感心するのだった。
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