第10話 強敵

 一人でかなりの敵を倒したが、戦況は拮抗しているようだ。

 周りでは今もなお激しい戦いが続いている。


「ヤァッ────っぁ!?」


 こちらを窺っていた敵兵が二人、同時に後ろから斬りかかってくる。《力》と《速度》を重点的に上げてきた俺は、全力で跳び、高く浮遊してそれを避けた。


 後方に回転しながら敵を越え、


「ッ!」


 一閃。

 ばたりと二人の男が同時に倒れる。


《発展ポイント:1 を獲得しました》


「バランスを考えて、《防御》も上げとくか……」


 少し前のある段階から、敵を二人倒してようやく1ポイントが得られるように変化した。ポイント数を決める『倒した敵の強さ』というのは、俺自身が強くなっていくたびに変化するようだ。


 主に重要そうな《力》《速度》《防御》をバランス良く高くするため、《ステータス》画面を出現させポイントを振ろうとする。

 だが──



「────!?」



 突然ゾワッと、背後から感じた強烈な気配。


 ──何だ……ッ!?


 敵の攻撃が迫っているのかと、瞬時に《ステータス》の操作を中断し、地面を蹴って移動する。そのままの勢いで振り返ったが、気配の正体は近くにいなかった。


 しかし、辺りを見渡してすぐに気がつく。


「あいつか……」


 少し離れたところで繰り広げられている戦闘。確認できた限りで帝国兵八に対し──公国兵一。

 けれど状況は……劣勢。


 強い。屈強な肉体に、華麗な剣技。

 遠目でもわかるほど、その敵からは圧倒的な強さを感じた。


 危険だ、近づくな……と本能が叫ぶ。

 

「ゼハハハッ! 私は……生きてるッ!!」

「ひ、ひぃっ──」


 男がその手に持つのは──赤く光る

 俺のものとは違い、かなり高価な業物に見える。武具からすると相当なつわものか。


 完全に腰の引けた帝国兵が──男が叫びながら振るう剣によって、ぼとり、と頭を落とす。それを見て、流石に無理だと近くにいた兵士の中には、走って逃げ出す者が現れる始末。


「なんだよあれ……」


 自分の周りを注意することも忘れ、その戦いっぷりに釘付けになる。強い剣士っていうのは、あのレベルのことを言うのか……。


「そんなの、勝てるわけないだろ」


 強敵の出現に──思わず震える。

 連携を取ってなんとか対抗しようとする帝国兵たちが、また一人新たに斬り伏せられた。


 今の能力値で勝てるか? と疑問は残る。

 しかし──


「行こうッ」


 自分に言い聞かせ、前に進む。

 止まらぬに急かされるように。



「────ふんッ!!」



 俺は高速で移動し、すでに四人にまで減った仲間に加わり、飛び掛かるように剣を振り下ろす。


 この戦場で明らかに成長した渾身の一撃──はしかし、いとも簡単に弾かれ、敵の目がギョロリとこちらに向けられる。


「ほう、なかなか良い腕ですね。これは惜しい……惜しすぎるッ!」


 迫りくる剣を捌き、火花を散らす。

 敵の圧倒的な腕力によって繰り出される剣技は、その速度までもが猛烈だ。


 絶好の不意打ちを逃し、すぐに防戦一方。


「くっ……」


 力を込めて剣で敵を押し、一度後ろに下がって距離を取る。


 奴の口元にはねっとりとした笑み。

 眼光は鋭い。

 気が付いたら斬られている──そんな未来を見せつけられているようだ。


 かなり強くなったと思ったのに……全然、届かない。


「はぁっ……はぁっ……」


 息が上がる俺とは対照的に、敵は涼しい顔をして口を開いた。


「惜しい──ですが殺しましょうッ! ここは、なので」


 剣を構え狙われるは俺。

 殺すか、殺されるか。


 どうやら最も『死』に近い場所に、武勲というものは転がっているらしい。


 さて、どうする────?

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