第9話 剣を振る

 ──まずは一人ッ!


 全身を使って剣を振る。

 周囲をよく観察して、背後から斬りかかられないよう、一対複数にならないように気をつけて。


 俺はちょうど、帝国兵を倒したばかりの男に向かって攻撃を仕掛けた──。


「ふっ!」


 しかし、一撃で仕留めようと全力で振った一振りは、鋭い金属音を響かせて弾かれる。

 実力は……互角。


 とにかくここだ。

 オラーゼ隊長が言っていた『初めさえ気を付ければ』の。ここで勝たないと何も始まらない!


 地面を蹴り、相手の間合いに深く飛び込む。他の敵に目をつけられたら一巻の終わりだ。悠長にしている暇はない。


「──っ!?」


 虚を衝く俺の突然の踏み込みに、敵は一瞬、対応に遅れる。


「ああぁあああッ!!」


 そうして最高速度で振った剣はそのまま────




《発展ポイント:1 を獲得しました》




 ──よしっ!


 声に出そうと思ったけど、うまく息を吐くことができなかった。

 倒した実感と、当然予想していた苦痛。まだ、まだこれには向き合わないでおこう。


「おりゃぁああああっ!」


 事前に敵を倒しても『集中を切らさない』と決めておいて良かった。すぐに斬りかかってくる次の敵──背後からのそれを、俺は間一髪のところで躱す。




『《準備》が完了したって、?』


 あの時、オラーゼ隊長は説明してくれた。いきなり視界に現れた謎の『板』の正体を。


『これからアンタは、敵を倒すたびにポイントが得られるらしい。ほら、他にもあるだろ。《ステータス》ってやつが。敵の強さによって得られるポイントは変わるらしいがな、それを割り振って強くなれるそうだ。レベルアップとはまた別の、能力向上の術として』




 瞬時に周りを確認し、俺は攻撃して来た敵と剣を交える。

 そして隙を見て。


 ──今だ。


 《ステータス》を開き、視界に浮かぶ画面を確認した。

 所有ポイントが『1』になっているのを確かめ、事前に立てておいた計画通りにそのポイントを《速度》に分配する。




《ステータス》

◉所有ポイント:0


 力 :0

 速度:0→1

 防御:0

 器用:0

 特殊:0




 強くなれると言うのなら、今この瞬間に力が欲しい。この敵との戦いで死ぬわけにはいかないんだ。


 剣をぶつけ合い、単純な力比べになるかと思われた剣戟を──終わらせる。

 自分自身、驚くほどの速度が出た一振りで、敵は倒れた。


《発展ポイント:1 を獲得しました》


 そして息つく間もなく、すぐに次の敵に向かって走り出す。


《発展ポイント:1 を獲得しました》


 剣を振って。


《発展ポイント:1 を獲得しました》


 敵を倒し、ポイントを得て。


《発展ポイント:1 を獲得しました》


 それを使えば元々の能力に上乗せされ。


《発展ポイント:1 を獲得しました》


 その都度、俺は────強くなれる。


 無力でなければ……力があれば、理不尽に打ち勝つことができるはずだ。

 自分を呪う必要は、なくなるはずだ。


 だから、ここでは終われない────ッ!!






「はぁ……はぁ……」


 最初は能力が上がるたび──それがたとえ僅かなものであれ──敏感に感じ取り、不慣れさを感じていた。だが、ようやく『強化されること』にも慣れてきた。


 肩で息をしながら歩く。

 神経が高ぶって頭が痛い。


「何人、斬ったんだ……」


 どれくらい戦ったのか、もうわからない。《ステータス》に目を向けて確認する。




《ステータス》

◉所有ポイント:0


 力 :8

 速度:9

 防御:8

 器用:0

 特殊:0




「……二十五、か」


 事実から、あたりに転がっているいくつものの屍を

 この人たちは死んで……俺は生きている。ただそれだけのことだと、言い聞かせるように。


 もう、間違いなく俺は強くなったし……帝国軍も公国軍も多くの死者を出した。だというのに──


「まだ、終わらないのかよ……」


 弱々しく呟き、顔を上げる。

 俺は足を前に出し──



 ──次の敵の元へと走り出す。



 人の血液で蒸し暑くなった平原。

 血が飛び散り続けるこの場所で、俺は生き残る。

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