第2話 国外追放
そして現在。
俺は縄で拘束され、馬車に揺られて国境付近まで連行されている。
御者が一人と兵士が二人。
両脇に座る兵士たちは何度も欠伸をし、緊張のかけらもなく適当に仕事をこなしているように見える。
「あの……」
その弛緩した空気に、俺はどうしても気になっていたことを訊いてみようと思った。声を出しても兵士たちが警戒する様子はない。
左の男は無反応で顔を外に向けたままだったが、右の男が「んぁ?」と反応した。
「こんなこと、問題にならないんですか? その……いくら権力があっても、国民の反感を買うと……」
「そりゃあ当然、面倒なことになるだろうな」
男はワッハッハ、と大仰に笑う。
「じゃ、じゃあ──」
「つっても誰彼構わず追放してたら──って話だ。お偉いさん方も滅多にこんなことはしねぇよ。でもお前、聞くところによると家族もいねぇし、ただの【両手剣使い】で戦ったこともない農民なんだろ? まあ、証拠を残さず処分するのにも手間がかかるからなぁ」
優秀でもないくせに、ただ邪魔な存在である俺は「手間をかけて殺すまでもない」ということなのか。歯を食いしばって、下を向いて拳を握る。
するとそれを見た男は、嘲笑うようにこう続けた。
「無能は邪魔────勝手に野垂れ死んどけ、ってところだろうな」
「……っ」
息が、詰まった。
はっきりとした言葉を投げつけられ、自分が酷く惨めな存在に思えた。
とても、恥ずかしい。
長い時間をかけて馬車は進み、俺がようやく下ろされたのは、荒涼とした大地でのことだった。
武器を所持することは許されず、確認の末に所有を許可されたのは首にかけてある銀塊の入った小袋と、わずかな食料と水を入れた麻袋だけ。
ほんの少し時間を与えられ、今は亡き両親との思い出の品々をすべて売り払い、全財産を使って購入したのがこの小さな金属片だ。他国に行くのなら王国の貨幣ではなく、金に換えられる物を持っていたほうが良いだろう。
「ここから先は領土外だ。ほら、さっさと行ってくれ」
問いに答えてくれた兵士が手の甲を外に押し出すようにして、シッシッと
何らかの抵抗を試みることもできないまま、俺はとぼとぼと足を前に進めた。
初めて行く王国の外。
今いる場所は、隣国である帝国に続く大地……だと思う。
まっすぐと進んでとりあえず何処かの村や街を目指そう。その前に国の思惑通り、魔物や盗賊に遭遇して殺されるかもしれないけど。
でも──死にたくなければ、なんとしてでも生きるしかない。
職が簡単に見つかるとは思えない。
比較的簡単になれる兵士でも、【両手剣使い】の俺はいくら死戦を越えても滅多にレベルアップできず、早死にするのが落ちだろう。自分は特別じゃない、その程度の存在なんだ。
けれど、どうしてもあれきり会えていないクリスタにもう一度会いたくて。
自己満足に過ぎないが、彼女が今も辛い思いをしていて助けを求めているのなら。次は一歩を踏み出して、救いたい。あの時、涙を浮かべる彼女の瞳に、苦しみが見えていたのに何もできなかった後悔があるから……。
王国の上層部の理不尽さに──いや、非力で行動力のない自分の情けなさに、怒りが湧く。
絶対に死ねわけにはいかない。
少し進んで振り返ると、兵士たちはその場から微動だにせず、わざとらしく剣柄を握って立っていた。
後退はなく、残された道は前進あるのみ……か。
『まだ死ねない』
心の中で何度も何度もそう繰り返し、俺は自分を奮い立たせ続ける。
月と太陽が交互に姿を現し、水と食糧が減っていく。
とっくの前から足が棒になっていた。けれどなかなか人里は見当たらない。
怯えは常にそこにあって、周辺を警戒し続けているため、精神もひどく疲弊している。
熱い太陽に照らされて、汗が流れる。
残りの水はあと少し。
このまま何処にもたどり着かないんじゃ──そんな弱音が顔を見せた。
──と。
「──────ッッ!?」
その瞬間。
俺の頑張りも意味を為さず。
反応することもできないままに。
突然────人が目の前に吹っ飛んできた。
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