7 盗賊ギルドと警備員
「だったら
カウンター席に腰かけ相談を持ちかけた俺の目の前にラム酒を置きながらマスターはそう答えた。
ちなみに赤毛女は断りもなく隣の席に陣取るとふくれっ面でこっちを睨んでいる。
本当にしつこい。
「盗賊ギルド?そこは安全なんですか?」
財産を盗賊に預けるなんて、飢えたライオンの目の前に生肉を置くような行為にしか思えないのだが…。
「お前さんが財布を肌身離さずいるよりよほど安全さ。
依頼料はかかるが24時間警備してくれる。
うちの店で護衛兼従業員をしてくれてるのも盗賊ギルドのギルド員だ」
話しながら店の隅で腕組みをしている従業員へと視線を向けると、全身黒っぽい服を着た細マッチョ達が腕組みしたまま四方から酒を飲む客に目を光らせていた。
飢えた
盗賊ってもっと細身で打たれ弱そうで、スピード重視系じゃなかっただろうか?
いや、追剥が複数人で袋叩きにしてくるような世界じゃ打たれ弱いのは致命的なのかもしれないけど。
「分かりました。後で行きたいんですが、ギルドってどこにあるんですか?」
「この町の南端さ。散々走り回って知ってるかもしれないが、高い塔みたいな建物があっただろう?」
「あぁ…」
親指で方向を指し示すマスターに言われて4階建ての細長い建築物を思い出した。
この町で倒壊せずまともに利用できそうな建物はこのパブの他にはあそこくらいだ。
あれが盗賊ギルドだったのか。
「ありがとうございます。
この酒を飲み終わったら行ってみることにします」
「おう」
ラム酒が注がれた木製コップを口につけると、放置していたふくれっ面が距離を詰めてきた。
っていうか、まだいたのか。
「お酒飲むなら奢ってよー。ねーってばー」
嫌だよ。なんで盗人に酒を奢らにゃならんのだ。
「他に買っておいた方がいいものってありますか?」
「そうだなぁ…バックパックとか?
もう暫く採掘で稼ぐにしろ、どこか別の街に旅立つにしろ、大量の荷物を運べるバックパックは必需品だろう」
マスターはそう言いながらカウンターの上に二種類の鞄を置いた。
片方は動物の皮をなめして作った様な大きなリュックサックで、もう片方は3段カラーボックスみたいな木箱の背に背負う為の紐を取り付けたような感じのものだ。
「こっちの大きなバックパックは旅行者がよく使っているタイプだ。
動物の皮を使っているから、柔らかくて肩が凝りにくい。
こっちの木製のバックパックは行商人たちがよく使う。
荷物の整理がしやすく見た目に反して意外と収納できる。
だが動きにくいから戦闘の立ち回りなんかは制限されたりするな」
なるほど。マスターの説明はとても分かりやすいな。ありがたい。
しかしどちらも一長一短となると、やはりどちらを買うか迷うところだ。
革製のバックパックはたしかに大きいが、仮にパンパンに荷物を入れたとしたら持ち運びに苦労するだろう。
それこそ追剥たちの恰好の餌食になる未来しか見えない。
だが動きが制限されるという木製バックパックは空の状態でも革製のバックパックより重いだろう。
毎晩ランニングは欠かしていないが、これを背負って走るのはスピードが落ちるかもしれない。
運搬の為に採掘場とパブを往復する時間が大幅短縮されることは間違いないので、買わないという選択肢はないが…。
「うーん…」
「両方買えばいいんじゃない?
どうせ2人いるんだし」
腕組みして悩んでいたら、凝りもせずに赤毛女が口を挟んできた。
“なに難しい顔して悩んでんの?”と言いたげな目で見つめてくるが、断じて盗人を仲間にする気はない。
「財布を盗むチャンスを待つくらいなら、さっさと街の外で金属採掘してきたら?」
顔にひきつった笑顔を貼り付けながら嫌味を言ってやる。
だがもしその気があって実行しているなら、この赤毛女はとうに金を貯め設備を揃えて酒の製造を始めていただろう。
俺がマスターから渡されたのは迷惑料やら干し肉代を差し引いた金額なんだから。
「やだよー。追剥が出るじゃーん。
熱いし、鉄臭いし、土埃もたつしー」
ダメだコイツ。嫌味が通じないバカだ。
「そもそもそんな重労働、可愛いあたしに本気でしろって言うのー?」
「うん」
指先にくるくると赤毛を巻きつけながら横目に見てくる顔がムカついたので、真顔で間髪空けずに肯定してやった。
赤毛女は最初何を言われたのか分からなかったのかポカンと間抜け顔をした後、一拍おいてギャンギャン騒ぎだした。
曰く、若くて可愛い女の子になんてひどい事を言うんだとか何とか。
非常にうるさい。
騒がしい方の片耳を塞ぎながら酒を煽る。
甘さやフルーティは控えめで、強い辛さが喉を焼いた。
「マスターにフラれた時点で気づけよ。
やせ細った追剥連中の中にだって女がいることは無視か?
働いて金を稼がなきゃ、お前も同じ末路を辿るぞ」
空になったコップと硬貨をカウンターに置いて立ち上がる。
完全に沈黙した赤毛女はふくれっ面のままカウンターの木目を睨んでいた。
「マスター、ごちそうさまでした」
「おう。また来い」
渋いマスターの声を背中に受け、店から出る。
赤く燃える太陽が東の空へと沈みかけていた。
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