共闘
「くぁ〜...」
あれからどれほど寝ただろう、窓を見る限り先程と景色の色がさほど変わりない気がする
すぐ起きたか、と身体を起こそうとしたが身体が固まっている。変な寝かたでもしただろうか?
身体をボキボキと鳴らしていると扉が音を立てて開いた
「ぁ、サイさん!!」
「セツ」
セツだ。セツは何か慌てたように小走りに近づき確認するかのように体のいたるところを触ってきた
「うぁ、なんだ?どうしたんだよ」
状況が呑み込めず頭に大量のはてなを浮かべていた時だった
「アンタ、10日間ずっと寝てたのよぉ。しかも呼吸なしで!」
「あ?」
セツで隠れて見えなかったがどうやら後ろにナシがいたらしい
こちらも安堵の笑みを浮かべながら近づいてきた
「どういうことだ」
「それはこっちのセリフよぉ、ほんと驚いたんだからぁ寝てるの確認しに来たら息してないんですもの」
ジンに見せたら大丈夫だって言うから寝かせてたのよォと言うナシは何やらテキパキと準備をしていた
「何してるんですか?」
「んー簡単なメンテナンスよぉ
ほらサイ、焔出して頂戴ぃ?」
「あ?いいけど...」
焔、それはサイの使っている薙刀の名前だった
紅く、赫く、燃えるように熱く美しい炎のようだから焔
ただ、なぜ今?と疑問に思いながらも
右手を自分の前に伸ばした
「
途端に手の平が炎に包まれた
そこから恐ろしい程美しく、狂おしいほど熱い薙刀が出てきた
「焔がどうし___っ」
右手の甲に激痛。
一体なんだと見てみれば埋め込まれていた宝石にヒビが入っていた
「サイさん!?」
「やぁっぱりねぇ、力使いすぎよォアンタ
宝石ちゃんがオーバーヒートしてるじゃなァい」
「わかってたのか...」
「もぉちろんよぉ、メンテナンス室のべナちゃんほどじゃぁないけどね」
どうやら眠っている間にこの力で回復を図ろうしたらしい。そんなことが出来るのかは謎だが。
そんな状態のまま焔を出したせいで宝石はオーバーヒート。ひび割れてしまったようだ
心配しているセツを横目にナシは続けた
「とりあえずべナちゃんに診てもらうことねェ、それ治せるのべナちゃんだけだからぁ」
「わかった」
「あ、あとついでにサカくん連れて帰んなさぁい、あの子あの後またメンテナンス逃げて二日前に捕まってからずっと受けてたみたいで死にかけなのぉ」
「...わかった」
正直わかりたくなかった
メンテナンス後のサカはナイーブすぎるほどナイーブだ
おそらく半べそかいてるだろう
あれを立ち直らせるのはいつも骨が折れる
「じゃあ行くか、セツ」
「ぼ、僕もですか?」
「あぁ、同じチームだからな
早く行こう」
ナシに軽く礼を言ってその場を後にした
「...悪いな、10日も」
「え?」
「心配してくれてたんだろ、あんな顔されたら誰だってわかる」
病床に入ってきた時のセツの顔は頭にしっかり残っていた。驚いたような安心したような顔。
すごく心配をかけてしまったといやでも気付かされた
「...僕も強くならないとって思いました
2人を傷1つつけずに本部に戻らせるくらいに」
「は、そいつは頼もしいや」
年下のまっすぐとした目に引き込まれそうだ。と少し楽しそうに笑い、
そっとメンテナンス質へ向かう足を早めた
___
「おら、戻んぞ」
「いやや...もう...気持ち悪くて敵わん...」
いつもこうだ。全くどうしろって言うんだか...
サカのメンテナンス嫌いは前からだ
いつまでそうしてるつもりだ、と言いたくもなる
言ったところで更に拗ねて面倒な事になるが
「あんまり仲間を困らせるんじゃないよサカ」
「べナじい」
メンテナンス室のべナ。それが今現れたこの筋肉質のじいちゃんの名前だ。
「べナさん、さっきはどうも」
「おぅおぅ、大したこたァねえよ」
つい数分前に宝石のヒビを直してもらった
ヒビは誰にでも直せるものではなくそれ相応の技術を持った人間にしかできない。
すごく繊細な作業だそうだ
「ほら、お前らに次の任務だ
全員合流出来る頃だろうって本部長から連絡貰ったんだ」
「なんでもお見通しだな、本部長」
「さすがですね...」
ひらりと渡される1枚の紙
そこには"秋名市で呪いの目撃情報あり。確認し、呪いであった場合、すぐさま対処にあたれ。なお、人が多い市のため、既に第2形態へ移行している可能性あり"
との事だった
「...しゃーないなあ...」
任務と聞けば黙っている訳にはいかない
重い腰をあげ、ふぅ...と溜息をつきながらもやる気はあるようだ
「それじゃあ行ってくる」
「おう、負けんなよ」
「もちろん」
べナに手を振り歩き出す
任務へ向かう時はいつも緊張する
_今日も無事帰れますように
こんな世界に神様なんてものはもう見向きもしないだろう。もしかしたらもう捨てられてるのかもしれない
でもまあ、何もかも無意味だと決めつけるよりだったら少しの希望を見てもいいんじゃないか、そう思いながら本部の扉を開けた
____
「でっかいなぁ」
住民を避難させたあと
目標になる呪いの近くにある木に身を潜めた
第2形態へ移行していなかったものの根っこが地面から浮き出るほど大きかった
「さて、どうする
この街中じゃあ俺の焔は使い勝手が悪すぎる」
「建物壊しても問題ないっていうとったけどなあ
さすがに壊しながら戦ういうんは大変やろ」
いつもは先陣切って走り出すが今回はそうはいかない
周りには店や家が所狭しと並んでいる住宅街だ。
周りの人間は全員逃がしたとはいえ得物が長物のサイにとって、やりにくさは変わらない
「どうしましょうか…」
三人でウンウン悩んでいた時だった
ズルリと後ろからなにかが這いずる音がした
ハッと気づいたときには遅かった
サイの長い蔦が巻き付きそのまま空に放り出された
「ぅお」
「サイ!」
「大丈夫、無事だ」
長く太い蔦は近くの木に巻き付きそれを通してサイを宙釣りにしていた
「『変化開開 _焔_ 』」
冷静に焔を出し足に巻き付いた蔦をひと薙ぎした
簡単に切れた蔦はサイを追うでもなくその場でぶらぶらしていた
サイは一回転し着地。怪我はなかった
「サイ、無事かいな」
「あぁ、掴まれただけだ」
サカとセツも合流した
二人とも足元で何かを探っているようだ
「あの、これ、気づいたんですけど…」
「多分思ってる通りだ、あの呪いかなりデカい」
さっき隠れていた場所から呪いまでは50mはあった
そんなところから攻撃を仕掛けたのだ。おそらく根が深いのだろう
こういう呪いは普通に茎を切ろうとしても切れない。
茎が固いのだ。折れはするだろうがまた再生してしまう
「徹底的に叩かなあかんな」
サカの外套が風に吹かれて大きく揺れた
「『変化開開 _虚_』」
外套の中から無数の銃が出てきた
到底その中には入りきらないような数の銃が
それらはサカの意識に従い動く
呪いを円を描くように囲むと
サカが手を上から下へ卸した
途端引き金が引かれ銃がすべて攻撃を始めた
周りは煙であっという間に見えなくなってしまった
少しして音がやんだ
おそらくある程度撃ち終わったのだろう
そっと視界が開けていく
あれだけ撃ち込んだのだダメージは結構入ってるはず
少しの期待とともに呪いに目を凝らす
「ありゃ、やっぱりあかんかったかあ」
「これは骨が折れるな」
煙の中から現れた呪いは花や葉に損傷はあるが
茎自体は全く持って元気だった
そして、呪いが怒ってるようだった
[キィィィィィイイィィイイイイイイイイィイィィ]
甲高い音を出し三人の周囲を蔦が囲った
「あーあ、怒らせた」
「すまんて!」
二人がそれぞれ構えると同時にすべての蔦が襲い掛かってきた
がしかし
それらすべては三人に届く前にまるで見えない壁があるかのように止まった
「ひゅー、さすがセツやんなぁ」
「助かった」
二人が構えを軽く解き二人の真ん中にいる人物をみた
「『変化開開 _護_』」
セツが結界を張っていた
セツの力は物に「付与」する力であり
今回はさっきまであたりを待っていた煙に「硬貨」を付与したようだ
「あの、一回作戦立てませんか?」
「作戦?」
セツが交互に二人を見て少し控えめに声を発した
「僕に、一つ考えがあります」
その内容を聞いて二人は顔を見合わせて笑った
「やってやろうじゃねえか」
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