雪月花


目の前に咲いていた花を散らした


花の前に立っていた男が

手に持っている大きな薙刀で


正確には茎の部分を切った


[ヒ、ヒギャァァアアアアアァァアァァアア!]


花を断末魔をあげ、散った


そう、この花は普通の花ではない。

_呪い

それがこの花の名称だった


少し前の噴火とともに各地に舞った

地面についた呪いは芽吹き花を咲かせ

人々からその人の一番大切に思っているものを奪った


そして、奪われたものを取り戻すため

呪いを枯らしているのが今呪いを切った男と

その男が所属する『Kalanchoe』だった



「任務終わりました、どうぞ」



男は耳についているおそらく通信機であろうものに向けて言った


それと同時に今まで持っていた薙刀は

淡い光とともに消えていった



『ご苦労様、三人無事ね?』


「えぇ、怪我もありません」


『じゃあ帰還して頂戴。』



ブツッという音とともに音声が途絶えた

それを確認してくるりと振り向いた



「サカ、セツ、帰還するぞ」


「いやーお疲れさん、サイ」


「お見事でした…!」



後ろで待機してた二人が顔を出す

糸目でのほほんとしてるのがサカ。

その後ろで少し控えめに声を出したのがセツだ。



「さすがやったなあ、あれだけ威嚇されてたんに」


「もとはと言えばお前が花粉症だとか言ってあんだけの数の銃用意して全弾外したから威嚇されたんだろ。」


「いやー申し訳あらへん。」



たはは~と笑うサカに少しため息をついた



「とりあえず帰るぞ」



今来た道を戻り、3人でKalanchoe本部へと歩き出した




___





「今戻りました、本部長」


「あら、おかえり三人とも」



本部に戻ると身体の周りに資料を何枚も浮かべた女性がいた。


本部長のジンだ



「怪我はないようね、いいわ、さすがね

じゃあメンテナンスを受けてきて頂戴」


「え゛っ」



ジンの言葉にサカが露骨に反応した



「前したばっかですて、今日じゃなくてもええんちゃいます?」


「あらあら、花粉症のせいで弾104発ぜーんぶ外した人が何言ってるのかしら?」


「数まで把握しとるんですか...」



かぁ...と頭を搔く

どうやらサカはメンテナンスが苦手なようだ



「なんでそんなに嫌なんですか?特別痛い訳でもないと思うんですけど...」


「あぁ、セツは入ったばかりだから知らないか

俺たちに埋め込まれてるこれはな、人によって発動条件とかが大きく異なってくるんだ」



右手の甲に埋め込まれているそれは

菱形の宝石のような形のもの


これが呪いに対抗する術

着いている本人の意思によって形を変え、

呪いを枯らす武器となる



「ワイらブロスフェルディアナ所属のプミラ科の人間は付属効果がついてるやつが多くてな、

の中でもワイみたいな奴は効果と身体が引っ付いとる奴はメンテナンスされると身体の内部そのものを掻き回されてるような感じがして気持ち悪いねん」



だから嫌やねんけど...とジンの方を見る

もちろんジンはにっこり笑ったままだ


Kalanchoeの中には所属と科がいくつか存在する

主に武器そのもので戦うブロスフェルディアナ。

その中でも接近戦メインのパリ科、遠距離攻撃メインのプミラ科に分けられる

そしてもうひとつ

宝石の力を媒体として魔法を使うベハレンシス。

その中でも魔法で攻撃を仕掛けるウエンディ科と味方の援護に回るミラベラ科がある


特にプミラ科、ミラベラ科は"付属効果"というものがあり、サカのように銃で戦うがそれを出し入れするのはサカの纏っている外套の中。4次元空間になっており仕舞える量は無限。といった効果がある


逆にパリ科やウエンディ科はひとつの能力に特化し莫大なパワーを有する。



「そうなんですね...ぼくはミラベラ科ですが付属効果もサカさんみたいに常時発動型じゃないので...」


「何とか説得したってや〜セツゥ」



年下にしかも入ったばかりの新人に縋り付くサカを見て何やってんだか...とサイは頭を抱えた



「セツくんはここにはもう慣れたかしら?本当は2人<バディ>にしたかったんだけどあいにく空きが無くてこの2人について貰ってるけど...この2人無理してない?」


「わ、えと、おふたりにはいつも良くしてもらってます...無理はえと...」



そっと2人に視線を送れば同時に少し首を横に振った



「あら、詰まることがあるのかしら」



もちろんジンは見逃さなかったが。



「あわ...えっと...」


「セツくん、あなたには将来的に2人のサポーターになって欲しいの。2人を支えるだけの技量があなたにあると私は思っているの。

でもまだあなたも慣れてなくて大変でしょう?そんな中無理ばっかで後輩を困らせる先輩は本部長としては見逃せないのよ」


「困らせてなんて...」


「今はセツくんに聞いてるの、いつも切り傷だらけになって帰ってきてたサイくん?」



嫌な言い方するな...と思いながらも反論はできない。

事実だから。



「えと...じゃ、じゃあ、本人は大丈夫って言ってるんですけど、今肋が三本折れてて僕じゃ治すのが怖いっていうのは...」

「サイ?」


「皆まで言うな!セツ!!」




「 サイ 」



ジンの声が一気に冷えた

今までくんをつけていたところから呼び捨てに変わったあたり、相当だろうというのは容易にわかった



「あなた、まだナシ先生の治療を受けていないのね?」


「そういう訳じゃ...」


「あら、じゃあ治った後にまた同じ怪我をしたってことかしら」


「あ゛」



墓穴を掘った

案の定ジンの顔はみるみる黒い笑を浮かべて行った


「あなた1週間病室から出るの禁止よ」

「ちょ、待ってく____」



サイの制止の言葉は全くきいてもらえず

ジンがスっと人差し指を上にあげるとそれに合わせサイの身体が浮き、病室のある方へとかなりのスピードで消えていった



「ヒェ...」



サカがそっと固まった

サイが見えなくなったあと首だけ動かし

セツに「何も言うな」の目配せをした



「そうそう、ひとつ思い出したことがあるの」


「?」



サイが目的地に着いたのだろう。指を下ろしセツに向き直る



「2ヶ月前にメンテナンスがあったのよ。あなたが来る1か月前ね。その時何故か時間が早く終わったのよ。いつもと同じ人数なのに約1人分」


「...」


「ひとつ聞いていいかしら?」


「はい」


「サカくん、前の戦闘時に余計な物、なにかだしてなかった?」



横目でサカが小刻みに震えてるのが見えた

どうやら心当たりがあるらしい



「...刀は余計なものに入りますか?」



ジンはにっこり笑った

どうやら言って欲しかったことが当たったらしい



「正解よセツくん

さて、サカ?」


「えと...ワイが受けてないって証拠はないわけやないですか...はは...」


「サカ」

「はい」



笑って誤魔化そうとするサカを一喝すると

そっと正座をした



「今回はじっくり時間をかけてやって貰わなきゃいけないわね」



先程のサイと同じように人差し指で操り、メンテナンス室へと放り込まれる音がした


どうやらこの先輩達は曲者ばかりのようだ



「さて、申し訳ないわねセツくん。

ちょっとの間休業よ。自由に過ごしてて頂戴」


「あ、はい、わかりました」



じゃあねと言って歩き出し軽く手を振られる。

とりあえず先輩方の様子見でも行こうかな...考え廊下を歩き出した



__



「ってぇ...んとに容赦ねぇな...」



病床へ投げ込まれたサイは着地こそ柔らかかったものの頭を壁にぶつけていた



(軽い睡眠魔法に麻酔効果がついてる...それに動きづらいってことは麻痺魔法まで着いてるな...さすがあの人だ、いっぺんにここまで魔法が使えるなんて)



魔法は原則1種類のみ。たとえ付属効果であろうと2つ同時に展開するのはそれこそ常時発動型しか出来ないはずだった


しかしジンは複数を一気に展開することが出来る

一体どんな鍛錬をしたらそうなるのか...と聞きたいくらいだった



「ハァイ、サイ♡久しぶりねェ」


「ナシ先生...」



考え事をしてると後ろから声をかけられた

ここの医師、ナシだった



「アンタ、肋が三本も折れてるんですってェ?そりゃジンも怒るわよォ、ささ、すぐ治しちゃいましょ!」



一方的に話を進めサイの胸に手を当てる

ふわっとした浮遊感がサイに伝わった


見るとナシのウェーブしている綺麗なブロンドの髪が少し揺れているのがわかった。


さっきまでこれでもかと笑っていた口が少し下がり、冷静な声で話し始めた



「これ以上放置してたら危なかったわよ、気づいてよかったってレベル。あなたが強いことは知ってるわ。

でも強いからって怪我の治りが早いわけじゃない。

ついてしまった怪我はちゃんと処置をしないと...

新人くんにもお世話になっているんでしょ?あまり心配かけちゃダメよ。しっかりしなさい、先輩」



話終わると同時に手が退いた。治療が終わったのだろう浮遊感も無くなっていた



「1週間安静なんでしょ?ゆっくり休みなさい」



ジンの軽くじゃないしっかりした睡眠魔法をかけたから。そんな言葉を聞き終わる前に既に眠くなっていた





すごく...つよい...まほうだ...





____

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る