毟り取る男、富賀河透流 7

 スマホを掴んだまま、富賀河ふかがが考えを巡らす。


――剣ヶ峰つるぎがみねが「規制法が延期」の「ウソ」を仕掛けているのなら……。


 剣ヶ峰が「ウソ」を仕掛けているのなら、その目的は、今日の「パーティー」……「ダウト」ゲームを有利に進めるために決まってる。

 だが、この「ウソ」をどう使う気だ……?


 勝利を確定させるため……か?

 この「ウソ」を「本当」のこととして俺に信じ込ませ、「規制法延期」発言を引き出す。そこをヤツが「ダウト」指摘で狙い撃つ。

 ……いや、これは不確実だ。

 近い話題をヤツが振ってきても、俺が「規制法延期」と明言するかどうか、それは完全に俺任せになる。確かなものではない……。

 じゃあ何だ? 一体何に使う気……。


――」か!


 富賀河は、カッと目を見開いた。


――ヤツ自身の「マイライ」に「規制法延期」を設定する気だ!


 これは「ウソ」だから当然、アプリの判定も通過。ヤツはゲーム中、「規制法延期」を発言するが、俺がこれを「本当」のことと認識していれば、コレをスルーする……。

 ヤツはってわけだ。

 しかも、コレ……。

 さっき考えた通り、ひょんなことで俺が「規制法延期」を口にしたらそれはそれで「ダウト」指摘すれば勝利できる……二段構え。


――ざかしいクソヤロウがッ!


 富賀河は部屋の入り口に放りだしたままにしていたキャリーバッグに歩み寄ると、中からスキンクリームを取り出し、顔、手と、それを塗りたくっていった。

 ひと段落つくと、その場で部屋を見渡す。

 富賀河が通された部屋は、全く飾りっ気のない殺風景なものである。この部屋で暇を持て余したら、ネットか、部屋に備え付けのテレビに頼るしかない。


――ネットが使えないのも、アメリカで「ダウト」するのも……ヤツのだな……。


 フェイクニュースをネット全体に仕掛けるのはムリだし、ネットで調べられてフェイクを暴かれるのもヤツは困るはずだ。だからこうして、俺にネットを使わせない。

 暇を持て余した俺が外に出ようにも、異国……それも、観光名所でもなんでもないアメリカの住宅街なんか、ネットを使えないまま歩く気になんてならない。

 そうやって、ほぼ強制的にテレビを見るよう俺を誘導する。どのチャンネルでも「規制法延期」のニュースしかやってないテレビを。一瞬でもニュースに目を向けさせればいい。「規制法延期」なんてトピック、「ダウト」アプリのヘビーユーザーである俺が食いつかないわけがないからな。そして、それを見た俺は「規制法延期」を信じ込まされる。


――だが、


 富賀河はニンマリと、悦びを抑えきれない笑みを浮かべた。


 「ダウト」ゲームでは相手の「マイライ」をゲーム前に知っていることは、その相手に対し、ほぼ勝利できることを意味する。

 相手が発言すればそれを指摘すればいいし、しなくても自分が「マイライ」を発言済みでプレイタイムオーバーを迎えれば勝てる。

 唯一勝てないパターンは、相手と自分、両者が「マイライ」を発言していない場合だが、この膠着こうちゃくパターンは、「ダウト」ゲーム歴が長い富賀河でさえも、ほとんど遭遇したことがない。

 「マイライ」を発言していない状態でタイムオーバーを迎えることは、そのままだと負けが確定するため、タイムオーバー間近になればなるほど、プレイヤーは必ず「マイライ」を発言しにいくのだ。

 違いは、それが自然か、不自然か……。そして、「マイライ」を知っていれば、その話題が自然だとしても刺すのは容易である。 

 つまり、

 

――俺の勝利は確定した!


 それにしても、と富賀河はテレビに目を移す。


『と、このような発言をしており、法施行が二月二日に延期されるのはほぼ確実となっております……』


 今の富賀河にとってはあまりに滑稽こっけいが過ぎる、「規制法延期」のニュースが未だに垂れ流されている。


――どんだけ金かけてやがるんだ……。

 

 ニセのニュースを作る……。

 この番組のスタジオセット、普段見てるのテレビのセットと大きな差はないようだ。今喋ってる女も、雇われだろうが、若くて滑舌かつぜつもよくて

 そんなニュース番組が、十種類近く……。これだけの準備、相当に金がかかってるはずだ。素人考えでも、百や二百じゃ済まないだろう。

 ということは……だな。

 ヤツの「マイライ」を知っていてもそれだけじゃあダメだ。それを使使意味がない。

 「使うタイミング」はこの仕掛けの費用を回収し、儲けも出すことを考えれば、想像がつく。

 だ。この仕掛けを使って勝つと意気込んで額を上げてきた時。

 ヒラでやっててこの額が出てきたらさすがに俺も腰が引けるだろうが、それが「規制法延期」の「マイライ」を使うというサインであるなら話は別だ!


――そして、「使」ためには……。


 富賀河は再び、室内を見渡した。


――聴かれてなかっただろうな? ……トモとの電話を。


 剣ヶ峰のヤロウは、「ウソ」ひとつを「本当」だと信じ込ませるためだけに結構な費用をかけているはずだ。、なんてこともしてるかもしれない。

 もしヤツがこの部屋を盗聴していたら、先ほどのトモとの電話のやりとりから「『規制法延期』の『ウソ』に気付いた」とバレて「マイライ」設定を取りやめにする可能性が出てくる……。

 それはマズい。

 「規制法延期」の「マイライ」を絶対に使わせなければならない。


――もうそろそろ食事だろう……。ヤツとの会食……その場でをかけてやる。

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