依頼主、三ツ路桜音 4
さらに右上隅には、ヒト型のアイコンマークがひとつ現れた。このマークはそれぞれのスマホ上で「ゲーム開始」を押し、準備中に入ったプレイヤー数を表す。つまり、
三ツ路も「ゲーム開始」をタップした。
『ダウト・スタート!』
「この声を合図にしてプレイ時間……今回は三分ですね。刻々とプレイ時間が消費されていきます。この
システムボイスの合図の直後、三ツ路の喋りに、
そして……三ツ路はこの『ダウト』指南のあと、黙り込む。
「……ところでさ~。今日、雨だよね」
十数秒後、剣ヶ峰は
「ダウト」
三ツ路が「ダウト」を宣言する。
「『リョウ』。『今日は雨』」
「ダウト」宣言のあと、三ツ路が続けて発言したのが「ダウト」指摘対象のプレイヤー名と「ウソ」だと思われる発言の内容。「リョウ」はアプリ開始時点で剣ヶ峰が設定したプレイヤー名だ。
『ダウト成立! ユールーズ!』
『ダウト成立! ユーウィン!』
二つのスマホ端末から正反対の内容のシステムボイス・アナウンスが流れる。
「……はぁ?! なんでだよ!」
剣ヶ峰は納得がいかない、といった様子でスマホを掴んでその場で立ち上がる。
「なんで俺が
「剣ヶ峰さん、下手すぎ……」
「ダーリン、もっと上手く話題を運ばないと~。それに、ホラ」
安芸島が室内の窓側を指差す。
「こんなにお日様が差し込んでるのにいきなり『雨』はないよ~。いくらカオルでもこれはフォローできないな~」
「いや……ホラ、今も世界のどこかでは雨が降ってるところもあるだろ! セーフ!」
身もフタもない言い訳を持ち出してきた剣ヶ峰。
往生際の悪い「負けず嫌い」は見ていて
――きっと、
ふぅ、と一息
「そうはアプリAIは判断しませんよ。GPS機能を使って場所に関することなんかはスマホの現在位置から判断されてます。ですから今、世界のどこかで雨だろうが雪だろうが、この事務所の地点が晴れている以上、『雨』は『ウソ』になります」
「ちなみに」と言って三ツ路は立ち上がると、そのまま窓際に寄っていく。
顔を窓ガラスに近づけ、外の様子を
「とりあえず、雨は降っていませんね……」
「降って……ないな。それは、まあ……」
「それがどうかしたの~? 桜音ちゃん」
「設定した『マイライ』を指摘されることは、発言時点で『ウソ』か『本当』かに関わらず、必ず負けるみたいなのよ」
三ツ路は二人に向き直った。
「へぇ~。私、それ知らなかった~」
「ン? どういうこと?」
剣ヶ峰には、三ツ路が雨降りを確認した意味が即座には判らなかったらしい。
「前に、あるSNSユーザーの『フォロワー数が三千』って『マイライ』を設定したことがあったんですけど、プレイ時間中に偶然そのユーザーがバズって、千人ちょっとだったフォロワー数がちょうど三千くらいに増えてたことがあったんですよね。プレイ中に『ウソ』が『本当』になっていたんです。でも、プレイヤーは全員そのことを知らず、『マイライ』を指摘されて私、負けたんですけど、あとになってそのことを知ってこの仕組みに気付きました。ですから、例えば今、急に通り雨なんかが来てたら、『今日は雨』の『マイライ』は上手く切り抜けられたかもしれません」
「何言ってるか、わかんねえ……」
「……ま、最初に言ったことが全部ですね。『マイライ』を知られてはいけない。剣ヶ峰さん、もう少し注意力つけた方がいいと思います。私の『マイライ』は『プレイ時間が三分』。サービスですぐ発言してあげたんですけど、気づきもしませんでしたね」
「ぐ……」
心底悔しそうな顔の剣ヶ峰。
――相手のこの顔……得られる褒賞……勝った時のなんでもできそうな万能感。これがダメだったんだよね、きっと。
「じゃあ約束通り、富賀河に仕返ししてくれますよね」
「……わかったよ!」
剣ヶ峰は
着地先がソファだったから損傷はない様子で、ポン、と空中に跳ね返る。それを安芸島が見事にキャッチ。
「もう、ダーリン。カオルのスマホ投げないでよ~」
ぷぅ、と頬を
――とりあえず、やっとこ私の依頼は受け入れられたってことか……。
これであの富賀河にひと泡吹かせてやれるはず、と三ツ路はひとつ心のつかえが取れるのを実感した。
――なんてったって剣ヶ峰さんはあのKENグループの御曹子なんだから、きっとお金に糸目をつけず、アイツの鼻を明かしてくれる……。
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