お弟子、ナイスヘディング。

体育館の中とはいえ、まあまあ寒いですから、ランニングやストレッチなどのウォーミングアップを十分に行う。



それが終了するとまずは、2人1組になってボールを持ち、レシーブやトスの練習。




俺とお弟子も体育館のなるべく端っこの邪魔にならないところで、休み時間のお遊戯レベルでしかないバレーボールの受け渡しを何十回も繰り返す。



最初はアレだったが、何回かこなすうちに力加減が分かってきて、ある程度様になる。




それが終わると、コートの真ん中を仕切るネットをぎゅうぎゅうに張り直し、2組に別れてサーブの練習。



片方がコート端のライン際に並んで立ち、サーブを打つ。



そして反対側の組がコートに入って目の前に飛んできたボールをひたすらにレシーブする。



俺も高校時代のバレーボール部員に教わったナックルサーブをお弟子目掛けてひたすらに打ち込んだ。



左手で頭の上にボールを上げで、ジャンプはせずに右手の手の平の下の方。少し固くなっているところでなるべく回転を掛けないように押し込むように打つ。



もちろん、横にいる選手達に比べたらボールスピードもコントロールも威力も今一つだが、ネットの向こう側にいるお弟子の微妙なレベルの顔面にヒットするには十分だった。






「ししょー、覚えてやがれです!!」






顔を赤くしながら悔しがるお弟子を見て、周りの選手達から笑い声が上がった。






「新井くん。試しにBチームに入って試合形式の練習をやってみるかい?」




バレーボール部の監督さんが基礎練習が一段落したところで俺に声を掛けてきた。





「いいんですか? 練習の邪魔になってしまうんじゃ……」




俺はお弟子から奪い取ったスポーツドリンクで喉を潤しながらそい答えたらが、監督さんは笑いながら俺の可愛いおケツを叩く。




「大丈夫、大丈夫。控えチームに入るといっても、元の6人いるところに入ってもらう形だから。君はなかなか筋がいいし、十分運動能力でカバー出来るよ。………くれぐれもケガしないようにね」




「分かりました! それではお言葉に甘えて……」



レギュラーチームを相手に試合形式の練習か。




大丈夫かしら。




「ししょー、すごいですね! 私は見てるんで頑張って下さい!」




お弟子が俺の手からスポーツドリンクを奪い、背中を押した。





「AとBに別れてゲーム行くよー!25ポイントの2セットねー。……Bチームに新井さん入るけど、みんな遠慮なくやっちゃってー」




「「はーい!!」」




キャプテンの掛け声にレギュラーチームの選手達が俺に向かってネット越しに不敵に微笑む。






俺は今日、生きて帰れるでしょうか。





とりあえず、周りにデカイケツがいっぱいあるのでテンションは上がる。








「オッケー、ナイスブロック!!」



「いいよ、いいよー! どんどん散らしていくよー!」




「はーい、集中、集中!! クロスで狙ってくるよ!!」



いくらこちとら野球選手とはいえ、いきなりわりとガチな大学のバレーボールのゲーム練習にぶちこまれたら、ビクビクするだけで何も出来ませんよ。



いざ試合形式になると、それまでの普通の練習の時とは雰囲気も選手の気合いの入り具合も当然変わってきますから、試合が始まってしばらくは、横にいた控えチームの中では、特に1番おケツのデカイ選手の後ろに隠れていたのですが………。





「おーい、奥原ー! 考え過ぎるな! もっとシンプルにプレーしろ!」




「はい!!」





試合序盤、やはりレギュラーチーム優勢で試合が進む中、1番おケツがデカイ子、奥原ちゃんが監督に激を飛ばされるシーンが目立った。




身長は俺よりも15センチくらいは高い感じで、レギュラーチームの攻撃的な選手とひけを取らないくらいのガタイをしているし、スパイクにも力強さがあるように見受けられるのだが、なかなか思い通りのプレーが出来ない。





そんな印象だ。






そして次のプレー。




レギュラーチームから放たれたサーブが少し甘くなり、控えチームのアタックチャンスが訪れた。







上手くレシーブされて、セッターからのトスが奥原ちゃんの目の前に上がる。



奥原ちゃんはコートのアウトサイドから十分に助走を取り、タイミングを合わせてジャンプし、右腕を振り抜く。



ボールは2枚のブロックの上を越えて、相手コートに叩きつけられたのだが………。




僅かにラインの外側だった。





そんなプレーを見ていた監督がパイプ椅子から立ち上がる。





「奥原! みんなが繋いだんだぞ!決めるところはしっかり決めろ! ブロックを意識し過ぎるな!!もっと叩きつけろ!」





「はい!!」





奥原ちゃんは手の甲で額の汗を拭いながら、元のポジション。俺の横へと戻ってくる。





俺はいっちょ前に、彼女に声を掛けた。




「だいぶ監督に期待されているみたいだね。うらやましいよ。俺は誰からも期待なんてされてなかったから。


……大丈夫、大丈夫。君のバレー魂を相手コートにぶち込んでやればいいのさ。……ただ、がむしゃらにね」






「……は、はい……」






自分でも何を言っているのかよく分からない。







何かそれっぽいことを言おうとして、訳が分からなくなったやつだ。





しっかり耳を傾けてくれた奥原ちゃんも、は、はあ………。という少し困惑した表情をしながらも、ちゃんとそのデカイおケツでまた俺を守ってくれた。

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