新井さんは一体何をしているのか。
「おいっちに、おいっちに」
「おいっちに、おいっちに」
真冬の北海道。極寒自主トレ2日目。
ぐっすり眠って、ビジホのバイキング朝飯をこれでもかとバクバク食べて、今日も借りている銀世界の野球場にやって来て、雪の上をひた走る。
ぐしっ、ぐしっと固くなる雪の感触を噛みしめながら、お弟子と2人。おいっちに、おいっちにという掛け声でだんだん温まる自分の体を感じていた。
「今何周目だっけ?」
「9周目ですねー」
「よっしゃ、ラスト1周はダッシュなー!
そりゃー!!」
「ああっ、ししょー! フライングですよー!でも、負けるかー!」
ラスト1周に差し掛かり、俺の突然の思いつきダッシュにも、なんだかんだでお弟子は
俺のすぐ後ろを着いてくる。
俺の踏みしめた雪。俺の作った足跡をピッタリ追うようにして、お弟子は俺の背中をしっかりと見ている。
女子のプロ野球選手とはいえ、体力的なところ、運動神経というものに関してはなかなかのものなんじゃないかと思う。
俺がわりと不甲斐ない説があるかもしれないけど。
体は細身でまだまだ力強さは足りないが、磨けばどんどん良くなるかもしれないという可能性は十分に感じる。
まあ、ただやる気があるしつこいだけの子をお弟子にするつもりはありませんでしたし。
「ししょー、今日は何をするんですか?」
「今日ねー………かまくら作ろっか」
「かまくら? ……遊ぶつもりですか?」
上のジャージを1枚脱ぎながら、お弟子が疑いの目を俺に向ける。
「失礼な! 立派なトレーニングの1つだよ!」
「本当ですかぁ?ししょーもわりとサボりたがりですからねー」
「やってみたら絶対きついから。ほら、そこに雪かきのスコップがあるからとりあえず1ヶ所に雪を集めろ」
「はーい」
俺とお弟子はランニングでかいた汗の処理を簡単に済ませて、ベンチ裏に置いてあった雪かきスコップを握り、えいさほいさと雪をすくっては、それをすぐに放り投げる。
なかなかいいトレーニングだ。足場が不安定故にしっかり踏ん張らないと雪が持ち上がらないし、放り投げるにも腹筋や背筋周りの筋肉をしっかり使わないとすぐに腰が痛くなる。
気がつけばすぐに俺達はヒーヒー、ゼーハーと呼吸を乱しながら、かまくら作りに勤しんだ。
15分20分。一心不乱に2人でスコップをふるうと、1塁ベンチ前に、俺の背丈よりも高い雪の塊が出来た。
それをぺったんぺったんスコップの背で叩いて固めながら、三角形っぽくなるように形を整える。
そして後はその雪の塊をひたすらに掘りまくった。
「出来たー!」
「出来ましたね!思ったよりも結構頑丈っぽいですよ!」
開始からおよそ1時間。初めてにしてはなかなかのかまくらさんが出来上がった。形も大きさも申し分ないぞ。
早速中に入ってみる。
お弟子の体と切に密着し合う。
「なんで一緒に入ってくるんだよ」
「ししょーこそ邪魔ですよ!私の方が頑張っていたんですから、少しは遠慮して下さいって」
「何を!少しはししょーを敬う気持ちを持ちたまえ!」
激しいポジション争いを繰り広げながら入り口をくぐる。
当たり前だが中も真っ白。しかしなんだか、ちょっとした感動があった。
「結構広いですねー! ほら、私は楽勝で立ち上がれますよ!」
お弟子がかまくらの中で立ち上がり、調子に乗って両腕を上に伸ばす。
その腕がかまくらの天井部分を豪快に突き破った。
そして彼女はその腕を勢いよく戻す。
ドサドサドサッ!!
せっかく頑張って作ったかまくらが脆くも崩れさった。
かまくらの中で胡座をかいていた俺の体は一瞬にして冷たい雪に覆われる。
もう何も見えない。
「ししょー、生きてますかぁー!?」
「いいから早く掘り出してくれ」
「そんなに慌てなくても、ししょーは今のプロ野球で1番の掘り出し物ですよ!」
「早くしなさい、バカお弟子」
「北関東ビクトリーズのイケメン担当、新井時人であります! 彼女はいません!好きな食べ物は唐揚げです!よろしくお願いします!!」
「鍋川麻理子です!! 20歳です! これでも一応私もプロ野球選手です! す、好きな食べ物はお刺身です! よろしくお願いします!」
極寒の北海道自主トレ3日目。俺とお弟子は、札幌市内のとある体育館に来ていた。
そこには、とある女子大学のバレーボールチームがいて、俺より背が高い選手が何人もいて、太ももムチムチのJDバレーボール選手達がズラリと並んでいた。
俺の自己紹介は…………まあ、ちょいウケ。初対面の女の子達相手と考えれば、そこそこの結果である。
「「よろしくお願いしまーす!!」」
と、セッターであるキャプテンの掛け声総勢15人程の選手達のピシッと揃った挨拶をいただきまして、午後1時練習が始まる。
今日はこの北海道・東北大会でベスト4に入ったというバレーボールガールズの練習に混ぜてもらう格好。
このバレーボールチームの監督さんが栃木県出身で野球もお好きな方ということもあって、俺の無理なお願いを聞いてくれた形だ。
まずは体育館の中をランニング。俺とお弟子も集団の最後尾について走り始めた。
そういえば、お弟子はお刺身が好きだったんだね。
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