俺の名はフェニックス新井

試合は1セット目の中盤。



北海道・東北大会でベスト4に入ったチームのレギュラーに対して、下級生中心の控えチームがなかなかの大健闘。



リードを奪って試合の主導権を握るまではいかないものの、2点差3点差というところでなんとか踏み留まっていた。




しかし、レギュラーチームもそんな試合のままズルズル行くつもりもなく、強力なアタッカー陣をキャプテンのセッターが上手く操るようにして攻撃を活性化させていく。





試合は15ー12。次の1点が大きく試合の展開を左右しそうな場面。





そんな中、俺はそのレギュラーチームのセッターの癖を1つ見つけた。




それは、トスを上げる時と、いわゆるツーアタックを仕掛ける時のジャンプの仕方が微妙に違っていたのだ。






トスの時は正確なボールを上げるために、両足がきれい揃いながらジャンプしているのだが、ツーアタックの時は鋭く体をひねってボールを叩き落とすために、僅かながらこちらに近い足が一瞬高く早く上がる。




その時だけは、相手コート側から見ると、セッターの子の美味しそうな膝っ株が2つ見えるのだ。





そして今、レシーブされたボールの落下点に入ったセッターの子の膝が………2つ見える。





さらに俺の目の前には、ブロックの陣形を取ろうとする控えチームの前衛の間に出来たスペースがあった。








俺はその空いたスペースを埋めにいった。誰にも悟られないようにこっそり。



相手チームにはもちろん、味方チームにも気付かれないようにポジションを変えた。




その次の瞬間だった。




相手セッターがトスを上げるフリをして、体をこちらに向かってくるっと回転させながら、ボールをバシッと叩く。





「ツー!!」




後衛にいたこちらの控えチームの誰かがそう叫んだ。




そんな中、その声とボールに反応したのは、このコート上でただ俺だけ。




俺だけが唯一そのボールに反応して、頭から滑り込む。




そんな光景を見てこのとある大学のバレーボールチームは何を思っただろうか。




朝来たら突然どこぞやの野球選手と名乗る身長170センチの童貞男がししょー、ししょーとやかましい女を連れて練習場に現れた。



なんでこの人が練習に混ざっているんだろうとか、邪魔だなあと思っていた子もいることだろう。




しかしその男が、チームのエースセッターが今日初めて放った渾身のツーアタックに対してダイビングレシーブ。



広げた手の甲のギリギリでそのボールを拾った。


かなり衝撃的な光景。




しかもその拾ったボールを繋いだ攻撃で、今日も不調だった奥原さんのスパイクでポイントを奪った。



さっき声を荒げた監督も思わず唸る見事なスパイク。両チーム合わせても、今日1のスパイクだったんじゃないかなと。


レギュラーチームのリベロの選手を吹き飛ばしていたからね。



レギュラーチームに流れがむきそうな局面をなんとか押し返したのだ。









「おらぁ!!」





その後俺は味方のコートに落ちそうなボールに対して果敢にチャレンジした。




もちろん、バレーボールなんて学校の体育でちょこちょこっとしたやった経験しかないので、こんな大学でバリバリやっている太ももムチムチ軍団相手に、スパイクはもちろん味方の選手にトスなんてものも上げられるはずもない。




俺が出来るのは味方がレシーブミスしたり、ネットに引っ掛かりかけたボールに対して飛び込むことくらい。




元はいるはずのない7人目の人間としてコートに立っていて、普通なら落ちているはずのボールに対してだけ手を伸ばしているのだから、気楽にプレー出来ていたのもよかったのかもしれない。




さっきのツー!! の時みたいに、俺が拾うボールが1つ、2つ、3つとなってくると、レギュラーチーム優勢だった試合展開がだいぶ怪しくなってくる。



レギュラーチームと控えチームにある実力差がだんだんとポイント差には表れないような空気にもなり………。23ー22。1セット目の終盤。




レギュラーチームのリードが僅か1点となったところで………。





ドバシャ!!






ボールが破裂するんじゃないかというくらいの物凄い音がして、レギュラーチームの選手が強烈なスパイクを打ち込んできた。





そのボールが奥原ちゃんのところへ。






バシッ。




「あっ!?」



見事なレシーブミスでボールが壁際に座る監督さんの近くへ飛んだ。








「うおおおぉっ!! 俺に任せろおぉっ!!」




俺はそう叫びながらそのボールを追う。




奥原ちゃんのデカイおケツ元から低い姿勢のまま飛び出し、コートのラインを越えて、椅子に座る監督さんをジャンプで飛び越える。




しかし、頭から飛び込んだのではコートまでボールは返せないと判断し、一か八か足でボールを蹴っ飛ばすことにした。



足からスライディングする要領で、爪先を上に向けるようにしてボールの落下点に入り、足を振り上げた。



足首の辺りでボールを触ることに成功。



するとボールはギャル美のお尻のように綺麗な弧を描くようにして、控えチームのコートのど真ん中に返った。





そのボールはレギュラーチームのチャンスボールになり、きっちりレシーブされ、トスされ、また強烈なスパイクが飛んできたのだが………。




ドバシャ!!



ドゴン!!




奥原ちゃんがこれ以上ない見事なブロック。




ブロックエリアをずらされて、やや斜めに飛びながらの1人きりブロックだったけど、左手でバチコンとドンピシャで相手コートにはたき落とした。




そんな彼女がブロックした後、反射的に俺の方を見た。





俺は壁際で、折り曲げた座布団の上に寝転がってテレビを見ている休日のお父さんポーズで、ぐっと親指を立てた。












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