競馬で勝ったお金が浄化されていく………!

「まあ、京香ちゃんの元カレはさておき、そもそもみんなの卒業旅行のためのお金を京香ちゃん1人に預けっぱなしにしてしまったことも、みんなにはしっかりと反省してもらいたい。




5人はそれぞれ自分の故郷からこの宇都宮にやってきて、不安や期待に胸を膨らませながら女子大生としての生活をスタートした中で。



仲良しの友達が出来て、その時のノリで、4年生になったら卒業旅行をしようと。今からみんなでお金を積み立てていこうよという話になったんだと思うんだけど……。




みんなも大学のお金を払ったり、アルバイトをするようになって分かったと思うけど、お金を管理するのってすごく大変じゃない?




お金をわざわざこれ見よがしに積み立てるまでもなく、調べればすぐに旅費なんてどのくらいか分かるし。



目標の金額を設定して、1人1人がそれぞれ自分でお金を貯めればいいだけだし、通帳を作ってそこに積み立てるにしても、1人に頼りっぱなしにするんじゃなくて、順番に管理するとかやり方は色々あったと思うんですよ。




いずれにしても、5人の中でいくらしっかり者だとはいえ、京香ちゃん1人に管理と責任を押し付けるような形になってしまったことは、みんなに反省してもらいたい。これはしがない野球選手からのアドバイスである」





「とまあ、俺からのお説教というか。お勉強会はここまでで………」





俺はそこまで話して、結露も浮き始めていたアイスティーを一気に飲んで喉を潤す。




そして、肩掛けのバッグをごそごそと漁りながら今までとはまた違う、少し明るいトーンで話を切り出す。





「まあ、ボクちゃんは運よく野球選手になれた人間でして、所属する北関東ビクトリーズには、専属の弁護士先生という人がいらっしゃいまして。



その先生に相談しましたら、お金を持ち逃げしたその人の所在が分かりまして………。別に今から殴り込みにいく訳ではないんですが。




結論から申しますと、皆さんの旅行の積み立てていたお金。およそ50万円は戻ってくる話になりまして……」



俺がそう言った瞬間、5人の女の子達の頭にびっくりマークが出たのが分かった。





「あ、新井さん! 本当ですか!? 本当にお金が返ってくるんですか!?」




ポニテちゃはまるでサービスするように、にじるよるようにして、俺に詰め寄る。




「さやかちゃま。落ち着いて。弁護士先生の話では、彼も今回ばかりはかなり反省しているようで、金輪際京香ちゃんには近寄りませんと誓った上で、お金はなんとかしますという話なんだけど。



………もちろん今の彼にそんなお金は用意出来ないだろうし、親族さ誰かが立て替えてくれたとしても、弁護士を2人通した話ですので、ちょっとばかし時間が掛かるのは明白であります………」





「それじゃあ、私達の旅行は………」




俺の左隣のアミちゃんが虚ろな目をしながらそう呟いた。










「…………がしかし! そんなことで君たちの4年間の大学生活の集大成である卒業旅行が中止になってしまうのはあまりにも忍びないというわけで………。


今日、チミタチが午前中大学に行っている間に、わたくし野球選手が、朝イチで銀行に行きまして、なけなしの50万円ばかりを下ろしまして……。



すぐそこの旅行代理店に行きましたら、ちょうど若い女の子グループ向けの沖縄旅行プランが締め切り間近でして、出されたチョコチップクッキーを食べながら、スパーンとお金を払いまして……」





俺はそこまで話して、カバンをがさごそして出した1枚の控え用紙を彼女達の視線が集まるテーブルの上にパシーンと突き出した。




「わたくしの勝手な判断で、旅行の支払いと申し込みを済ませてきました! 日程は当初君たちが予定していた1月末日から5泊6日。 はい、これ注意事項とか書いてある紙とパンフレットを1人1枚ずつね」






「………あ、あ、新井さん!!」




配ろうと広げたパンフレットが数部宙を舞う。




そのくらいすごい勢いで、ポニテちゃんが俺に抱きついてきた。






そりゃもうその豊満な胸元をぎゅうぎゅう押し付けて。






その瞬間、睨み付けるようなみのりんの姿が何故だか脳裏に浮かびました。









「新井さん、ありがとうございます!」




「本当にありがとうございます!!」





「もう新井さんが大好きです!」




「新井さんなしでは生きていけません!」



ポニテちゃんがカバァ!と、押し倒す勢いで来ると同時に、他のお友達からも感謝感激あめあられ。



さすがにその場で服を脱ぎ出すような子は残念ながら見受けられなかったが、中止を余儀なくされた沖縄旅行の復活により、女子大生5人組は、大盛り上がり。




周りにいたお客さんや店員さんが何事やと、しばらくこっちを見ていたくらいの大盛り上がりだ。







しかしそんな中、事の発端となってしまった京香ちゃんだけはハンカチに顔を埋めるようにして大号泣。





涙やらなんやらを顔をグシャグシャにしながら、すみませんすみませんと、ずっと俺に頭を下げ続けていた。




「…………ぐすっ、ほんとうにっ、ほんとうにっ、ありがどうございまず!! なんと、なんと言ったらいいかっ………」




「わたしも……わたしも……ごめんなさいー………」




と、ポニテちゃんも泣き出してしまった。




ここに来てのもらい泣き?めんどくせ!




と思っていたら、綾子ちゃんがポニテちゃんの頭を撫でる。





「いいって、いいって! その代わり、5人でちゃんと仲良く沖縄旅行を楽しんでくること。……それが俺との約束だ」





俺は最後に目一杯カッコつけてそう言った。






競馬で当たった泡銭だとはもちろん言いませんとも。




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