だから売れへんねん

「おたくの相方さんはだいぶ緊張していますね。ツッコミなんですから、もっとしゃきしゃきとしてくれないと、ボケにくいですよね」





俺がそんな風に話し掛けると、ボケの方はようやくマイペース気味に口を開く。



「すごい緊張してましてね。それに最近は浮気が奥さんバレまして、子供連れて実家に帰っちゃってるんですよ」




「それはダメだね。カミカミで当然ですわ。通りでもう、台本も頭に入ってないみたいだし、ちゃんとして欲しいですよ。


なんで野球選手で、テレビが初めての俺がこうやって話振って場をもたせてるわけ? だから漫才もコントもイマイチ………」




ワナワナとした様子で聞いていたツッコミの方だったが、浮気がバレたと聞いて高笑いした俺を見て持っていたパネルを床に滑らせるように投げ捨てた。





「寿司食わないなら止めようか!?」








と言って、ツッコミの彼は怒った様子で立ち上がったので、俺は慌てて床に落ちて角が少し欠けたパネルを拾い上げた。



ここは相方に拾わせるよりも、俺が慌てて拾いにいった方がいいと、頭が働く。



これは台本とかではなく、流れの中で産み出したダブルプレーのようなものだ。



「いやいやいや! ごめんなさい、ごめんなさい!やりましょう!やりましょう!次はなに食べよっかな〜!」







ロケの前半でいくつか盛り上がる場面が作れたのど、とちおとめんずの2人とアナウンサーが俺のキャラクターというか、扱い方みたいなものを掴んてくれたおかげもあって、収録はスムーズに進んだ。



俺が気をつけたのは、常に美味しそうに、出来るだけお上品にお寿司を頂くということ。





寿司を食べれば食べるほど、皿をひっくり返して年俸を加算出来るが、お腹いっぱいなのに無理して食べる様子なんて見苦しいだけじゃない?



後は、場所と時間を頂いたあんこう寿司さんの寿司は美味い! と、褒め称えまくることくらいですかね。




だから、それだけは止めようと心に決めて、間でトークをしながら、クイズに答えてアナウンサーに1皿選んで食べてもらったりしながら、いよいよ決められた制限時間いっぱいになってしまった。





そして、ゲームパートの最後はとちおとめんずの2人と、俺がCMもやっているスマホ用プロ野球アプリ、マイプロでの対戦であった。




スタッフのお兄ちゃんがさささと現れてケーブルやらなんやらが色々付いたスマホを2台用意した。





「とちめんの2人はこのゲームやったことあるの?」





俺がそう訊ねると、ここまで全然見せ場のなかったボケの方が急に楽しそうに喋り出した。








「マイプロはねえ、リリースされてから毎日3時間くらいは必ずプレイしてますけど、まあ楽しくて仕方ないですね! 毎週毎に新しい選手が追加されていくんですけど………練習や試合でどの選手を強化していくかが悩みどころなんですよ。



課金してもなかなかプロの選手は当たりませんし、当たっても上手く育成しないと、その選手のポテンシャルを十分に引き出すことは出来ません。



逆に同じ選手でもプレイヤーによって能力が変わっていくんです。



例えば新井さんはミート特化型の選手ですけど、育てる前にマイプロオーブを使って、能力上限を上げてやると、本来ならギリEまでしか上がらないパワーをさらに上げることが出来るんです。


そのオーブにも成長曲線があって、どのくらいの伸び率になるかは使ってみないと分からないからドキドキなんですよ!」




などと、急にイキイキと楽しそうに語り出し、相方の彼に、漫才じゃなくてゲーム開発した人間なんかとツッコミを入れられる始末。





そんなこんなでだいぶやり込んでいるボケの彼とマイプロの対戦モードで3イニングの勝負。



初回に俺は先制を許すも、ボケの彼は分からんように上手く打たしてくれたおかげもあり、3ー2の逆転勝利。




最後に2皿頼めるチャンスと、高額皿についてのヒントを得ることが出来た。







「それではお待ちかねの高額皿のヒントはこちらになります。………じゃーん!」




アナウンサーがカードを裏返すとそこには、栃木県の名産品と書かれていた。




「栃木県の名産品? ……ほうほう」




俺は提示されたヒントを見て、改めてお品書きに目を移す。




栃木県は周りを他の県に囲まれたいわゆる海なし県ですから、そんな場所の名産品と言われましたら、だいぶ絞られるわけですよ。




海産物は無くなるわけですから。中には、内陸部でも養殖出来るようなネタもあるかもしれないけれど。




俺の知力で分かるか定かではいそれにわざわざに高額プレートを付けるとも思えない。





たまごとサラダ軍艦は既に美味しく食べましたですしね。





すると、2つだけそれっぽいのが残る感じになった。



「これはサイドメニューとかデザートからも注文していいんですよね?」




と、一応それとなく聞いて見ると、アナウンサーがコクンと頷く。




「もちろん! お好きなものを注文なさって下さい」





それは、かんぴょう巻きとデザートにある、とちおとめを贅沢にしようしたイチゴパフェである。




俺は一応CMを挟んだり出来るような編集点を作り出すために、その2つを悩んだ挙げ句感を出してタメを作った後で、意を決するようにして注文した。







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