1番最初はサーモンな新井さん
「それでは、回転寿司DE契約更改スタートです!!」
アナウンサーがそう宣言すると、横あるデジタルカウンターが動き出す。これが0になると契約更改は終了というわけね。
と、ここで1つ素朴な疑問。
「あの、これって、うちの球団はオーケーしてます?」
アナウンサーでもなく、とちおとめんずでもなく、なんとなく全体的にそう訪ねました。
すると、しゃがんでいたディレクターがカンペにマジックを走らせる。
(ビクトリーズさんからオーケー頂いております。アメリカにいらっしゃるオーナー様からも球団代表からも頑張って、新井くん! トレインスシ!と、メッセージがありました)
もうダメだ。うちの球団は。俺の契約更改をなんだと思ってやがる。
「それでは新井選手、まずは1皿目のご注文をお願いします」
アナウンサーが急かすように俺に告げる。
おしぼりで手を拭きながら、俺はしぶしぶお品書きに目を移す。
まぐろに中とろにサーモンに。うに、いくら、穴子、大洗のあんこう寿司っていうくらいですから、特製あんきもポン酢なんてのもありますわよ。
「それじゃあ………炙りサーモンをお願いします!」
なんやかんやありましたけど、とりあえず1皿食べて下さいみたいな雰囲気になったので、俺はすんごく美味しそうに見えた炙りサーモンを注文した。
「新井さんは、お寿司はお好きですか?」
「そりゃもちろん! 結構シーズン中も、試合前に回転寿司行ったりしますよ」
「普段はどのくらい食べられますか?」
「普段は………ささっと食べる時は10皿くらいで、ゆっくり楽しむ時は30皿くらいですかね」
「さすが野球選手ですね! 今日は思う存分召し上がって下さい」
なんて当たり障りのない会話をアナウンサーとしていると、目の前にいた職人さんが俺の目の前のレーンに炙りサーモンの乗った寿司皿を置いた。
美味しそう!!
「それでは………いただきまーす!!」
普段通っているお安い回転寿司のとはまるで違う。そりゃあ低価格帯の寿司ネタでも倍くらいの値段なのだから当然ではある。
お箸で掴むと1貫でも重みを感じる炙りサーモンを早速いただく。
お口の中に程よいサーモンの脂が広がり、その上でシャリがほどけていく。
「美味しい! 最高!」
俺は親指を立てながらそう言って、2貫目のサーモンもいただく。
1つ1つのネタが大きくてなかなかの食べ応えだ。
これはさすがにそんなたくさんは食べられない。
「新井さん、それでは炙りサーモンで年俸はいくら上乗せされるのでしょうか! お皿の後ろをご確認下さい! ……どうぞ!!」
食べたから普通にスイッと邪魔にならないところにずらそうと思ったところでそういう企画なのを思い出した。
両手で皿を掴み、ちょっとタメを作ってカメラに見えるように顔の前辺りで裏返した。
寿司皿の裏は小さな長方形の白いプレートが貼り付けられており、そこには100万円と書かれていた。
「100万円!? やったぁ! ………ん? やったぁなのか?」
俺は一瞬で疑問に思ったが、とちおとめんずのツッコミが教えてくれた。
「新井くん、100万円は最低金額ですね」
「じゃあ、全然やったぁじゃないですね」
「そうですね。もっと高額のプレートが付いた寿司ネタを引き当てないと年俸は上がっていかないですよ」
「なるほど」
「改めてまして、今回の回転寿司DE契約更改のルールを確認させて頂きますと………」
さっきは俺がこの人達は誰でしたっけ? という話になってしまったので、ツッコミの方がルールやらなんやら書かれたパネルをまた取り出して説明を始めた。
ど地方とはいえ、お久しぶりのテレビなのにタイミングを外してしまって申し訳ない。
「まあ当然なんですけど、1度選んだ寿司じゃら……」
「え? いきなり噛んだの?」
俺は湯飲みに注いだ熱いお茶を啜りながら、はい、やっちゃった。という顔を向けた。
ツッコミの彼はそれに対して手の平を見せながら、恥ずかしそうにして話を進めた。
「同じネタもう選べませんので、その都度ですね。違うネタで年俸を加算してもらうわけなんですが、これだけの寿司ネタがありますから……。
ノーヒントではなかなかの難しいと思いますので、定期的にクイズなどに挑戦して頂きまして、成功すれば高額ネタのヒントをしゃしゅ………あげましゅので………」
えぇ…………。またやりやがった。あとちょっとだったのに。
俺も始めてのTVショーなんだからちゃんとして欲しいわよね。こっちまで緊張してくるからね。
しかし、こうなってもまだ笑っているだけで何も喋ろうとしないボケの方に話を振った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます