30分のつもりだったけど、1時間プラス翌週未公開で2週いけるな。と、ディレクターが呟いた。

「お待たせ致しましたー! かんぴょう巻きです!」




目の前の職人さんが俺の目の前にかんぴょう巻きの乗った皿を置いた。



茶色のしっとりとした色あいのかんぴょう巻きが6個。





俺はパクンパクンパクンと、まるでギャル美の乳首を摘まむようにして、あっという間に平らげる。



決してかんびょう色だとか、そういう意味ではない。



「いい浸かり具合だ。さすがは栃木のかんぴょうですね!やっぱり栃木人はこれを食べないとですよね!」





「それでは新井選手、お願いします! かんぴょう巻きのお皿はおいくらのプレートなのでしょうか!?」




ちょっとまたタメを作るようにしてから、皿をひっくり返す。





「おっ、きたっ!!500万円!」





「なんと出ました最高額の500万円! これで合計は………2500万円になりました!」





「すごい、すごい!」




あんまり実感は湧かないが、とりあえず本日最高額を引き当てたということで俺は手をパチパチさせて喜ぶ。




スタッフやあんこう寿司の店員さんからもらった拍手も止むと、とちおとめんずのツッコミの方が率直ながら、なかなかに答えにくい質問をぶつけてきた。




「ちなみに新井さんは、ご自身で来年の年俸はどのくらいが妥当だと思われます?」






「それ、聞いちゃいます?」




「はい」






お金の話になると人間とは意地汚いもので、とちおとめんずのツッコミが年俸がどうのと口にした瞬間、今度また別な感じで現場の空気が変わった。



俺の右側に座るアナウンサーも、ゲームの話以外何もしないボケの方も、俺の顔を食い入るように見つめる。




目の前にいる撮影スタッフもそう。壁際にいたディレクターはカメラに入り込まないギリギリの位置まで来てしゃがみ込み、カメラマンも、カメラに向けていた視線を直接俺の方に移す。



テーブルに座っていると見えない位置にいた、パネルやゲームをしたスマホやらなんやらを準備したり片付けしたりしていた、野球なんかあんまり興味ありまん顔をしていたADっぽい女の子も。



今やずっと着けていたイヤホンを耳から外して、そんな近くに居ましたっけ?と思ってしまうくらいの所でじっと俺の方を見ている。




寿司職人のおじさんも何かしてるフリしてこっちの話を聞いている。


さらに、寿司皿が回るレーンの内側の遠くの方で俺が頼んだイチゴパフェを盛り付けていた店員さんも、いつの間に1番近くの調理台に移動してきていた。






みんな目の色変えちゃって。言わないと、どうなるか分かってるよな? みたいな、禍々しいオーラを俺に向けている。









「正直、どのくらいが相場なんだろうと、シーズンが終わった時に、過去の選手の年俸推移とかを調べてみたんですけど、前例がないんですよね。



28歳になるシーズンにドラフト10位でプロ入りして、最初は2軍で細々とやっていましたけど、終わってみたら首位打者レベルの成績を残して、打率も4割を越えていて、でも、シーズンではホームランは1本もなくて………。長打も少ないですし……。




シーズンの頭からずっと試合に出れていたわけではありませんけど、まあ成績通りにはチームに貢献は出来たかなと。若手だけの日本代表にも選んでもらえましたし。




とはいえまだ1年目で。でも、年齢は来年29歳ですから。しかしでも年俸が320万ですからね。


すごい頑張ったからいきなり5000万円! というのは違うし、まだ1年目で規定打席にも届かなかったから1000万円ね。というのも違いますよね




全てにおいて前例がなくて、もしかしたら球団の方も困り果てた上で、今回の企画が生まれたんじゃないかとも思いますし。




つまりまあ、今のかんぴょう巻きで………2500万円ですから。もう1枚500万円を引き当てて3000万円がちょうどいいんじゃないかと思います。




でも、もちろんそれ以上くれるなら、喜んでもらいますよ」








そんなお金の話をちょこちょこっと話しながら待っていた。



俺だけなんか給料に関しての話をするのは不公平だと暴れまわりながら、地方局のアナウンサーやちょびっとテレビやラジオに出ているお笑い芸人がちょうど横にいますから。



今の収入はどのくらいなのかと、車やゲーム機が買える台数に例えたりしながら場を繋いでいた。




「お待たせ致しましたー! 特製イチゴパフェでーす!」





「おおー! 結構デカーイ!」




お寿司屋さんの480円のパフェだから、ちょっとこじんまりした器かと思ったら、ファミレスとかで見るくらいのわりと大きい波打ったグラスに入ったレギュラーサイズのパフェが登場。



栃木県産のとちおとめをふんだんに使い、赤と白のマーブル模様のアイスクリームに生クリームがこれでもかと。



とはいえ試合中のちょっとした隙にも、100円アイスを1本ペロッといっちゃうくらいに、野球界1のアイス好きを自負していますから。


大粒のイチゴに甘酸っぱいジャム。そこのコーンフレークも、1番上にぶっ刺さっていたチョコレート菓子まできれいにペロッと頂いて、せーの! でパフェが乗せられていたお皿をひっくり返す。




プレートにはかんぴょう巻きに続いての500万円を見事ゲット。




目標額っぽくなっていた3000万円にちょうど到達し、タイムアップ。






回転寿司DE契約更改とかいう謎の企画が終了となった。








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