お散歩みのりん

「ねえ、外を散歩しに行かない?」





そう言ったのは、意外にもみのりんの方だった。





俺もなんとなく同じ事を言うチャンスは伺っていたのだが、晩ごはん食べたお腹をもう少し休ませてからとか、ギャル美が寝てるからとか。




そんなことを考えて、2ボール0ストライクから、甘めのボールを1球見逃すようなくらい慎重になっていた。




その隙にみのりんがまさかのホームスチールをかましてきた格好。




もちろん俺はその提供に了承する。むしろ、同じ考えだった。同じ感覚だったんだと、嬉しくなるくらいだ。




「着替えるから、こっち見ないでね」




みのりんはそう言ったが、俺が返事をする前には浴衣の帯を解いてシュルシュルと言わせながら既に脱ぎ始まっていた。




もしかしたら、少々くらいはちらっと見て欲しい願望が彼女にはあるのかもしれない。



2月くらいから一緒に過ごしてきて、お風呂上がりの薄着な姿とか、夏場の半袖短パンとか。


テーブル越しや、立ったり座ったりなどの何気ない胸チラなんかはありがたく頂戴したりはしている。



そのせいか、死ぬほどみのりんの半裸を見たいかと言われたら、そこまででもないので、かといって全く見ないというのも失礼に当たる気がしたので、姿見越しにちょっとだけ拝見するだけに留めておいた。





「よし、行くかー」




「うん!」





12月のもう夜遅く言える時間ですから、暖かい服装に着替えて、ホッカイロをシャカシャカモミモミしながら、ギャル美を起こさないようにゆっくりと部屋を出てカギを閉める。




「マイちゃん1人で大丈夫かな?」




「大丈夫っしょ。何かあればケータイに連絡してくるだろうし」





そんな話をしながらスリッパをペタペタさせながら旅館の廊下を歩く。



玄関近くの遊技場からは、とちおとめガールズ達が、卓球かダーツでもやっているのだろうか、賑やかな声が聞こえてくる。





そんな中、靴に履き替えて、自動ドアをウイーンとくぐって、俺とみのりんは鬼怒川の夜の世界へと飛び出した。





と言っても、色々発展した関係になりそうなきらびやかな何かがあるわけでもなく、鬼怒川なので、他にも温泉旅館やホテルが4、5件見えて、普通に住宅街やマンションがあって。




強いて言うなら、カラオケボックスやスナックやバーが数件あるくらい。後はコンビニの光がポツポツ。




道路も数分に1度、車が走り去っていくくらい。




その分、鬼怒川の流れが見えて、森林が風に揺らされる自然の音が聞こえて、何より見上げれば満天の星空が堪能出来る。





しかし、隣にみのりんがいれば、俺はそれだけで十分だ。





とか言ったりして。










「お、あの場所なんかよさそうだね。川のせせらぎが聞こえてきそうだ」




旅館出て10分ほど。何気ない会話をしながら、街灯に従うように歩を進めると、昼間通った鬼怒川橋の横にちょっと寝転がれそうな川のほとりを見つけた。




橋を渡って、歩道を跨いで、斜面を転げ落ちないように少しだけ川に近いところに降りた芝生の斜面。



俺はそこに少し間を空けるようにして、ちゃっかり持ってきていた新聞紙を2枚広げた。



そのまま寝転んだりしたら、服に色が変わり始めた芝生がついて面倒なことになるからね。取れる好感度はしっかりゲットしていくという姿勢。



普通に芝生の上に座ろうとしていたみのりんが、暗闇の中でも分かるくらいに感激の眼差しで眼鏡を光らせた。



まるで妖怪のように、ギラギラと。



「新井くん、さすが! 準備いいね!」





「当たり前だろ? 4割打者だぞ」




俺はカッコつけてそう返し、夜空を見上げるようにして、新聞紙の上に寝転がる。




するとみのりんは、間を空けたもう1枚の方の新聞紙を俺の体の方にピッタリ寄せてから、ゴロンと寝転がる。




新聞紙の擦れるような音もしなくなると、川のせせらぎが聞こえ、星空が見えるだけの2人きりの世界になった。



彼女が少し赤くした頬。寒さの中にじんわりと広がる真っ白な吐息をすぐ側で感じられる。







「山吹さん。あれがいわゆる冬の大三角というやつだね」



「そうだよ。下の明るいのが、おおいぬ座のシリウス。右上がオリオン座のベテルギウス。左がこいぬ座のプロキオンだね。………さらにそれを囲むように冬のダイヤモンドと呼ばれるものがあって………」




なんとなく唯一知っていた冬の大三角なんて言ってみたら、それを呼び水として、みのりんの星空教室が始まってしまった。



1つ1つがなんと呼ばれている星なのかとか、地球から何光年離れているとか。そこまで詳しくは求めていなかったのだけど。



こんな星がよく見える夜に男女がしっぽりこっそり外に出ているわけですから………。




星が綺麗だね。




ああ。でも、君の視線は100万ボルト。地上に舞い降りた儚き天使さ。



とか言おうと思ってたのに………。





「あれがふたご座のβ星のポルックスで、あれがおうし座のアルデバランで………それで少し左に見えるのが」




などと、みのりんのギャラクシー談義が止まらないので、俺もささやかな抵抗。





「…………ぐがー、ぐがー!」






「ちょっと。新井くん、聞いてる?」





「うん。聞いて…………ぐがー、ぐがー!」





「ちょっと!」




「ひゃあん!」




じれたみのりんに初めてほっぺたをむぎゅっとされました。





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