ちょっと胸に当たった瞬間が、1番みのりんは喜んでいたように見えた。

シメのラーメンを頂いて。お弟子が俺達のテーブルに遊びに来て、3人の母校である雀宮女子高校の話で盛り上がったり。



最後にフォンダンショコラ的なデザートのも堪能して、一緒に写真を撮りましょうと言ってきたとちおとめガールズのみんなとの集合写真を撮って、俺達3人は部屋に戻った。




部屋に戻るなり、用意された布団にばふーんと大の字になったギャル美。




「いやー、エステもしたし、美味しいお肉いっぱい食べたし、満足! 満足ー!! 後はポニーレースさえ見れたら完璧だったけどねー」





まだ言ってるんだ。そんなに見たかったのかねえ。




「私もポニーちゃんのレース………というより、新井くんが実況しているところ見たかった」




多少酔ったせいもあるのだろうか、みのりんまでそんなことを言い出す。




「まあ、牧場の人に聞いたら、何日かしたら、yourtubeにレースの動画上げるって言ってたから、そこで見れるかもね」



「そうなの? じゃあ、動画がUPされてたら、ちゃんとあたし達に教えなさいよ」





「あっ、俺が探しとく感じなんだ」





「当然でしょ」





当然なんだ。






「そういえば、とちおとめガールズの中にも、鍋川さん以外に雀女出身の子が結構いたよね。……私とマイちゃんの担任の先生を知ってる子も結構いてびっくりしちゃった」







「雀宮女子は、栃木県に2つしかない女子の硬式野球部がある学校だからね。そこで活躍して、地元のとちおとめガールズに入団するっていうのは自然な流れだろうね」





現在、女子プロ野球リーグに加盟しているチームは6チームだけ。



ドラフト会議のような制度はまだなく、秋口辺りに6球団合同のプロテストみたいなものがあって、どの選手もそこをパスしなければプロの道が開けることはなく、入団するには学科試験や面接を行う球団もある。




それに、女子プロ野球選手の月給は17万円ほどで、基本的には球団ごとに寮生活。中には球団に許可を得て試合や練習の合間にアルバイトをしている選手もいる。




遠征もほとんどがバス移動。それも、相手チームの本拠地だけではなく、数チームが集まって、午前、午後、夜と1日2試合こなしたりという日も多い。



味方チーム相手チーム関係なしで資金を出しあって春先や秋は合同練習をしたり、駅前や繁華街でPR活動をしたりと、日々行う地道な活動も女子プロ野球選手にとっては大切だ。




そんな努力も実り、今シーズン、6球団の平均観客動員数が初めて1000人を突破したてのこと。




とつも恵まれた環境とは言えないかもしれないが、これからもリーグ全体で協力し合って女子プロ野球を盛り上げて欲しいし、そのために同じプロとして、俺に出来ることがあればどんどん力になってあげたいですね。





そんな話もしながら、部屋でゆっくりくっちゃべっていると………。





「かー………かー……」




ギャル美がイビキをかきながら気持ちよさそうに眠ってしまった。




乱れた浴衣姿。胸元をパカーッと開いてピンクのブラがお目見えしていますし、股もガバーッと開いて、かーかー言いながら寝てますよ。





「最近、仕事が忙しかったみたい」




みのりんははだけたギャル美浴衣を整えながら、ゆっくり掛け布団をかぶせる。





「イラストレーターって大変そうだもんね」






「そうだね。でもマイちゃん言ってたよ。今年はビクトリーズの試合があったから、夜残業しててもそんなに辛くなかったって。ラジオとか、タブレットで試合見たりしてるんだって」






「そっかぁ。なんか全然勝てなくて申し訳ないな」





「そんなことないよ。新井くんは凄く頑張ってたよ」




みのりんはそう言って、口をムスッと閉じながら頷いて俺に目を合わせてきた。




そんなみのりんを見たら無性に意地悪したくなってくる。




「新井くんは………ってことは、あんまり頑張ってない選手がいるみたいだね。……誰のこと?」




みのりんがさっと目線を逸らす。





「ねえ、ねえ。誰が頑張ってなかったか、お兄ちゃんに教えてご覧よ」





イッヒッヒッヒ。と笑いながら、布団の上でぺしゃんと座るみのりんに俺はにじり寄る。





「み、みんな頑張ってたよ………?」





みのりんは側に合った枕を抱き締めて、それで俺をガードするようにして抵抗する。








「ほらほらぁ。今シーズンのビクトリーズでは誰がダメダメだったんだい? このお口で言ってごらんよ」




白いヒラヒラの付いた枕ガードの隙を突いて俺は意地悪にみのりんをくすぐった。




「………ちょっと………新井くん。……くすぐったい……」




布団の上でぺしゃんと座ったみのりんは、体を逸らしたりよじったりするものの、決してそこから逃げようとはしない。



逃げてるフリをしながらも、俺が手の届く位置はしっかりキープする。そんな塩梅だ。




「ほれほれー。言っちゃった方が楽になるかもよー」




両方の人差し指を突き出すようにして、俺はみのりんに攻撃を続ける。





太ももだったり、脇腹の辺りだったり、ほっぺたの辺りだったり。




本当はもっとみのりんも喜びそうな局部を狙ってみたいのだが、それはまた後のお楽しみにする。





「ところで今年のビクトリーズは誰がダメダメだったんだよお。………怒んないし、誰にも言わないから言ってみ? 山吹さんだって、1年間野球を見てきたんだから、思うことはあるでしょ?」




ちょっと真面目な顔をして見ると、それを見たみのりんも枕を抱き締めながらちょっとだけ真面目な顔して、こう言った。






「ピッチャーの人が。………ピッチャーがもっと頑張らないとダメだと思います」








「……………」





「……………」







「いっちょまえに分かってる風なこと言いやがって! ………こちょこちょこちょ!」






「………ふ、ふあ! 新井くん! それ、ダメ! ………うふふふふ。ちょっと! たいむ!」




「たいむなんてありませーん!インプレー中でーす!」

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