日光牛、激ウマ!

ともかく、ポニーちゃんのレースが終わり、お弟子とも分かれて、あと3時間も我慢すれば晩飯タイムだからと、牧場長にご馳走してもらったアイスクリームで、束の間のおやつを済ませる。




その後、またしてもアルパカだの何なのと記念撮影をして、芝生の上で寝転んで記念撮影をして、レースで優勝したポニーちゃんと記念撮影して。



3人でキャッキャッキャッキャッやりながらのんびり旅館に向かって帰っているとあっという間に辺りは暗くなり始めた。




そしてメインである温泉に入りにいく。




同じ観光客のおじさん達とわちゃわちゃしながら、熱い温泉にドブーンと浸かり、サウナに入って、露天風呂にも行って、アポポポポ! と、鬼怒川の夜空に向かって奇声を上げて、竹柵の向こう側から、いもりんに、新井くん、静かにして! などと怒鳴られたり。





そして、部屋に戻って程なくすると仲居さんから電話がかかってきて、晩ごはんの時間になりました。





「晩ごはんは何かしらね」




「予約した時は、お肉メインって言ってたよ」




「お肉楽しみ」




部屋を出て、案内図に従って地下への怪しげな階段を降りると、そこは大きなものがいくつもある宴会場。



俺達はその中では比較的小さなところに割り振られていて、スリッパを履き替えて、引き戸を開けて宴会場へと進む。




そして向かって左側の4人席の3人分のお手元が用意されていたテーブルに座る。



「あんたはゆったり座りなさいよ」




マイちゃんがそう言って、横でみのりんも頷く。




俺は壁際の席に腰掛け、向かいの席の左側にギャル美、右側にみのりんが座った。








改めて見ると、みのりんとギャル美の顔はツルツルピカピカで、具体的にどういうエステだったのかなどを聞きながら、用意されたテーブルに着くとすぐに、小豆色の和服を着た仲居さんが颯爽と参上。


軽くの夕食の説明をしにきて、とりあえずの飲み物の注文を聞かれると………。




「生3つで!」




ギャル美が勝手にビールを注文してしまった。まあ、確かにビールで良いけどさ。相当ご機嫌なようだ。




「かしこまりました! 少々お待ち下さいませ」




仲居さんが捌けると入れ違いに、もはや見慣れた集団が現れた。ちょっと日に焼けて、ショートヘアが多い、おケツと太ももムチムチ集団である。




「新井さん、お疲れ様です!」




その中の1人が俺の存在に気付くと、他の女の子達も俺に軽く頭を下げるようにして挨拶の連打。




「お疲れ様です!」




「こんばんは! お疲れ様です!」





「お疲れ様でーす!」




するとその集団の最後尾から………。




「うわあ! ししょー! お疲れ様です!」




お弟子、うるさいです。




「ししょー!また会いましたね。今日何度目ですか? ししょーもこの旅館だったんですね!」





「もうなんとなくそんな旅館してたよ。そんな旅館………そんな予感………なんちって」








「………さぶい」






「山吹さん! ごめんねえっ!!」







「ししょーのお寒いダジャレも聞けましたので、わたしは失礼します」



さすがのお弟子もがっかりだったようでそそくさと、俺達のテーブルから離れようとする。




「頃合い見てこっちのテーブルに来なさいよ。うちら3人だし」




ギャル美のそんな言葉に、お弟子はペコリとお辞儀して、キャプテンの子に急かされるようにしながら、自分の席に戻っていった。





「お待たせ致しましたー!!」




仲居さんがお盆に、生ジョッキ3つと、前菜の品々を持ってカムバック。





ゴンゴンゴンと、テンポよく俺達の目の前それぞれにジョッキを配置した。




そして今度は、セパレートされた横長の白く平たいお皿を差し出してきた。




「こちらは、那須豚の生ハムを使用しましたカルパッチョでございまして、真ん中が若鶏のしぐれ煮。右が赤身の旨味が特徴の佐野産の馬刺しでございます。お好みで、にんにくや紫蘇を巻いて頂いてお召し上がり下さい」





おー、すげー! 美味しそう!!




「それじゃあ、プレミアムエステでさらに可愛くなりましたふたりに………カンパーイ!!」



「カンパーイ! イエーイ!」




可愛いと褒めたのが素直に嬉しいみたいで、腕が抜けんばかりの勢いで掲げたジョッキのビールを一気に飲み干すギャル美と……。




「カ、カンパイ………」




他にお客さんがいる手前、肩をすぼめるようにして恥ずかしがりながら、俺のジョッキにコチンと当てて、クイッ、クイッとまずは2口飲んだみのりんの対比。



そして、新井さんが今何か言ってた………。




みたいな感じで、まだ男を知らないような無垢な瞳をこちらに向ける、とちおとめガールズの若い面々。






今日もルービーが美味いぜ。











「こちらは、日光牛のサーロインステーキでございます。わさび醤油かお塩を振ってお召しがり下さいませ」




「おー、美味しそう!」




「美味しそうだね。はい、新井くん。お醤油」




「サンキュー」





一瞬、フレンチかな? って思ってしまうくらい、真っ白なお皿に可憐に盛り付けられたステーキ。



150グラムくらいの大きさだが、少しカットして、少しわさびを塗って、ほんの少しだけ醤油につけて口に運ぶと、日光牛とやらの旨味が溢れ出す。



脂が口の中でほぐれていく中に、しっかりとした牛の旨味がしっかり主張されていて、わさびのとげとげしさがさらに肉の甘味をぎゅっと引き出している。




ギャル美とみのりんもステーキを頬張った瞬間、俺と同じように一瞬見開いた目が、ゆっくりとほどけていくような笑顔に代わる。



2杯目のハイボールやら、レモンサワーがグビグビ進む。




「お待たせ致しました。………こちら鴨鍋でございます」




グツグツと煮えるお鍋が最後に現れる。




スライスされた鴨肉に出汁をよく吸った長ネギ。そこに細かくすりおろした柚子の皮をあちらして食べるとこれまた絶品。




昼間食べた鴨そばとはまた違う趣だ。




それも3人で美味しく頂くと、仲居さんがすすすと現れた。




「お鍋の〆はどうなさいますか? ご飯かラーメ………」






「ラーメンでお願いします!」






みのりんがかなり食い気味にラーメンをオーダーした。





「ちょっとみのり、ラーメンに食い付きすぎ!」




「ほんと。どんだけラーメン食べたかったの」





「………え!? あ………ご、ごめん……」





俺とギャル美が吹き出すようにして笑うと、お酒の分のあって、みのりんの顔が真っ赤っかになって面白かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る