生き別れた双子の弟に再会した。
「ほな、俺メイクと打ち合わせがあるから失礼するわ!」
先輩芸人がそう言ってあっという間にいなくなる。
1番大騒ぎしていた張本人が、初対面の俺と君島さんを残してその場からいなくなる。
なんて無神経な奴だ。と思う傍ら、このくらいの図々しさがなければ芸能界では生き残れないのかもしれないとも悟ったりした。
「すごい先輩だね。普段からあんな感じなの?」
「そうですね。だいたいあんな感じっす。でも、昔からお世話になって、ここまで売れてきたのもあの先輩のおかげなんで。自分の番組で俺をいじってくれたりとか、一緒にメシ行った時の話を面白くフリートークで出したりとか」
君島さんは先輩を立てるためか、はたまた本心なのかは分からないが俺にそう話した。
「新井さーん! 新井さーん!」
また廊下に大声が響く。しかし今度はよく聞き慣れた声だ。
「どうした、宮森ちゃん」
大急ぎでやってきたのか、息を切らしながら宮森ちゃんがぶつかってくる勢いで俺の元まできた。
「さっきのスタッフさんが伝え忘れたことがあるって楽屋に来てますよ!うわあ!新井さんが2人いるぅ!!」
「ギャハハ!何言ってんだよ。こっちは芸人さんだって」
「もちろん知ってますよ!わたぽんさんですよね!最近よくテレビにも出てる」
「何だ、ノリだったのか。とにかく、急いで戻らなくちゃ。……それじゃあ、君島さん。前説頑張ってね」
「はい。頑張ります」
俺は自分とそっくりな彼に別れを告げて、スタッフが待っていた自分の楽屋に戻った。
「いやー、すみませんね。収録直前に……。それと、アスリートチームには他にテレビが初めてな方がいらっしゃいますから、丁寧に撮影を進めるつもりです。
何か分からないことがあれば、アスリートチームのキャプテンは仲野さんなので……」
台本を頭から読み進めながら、2時間スペシャルのバラエティ番組のおおよそを改めて説明してもらった。
アスリートには、俺の他に日本代表にも選ばれたJリーガー、美人と評判のバドミントン選手、女子柔道界のエースと言われる金メダリストと、そしてプロ野球からは俺。
そしてキャプテンには、陸上短距離界のレジェンドである芸能界10年選手の仲野さんという5人組であることも分かった。
「はい。新井さんはユニフォームに着替えて下さい」
私服やスタイリストさんか用意した衣装では、俺が誰だか分からない視聴者も多いだろうからと、ユニフォームの着用をお願いされた僕ちゃん。
宮森ちゃんが持っていた紙袋を開けて、イソイソと彼女の側で着替える。
言ってもお年頃なので、その間くらいはトイレにでも行っておいて欲しがったのだが、スタッフが持ってきたお菓子をパクつきながらテレビを見てケラケラ笑う宮森ちゃん。
その背後で俺は、彼女の髪の毛の香りを嗅いでハァハァしながら着替えを行ってやった。
そんなことをしながら、ボチボチ時間になりましたので、俺と宮森ちゃんは案内されたスタジオに向かった。
「宮森ちゃん。スタジオに入れることになって良かったね」
「はい。1度テレビ番組ってどういう風に収録してるのか見てみたかったので楽しみです」
「ちゃんと大人しくしてるんだよ」
「新井さんには言われたくありません」
「なぬぅ!」
「新井さんも調子に乗って目立とうとして失敗しちゃダメですよ」
「分かってるって」
楽屋がある長い廊下から下り階段を2つ降りる。
一応は俺の付き添いということでは、楽屋に居てもやることないだろうと、宮森ちゃんも今回は特別にスタジオの陰から収録を見学していいという手筈になった。
収録中、マネージャーを常に側に置いておくタレントも結構いるみたいでその人達と同じように撮影の邪魔にならないならどうぞと許してもらった形だ。
なんかいろんな番組撮影に使用するセット。
壁や背景に使われそうな番組のロゴやデザインが入った大きなパネルやどっかの番組で見たことのある機材などが置かれているいわゆる美術エリアを通り、暗幕をくぐってスタジオに入る。
いきなりセットの前に行くわけではなく、そのすぐ側には前室と呼ばれる場所がある。
収録直前や収録の合間に演者が待機したり休憩する場所だ。
長テーブルが4つくっつけられていて、その周りにはたくさんのパイプ椅子。
テーブルの上には、お茶が入ったポットやペットボトルの飲み物。
バスケットの中には、クッキーやお煎餅。あめ玉などが入っていて、誰かが読んだのか、雑誌やスポーツ新聞の類いが乱雑に置かれている。
ちょっと来るのが早かったようで、他に出演者はまだ誰もいない。
「いやいやいやー! そりゃ、おかしいでしょー!」
「全然おかしくない。当然の結果だよ!」
おっ! スタジオの方からお笑いコンビのわたぽんの声が聞こえるぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます