新井さんがテレビとは。

「あ、新井さん! あんなところにさやかちゃんが!」




宮森ちゃんと一緒に宇都宮駅の構内を歩いていると、改札口とは反対側の壁付近にて、関係者の出入口的なところに入ろうとしたポニテちゃんを発見した。




いくらおっぱいが豊満で魅力的だからといって、勝手にそんなところへ入ってはいけませんよと、俺は声を掛ける。



すると反応よく、俺ではなく、宮森ちゃんの方に視線を向けていた。




「わー、宮森センパイ! こんにちは!」




「偶然だね! さやかちゃん!どうしたの!?」





学生時代のセンパイ、コウパイコンビは互いに手を取り合って大はしゃぎ。




さらに、その間に入ろうとした俺をダブルエルボーでやっつけるコンビプレーを発揮してきた。






「これから駅前でバイトなんですよー」





「へー。何のバイト?」






「着ぐるみを着て風船やビラを配ったりする感じですね。宮森センパイ達はこれからどこに?」






「東京のお台場でテレビの収録なんですよ!

新井さん1人で行かせるのは心配なので、私は保護者役です」





何故だか生き生きと。目を輝かせるようにして、宮森ちゃんがそう答える。




「あっ、今日だったんですね、テレビ。すごいですね!」





「へっへー。すごいでしょー」




どうして宮森ちゃんが自慢げなのか。




それに、宮森ちゃんのキラキラした瞳を覗いて見ると、でっかいハンバーガーとか、パフェとか、パンケーキしか写っていない。



完全に観光気分のくせに。





「新井さん。宮森センパイに迷惑掛けないようにして下さいよ。……あと、他のタレントさん達が立ち上がったら、新井さんもちゃんと立って、おかしいだろー!って、ちゃんと言うんですよ」






「なんのアドバイスだよ」









「それじゃー、バイト頑張ってねー!」





「おふたりも道中お気をつけてー!!」






ポニテちゃんに見送られながら、俺と宮森ちゃんはエスカレーターを上って新幹線エリアへ。




すると彼女はまた東京の雑誌を広げる。





「見て下さい、新井さん! スイパラありますよ、スイパラ! お台場から近いですし、収録終わったら行きましょうよ!」





「スイパラでもカピバラでもパラパラでもなんでもいいから、早く新幹線の切符をかっちくり」




「分かりましたよ。えっと………東京駅までの自由席を2枚……」




俺は彼女の腕を掴んだ。




「え? ちょっと待って。……自由席なの? せめて、指定席じゃない?むしろ、グリーンなのでは?」




俺がそう言うと、宮森ちゃんはからかうように笑った。




「なんですかぁ、新井さん。テレビに出るからって、芸能人気取りですかぁ?」




「いや、そうじゃなくて………」





「別にそんな混んでないみたいですから、自由席で十分ですよ」




そう言いながら、宮森ちゃんは大人の自由席を2枚購入してしまった。






多分こいつ、後で球団に怒られるな。




俺はそう確信した。






そんなこんなで、ホームに向かう間にもきらびやかな雑誌を広げる、田舎者丸出しの宮森ちゃんをコントロールしながら、改札を通って、駅弁を買って、東京行きの新幹線に乗り込んだ。





「この中華弁当美味しいですよー!」




お腹がすいていたようなので、ちょっと弁当を食べさせたらようやく少しは大人しくなった。




チョロい女だぜ。






宇都宮の景色が田園風景に代わり、それが小山の景色になり、また畑しか見えなくなったと思ったら、今度は高いビルなどが目立ち始めてあっという間に大宮に到着。




新幹線なんて最近は乗り慣れたものだけど、今日はなんだか車窓から見える景色がまるで違う。




普段は、7割負ける試合に向かう、心の奥にずっしりとくるものがあるからね。





野球が出来るだけで楽しいと思って明るく1年間やってきたつもりだったけど、あくまでそういうつもりだっただくなんだなと、こんなところで気付いてしまった。







「新井さん、チョコ食べます?」




「サンキュー」





「ようこそおいで下さいました、さあどうぞ、どうぞ」





新幹線で東京駅まで行って、そこからタクシーに乗ってテレビ局までビュイーン。



なんだな見たことあるモニュメントにちょっと感動しながら、タクシーを降りると、そのロータリーでわざわざ1人の番組スタッフがお出迎えしてくれた。






警備員が2人立つ大きな自動ドアをくぐって、海が見えるエレベーターでうにょーんと結構高いところまで。



エレベーターがウィーンと開いて、絨毯が敷かれた廊下を歩く。



壁には局の看板番組や新しいドラマのポスターがところどころに貼られていて、ロビーでちょっと待ってたら、有名な芸能人に会えるんじゃないかと思える雰囲気。





「新井さんは今日が初めての収録なんですよね?楽屋行く前に、ちょっとだけスタジオをご覧になります?」




スタッフの提案に俺はすぐに頷いた。




「行きたいです! 行きたいです!」





「それじゃあ、さっそく行きましょうか」





案内されたのは、スタジオというよりかはちょっとした体育館というような広さ。



既にバラエティ番組っぽいセットが設置されていて、向かって左側にはMC席。背後には大きなモニター。



右側にはパネラーがチーム毎につく早押しボタンとパトランプが付いたテーブルが4つ。



高学歴チーム・アイドルチーム・お笑いチーム・アスリートチームなどとパネルがついていて、スタッフが忙しなく行ったり来たり。



出演するタレントの名前が書かれたカードを首からぶら下げたスタッフが色々立ち位置などを確認している。




どうやら軽いリハーサル中のようだ。

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