あねりんが1番お寿司を食べた。

「「いただきまーす!!」」




3人揃って大口を開けてお寿司をぱくり。




「ん〜!すごいわ!美味しいわね!」





さっきまで般若みたいな顔をしていたあねりんの顔から、思わず笑顔が零れる。





本マグロにハマチにおおぶりの甘エビ。うににいくらに中とろに、うなぎに鯛に、カンパチに。


とても1口では食べきれない大きさの穴子もある。



いかにもなとろけそうないい具合であるピンク色の大トロまでふんだんに入っている5人前。55貫入って13800円の豪華絢爛寿司。




炙りサーモンを頬張るみのりんも俺に向かってこれ以上ない笑顔を振り撒く。



お姉さんが帰った後はお楽しみなのかもしれない。



俺もまずは大葉の挟まったイカちゃんを頂いて、あねりんに注いでもらったビールを流し込む。






姉眼鏡のビールは最高ですな。








「お味噌汁も入ったよー」





お店で1番高い桶を注文してくれたからと、女将さんがサービスしてくれたお味噌汁。




ラップに丸められた、だし味噌をお椀の中でお湯に溶くと、身と一緒に蟹味噌の豊潤な香りが姉妹の眼鏡を湯気で曇らせた。





「2人とも必死になって匂い嗅ぎすぎ!」





と、俺がツッコミを入れると、2人は少し恥ずかしそうにしてキャッキャッキャッキャッ笑った。





「お味噌汁も美味しいですね」





「ほんとー。贅沢な香り」






「なー。………ほら、2人とも、大トロもあるよ! どんどん食べて」





「「わーい!!」」





2人とも、まるで少女のようなキラキラの笑顔で、野獣のようにお寿司を頬張っていた。






そんなお寿司パーリィも終わりまして、お外に出て、車で来たという、あねりんのお見送りをする流れになりました。



夜空には冬の大三角がまばゆい程に輝いており、うっすら月明かりに映る細く長い雲が忙しなく流れています。




マンションの裏手に停められたピンクシルバーの自動車の横であねりんが俺に向かって頭を下げる。




「美味しいお寿司をありがとうございました」





「いえいえ。また今度3人でご飯食べましょう。…………あ、そういえばお姉さま」






「なんですか? お姉さまとは呼ばないで下さい」





「俺の契約更改っていつになります?予定表に俺の名前だけなかったんですけど……」





「ええ、それに関しては現在協議中です。近々球団事務所から連絡がいきますから。必ず電話に出て下さいね」






だから、それがいつやねんて話じゃ!!




来シーズンは俺と契約しないつもりか! 寿司返せ!





「みのり。今日の事はお父さんとお母さんにも言っておくからそのつもりで」





「うん……。分かった」





ご両親に言うとはどこまでの話だろうか。いもりんがもうしばらくは小説家を目指して頑張ってみるということなのか、そこに俺の名前が出てくるのかどうか。




気になってしまう。




気になってはしまったが、それ以上に運転席のシートに滑り込ませる際の、むちっとしたあねりんのお尻が気になってしまったので、それどころではなかった。






「それでは失礼致します」




あねりんは、少し満腹のお腹をきつそうにしながら運転席に乗り込むと、最後に俺に向かって会釈するようにして車を発進させ、国道の方に向かっていった。







「お姉さんも1人暮らし?」





「うん。駅前のマンションに住んでる」





「あら。羨ましいですわね。彼氏はいるのかしら」






「うーん。いないと思うけど……」






「そうなの? 狙っちゃおうかしら」











「は?」





みのりんさん、怖いです。








「新井さん!すみませーん! お待たせしましたー!」





「おー、お疲れー! 宮森ちゃん」





あねりん、いもりんとのキャッキャッウフフのお寿司パーリィから2日後。




お昼過ぎの宇都宮駅前に俺は来ていた。




今日はなんと、東京でテレビ収録。




なんでも、今年活躍した芸能人やスポーツ選手や文化人などを集めて、みんなでバラエティー番組をやりましょうという企画らしく、プロ野球界からは、新球団で活躍したルーキー選手ということで俺が呼ばれたのだ。





4割打っておくものだね。





しかし、初めてのテレビなもんでだいぶ緊張する。プロ野球選手としての初打席なんかよりもよっぽど緊張して、昨日はあまり眠れなかったくらいだ。




それでも今日の結果次第では、スーパーイケメンタレント、新井時人が爆誕するかもしれないんだから、普段の試合なんかよりも気合いを入れていかなくてはいけないだろう。




そういうわけだが、今日は俺1人でテレビ撮影に行くのは不安だということで球団から、マネージャー代わりに広報の宮森ちゃんが着いてくることになったのだが………。





「新井さん、新井さん! 見て下さいよ、このお店! すごく美味しそうですよ!

東京にはこんなお店があるんですね!!」






一応仕事ということを分かっているのかいないのか、宮森ちゃんは東京ウォーカー的な雑誌を広げながら、テンションが既にアゲアゲ状態。




球団のお金で東京行けて、タダ飯食べれるぅ! 感が半端ない。



余計、俺の仕事が増える気がしてならない。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る