巨乳ものは外せん。
「ということなんですが、高森さんは今シーズンの新井選手はいかがだったでしょうか」
「いやあ正直ね、この新井という選手はシーズンが始まるまで全然知らなかったんですけど。久々にこういう右バッターが出て来ましたよね」
「現役時代の高森さんと同じく、逆方向へのバッティングが得意な右の巧打者ですものね」
「ええ! そういう意味でもね、新井の活躍は嬉しいですね。最近こういうバッターは少なくなっていましたから。彼のどこが優れているかというとね…………バット貸してもらえる?」
テレビでは、スタジオの明るい照明に照らされたツルツル頭のおじさんが椅子から立ち上がって、バット片手に持って、嬉しそうな表情で俺のバッティングを解説している。
そしてそのおじさんよりもさらに数倍、彼女達は嬉しそうな顔をしていた。
「すごい。新井くんがテレビにいっぱい出た」
みのりんは銀色眼鏡の奥で目をキラキラとさせる。
「やばいですよね! 本当に野球選手みたいです!」
今さらこのおっぱいは何を言っとんねん。
そしてギャル美が言う。
「ねえ! さっきもらってたトロフィー持ってきて!!」
「ええー………めんどくせー」
「は? めんどくせーじゃないでしょ。一緒に部屋まで行ってあげるから!」
と、そう言われて、ギャル美に背中を押される格好で俺は自分の部屋に戻ったのだが………。
「あれ? …………ねえなあ」
「ちょっとー。なんでよー」
どこかにしまった記憶はないから、玄関かテーブルの上か、すぐ見えるその辺に置いたような気がしたんだけど。
せっかくもらったトロフィーはどこにもない。
俺の後ろでギャル美のがっかりしたように俺を見下す視線を感じる。
興奮するぜ。
「まったくもー。せっかく写真撮ろうと思ったのにー。ないならいいわよ。………後で出て来たらちゃんと教えなさいよ!」
「はいよ」
バットコントロール部門で1位になったのに、結果的にギャル美に怒られることになってしまった。
どうかしてますよ。
というわけで、季節はすっかり冬。
暦も12月を数え始まるところに差し掛かりまして、プロ野球は本格的なストーブリーグの季節になりました。
コンビニのイートインスペースで肉まんとソフトクリームを頬張りながらスポーツ新聞を開くと、誰々がいくらいくらで契約更改しましたとか。
あの主力選手がFA宣言しましたとか。3Aの助っ人外国人を獲得しましたとか。
反対に、○○選手と××選手が戦力外通告を言い渡されましたとか。
そんな生々しい記事や特集を目にするようになり、これまた1つのプロ野球の楽しい時期がやってきているわけですが。
俺も一応は野球選手ですから、お楽しみの契約更改を目前に控えてドキドキなわけですよ。
来年の年俸いくらかなあと。そこそこいい車買えるくらいはもらえるかなと。
ドキドキしているわけですよ。友達から借りたAVを初めて見る時のようなドキドキワクワク感。
コンビニからビクトリーズスタジアムまでうおおおっ! とダッシュしまして。
途中、お昼ご飯を買いに出て来たOLに気味悪がられながら。散歩中の犬に吠えられながら。
うおおおっ!と、ダッシュしてきたわけですよ。
そして、ロッカールームとグラブハウスの片付けついでに、球団事務所の張り紙で自分の契約更改の順番を見にきたのだが……。
俺の名前だけ、どこにもない。
もしかしたら、新井時人じゃなくて、スーパーイケメンボーイ64とかそんな名前に登録変更されている可能性を模索したのだが、どうやらそんなこともなさそうだった。
なんでじゃい! なんで俺の名前がないんじゃい! クビっていうことかい!?
と、球団事務所に怒鳴り込んでいったわけですが………。
「おはようございます」
「おはようございます!」
などと、何人かいた球団職員に挨拶されるだけに終わった。
するとその中に宮森ちゃんもいて、事務所にやってきた俺を見るなり、おにぎり片手にツカツカやって来た。
愛の告白かな? と、思っていたのだがどうやら違ったみたいだ。
「ちょっと新井さん! ロッカーをまだ片付けしていないの、新井さんだけですよ!」
と、俺より厳しい剣幕で怒ってきた。
そしてそのままの勢いで、悪さをした子猫のように俺はクラブハウスのロッカールームに連れ去られた。
スタジアム内のロッカールームは、試合で使うものしか持ってきてないからキレイキレイなんですが、色々と私物を持ち込んでいたクラブハウスの方は酷い有り様。
俺以外のロッカーは半開き状態になっていて中身はみんな空っぽになっていて、宮森ちゃんが乱暴に開けると、俺のロッカーの中身が雪崩を起こして盛大にゲロってしまった。
健全な雑誌やら健全じゃない雑誌やら、健全な漫画やら健全じゃない漫画やらがドバドバと。
それに紛れて、水嵩アナからもらったトロフィーも出てきた。
こんなところにあったんだ。
「今日中に全部片付けてから帰って下さいよ!」
健全じゃない漫画が巨乳ものだったからだろうか。
宮森ちゃんはさらに怒ってしまったようだ。
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