ギャル美よ、頭ボサボサ。

みのりんから紹介された夜勤のバイトがちょうど良い条件と待遇だったようで、テンションの上がったポニテちゃんの胸元がさらにボリューミーになった。



着ている服が前が、ボタンで止まっているタイプではないのが非常に残念。




それを見ていたみのりんは、少々自分のとの格差に軽く舌打ちしながらも、一応はにこりと笑う。




「結構毎年募集人数に達するのが早いらしいから、明日にでもすぐに電話した方がいいよ。早い時はほんと数日でいっぱいになるらしいから」





「分かりました! 明日、朝イチで電話して履歴書も準備します!!」




「でも大丈夫? 昼間はカフェの方もあるでしょ?」




自分が提供したとはいえ、みのりんは少し心配そうにそう言ったが、ポニテちゃんは何のこれしき! とばかりに白い歯を見せた。




「もう少しで頑張れば、専門学校に必要なお金が貯まりそうですし、大学の授業がない今が稼ぎ時なんで!」





「そう? 無理しないでね?」




「はい、お気遣いありがとうございます!」





ポニテちゃんは鼻息を荒くしながら、新しいみかんに手を伸ばす。




しかし偉いなあ。実家住みの大学生とはいえ、80万円なんてお金を自分でちゃんとなんとかしようだなんて。





俺だったらガッツリ親に頼ろうとしてしまいそうだけれども。








「こんばんは! ここからは、日本全国へ日本全国のスポーツをお届けするスポーツジャパンのコーナーです!」




テレビCMが終わると、ジャパンTVのアナウンサー2人と、元プロ野球選手のおじさんが並んで、3人で頭を下げてスポーツコーナーが始まった。




水嵩アナを真ん中にして、最近は実況アナウンサーとしてもメキメキと頭角を表してきた若手の男性アナウンサーに、2000本安打も達成するも、頭がほぼツルツルおじさんという構成だ。






その水嵩アナに、ポニテちゃんが食い付く。





「あ、あのアナウンサー結構キレイですよね」





「うん。この局の中では1番キレイかも」





と、みのりんの見解。







「それでは、まずはプロ野球! 今年で6回目となりました、100分の1アンケートです!! こちらのコーナーは、各球団を代表する総勢100人の選手に、各部門毎に優れた選手を選んで頂きます。



そして、そのアンケートを集計しまして、勝手に表彰していくという番組です! そして今日の部門はこちら!」




と、男性アナが言い切ると、水嵩アナがデカイフリップをめくる。




「今日はバットコントロール部門です! 今年のプロ野球では、両リーグ合わせて20人の3割打者が誕生しました! そんなハイレベルの争いで一体誰がバットコントロール部門の1位に選ばれたのでしょうか?」




映像は切り替わって第5位の選手のシルエットが出て、選手を選んだ奴らのインタビューが流れ始めた。






これ、あれだ。俺が1位の奴だ。





部屋にバットコントロール部門のトロフィーがあるもの。






「ということで第3位は埼玉ブルーライトレオンズの豊田選手でした! 高森さん!

この豊田選手の3位というランキングはいかがでしょうか?」





水嵩アナに訊ねられ、2000本安打のレジェンドおじさんが意気揚々と頭を光らせる。




「豊田君はね、今年ケガがありましたけど、3割2分、20本塁打と素晴らしい成績でした。今シーズンは特に追い込まれてからのバッティングが光りましたね。



去年までなら簡単に打ち取られていたようなボールに対しては、長打を捨てて、ファウルにして凌いだり、逆方向に上手く軽打出来るようになりました。



それが今年の好成績に繋がったと思いますよ」





「なるほど。ありがとうございます! それでは続いて第2位に参りましょう!!」







水嵩アナがそう振ると…………。






「あ、新井くん!」




みのりんが即座に反応した。0コンマ何秒というレベルのものすごい反応。




眼鏡の奥で目をぐーっと見開いてびっくりした表情で、生の俺とテレビに映る俺とを交互に目移りさせている。






「シーズンの途中からですかねえ、レフト方向に流し打ちする場面をよく見ましたね。ヒットになった打球をたくさん追いかけましたよ。低めの変化球も上手く対応してきますし、大きい打球も打てるんで守ってていやでしたね」




などと、テレビの中の俺は偉そうに申しております。





ガチャ。





「なに?………あんたが………あんたが出たの…………?」





みのりんの、新井くん! という声に反応したのだろうか。




隣の寝室に寝かせていたギャル美が這うようにしてリビングに現れた。




アルコール臭を漂わせて、ボサボサにした髪の毛が顔全体を覆う形になっており、ヨレたシャツの胸元から、明るいピンク色のブラと白い胸元がお目見えしている。





そんなゾンビのようなギャル美が俺の背後を這うようにして、テレビの前まで移動した。






「あんたぁ………。いつの間にこんなインタビューしたの………?」





今にもくたばりそうな声をギャル美は捻り出した。







「キャンプの最終日かな。ニュースジャパンの取材クルーがビクトリーズスタジアムに来ていて…………」





「あんた、そういうのは前もって教えなさいよ」





「ごめん、ごめん。いつ放送するかまでは聞いていなくて………」






「大丈夫! このコーナー始まった瞬間に録画してるから」




と、みのりんはギャル美に向かってぐっと親指を立てた。





「ナイス。さすがみのり」




ギャルも親指を立てる。






その弱々しい親指の先をポニテちゃんが軽くつまんだ。








「バットコントロール部門第2位は、東京スカイスターズの平柳選手でした!」





「彼が入団した頃に、私はコーチをしていまして、その時はどちらかといえば荒さが目立つタイプのバッターで、とても今シーズンのような打率を残せるとは思いませんでしたね」






「平柳選手は、スカイスターズを日本一に導いて、東日本リーグのMVP、首位打者のタイトルも獲得しました。来シーズンの更なる活躍に期待したいですね。




それではお待ちかね。バットコントロール部門の第1位の発表は…………CMの後です!




ヒントは………最近こんなピンク色のバットを使って………こんな打ち方をするあの選手です!」





と、水嵩アナがライト方向に流し打ちするような真似をして番組はCMに入っていった。


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