ポニテちゃんに褒められたいが為に俺は野球を頑張っているまである。

ひどいわ!



聞いて、山吹さん! あのポニテ娘、1人でタルタルザンギを10個も食べていたのに、ボクちゃんにこんなひどいことを言ったのよ!


などと報告しても、テレビを見ながら、こたつに入りながらの眼鏡な彼女は、きれいに剥いたみかんを一房、俺に差し出すだけだった。



どうしてそんなことを言われたか、自分の胸に聞いてみたら?




そんな目をするだけで、別に俺のことを庇ってくれたりはしない。



もっと、特別扱いをするべきである。さっきはおんぶしてあげたのに。


とりあえず、そのもらった甘いみかんを口に放り込みながら、俺もおこたに入る。





「今日、新井くんがピッチャーやってるのがどこか新鮮だった」




みのりんはふとそう言った。






「まあ普段レフトだからね。………もうちょっと頑張れた気がしたんだけど、チーム鶴石の連中がみんな結構マジな感じだったからさあ」






「でも、マジだったのは相手が新井くんだったからじゃない? 新井くんがピッチャーの時にバッターだった選手はみんな楽しそうだったよ。



いつも死に物狂いで試合に臨むのもいいけど、あんな風に楽しそうな試合もアリかなって一瞬思った」





「チームの成績がもう少しマシな感じなら楽しく出来るかもしれないけどね」





みのりんが言った通り、確かに今日は久しぶりに野球を楽しくやった気がしたけど。





「なんと言っても、あのトリプルプレーは凄かったですよね!」




風呂上がりのポニテが現れた。




髪の毛をまだ少しだけ湿らせて、胸元パツパツの白いロンTに薄手のグレーな長ズボン。



私も話に混ぜて下さいよ! と、俺の向かい側のこたつに入る。





「確かにピッチャーとしては打たれてしまったかもしれませんけど、今日のMVPは新井さんですね! あのトリプルプレーを完成させたサードの守備は凄かったです!」





「あれはたまたまだよ。たまたまちょうど飛び付いたらグラブに入る位置に打球が来ただけだから」





「いえいえ! 何をおっしゃいますか、新井さん。何の練習もなしに、急にあの場面でサードに回って、いきなりあの痛烈な3塁線の打球を捕球するなんてたまたまじゃ出来ませんよ!」






「その後の新井くんの2塁への送球も正確だったよね」



「そうそう!さすがはみのりさん、分かってらっしゃっる!! 確かに新井さんの肩はゲームでもEランクということでお世辞にも強いとは言えませんが、正確さでいうばなかなかのものですもんね!


3塁ベースを踏んだ後に、2塁ベースカバーに入った高田さんへのボールでトリプルプレーが決まったようなものですから!」






ポニテちゃん楽しそうだなあ。







褒めてくれるのは素直に嬉しいが、テレビの前で腕をブンブン振られては邪魔だし、ずっとやかましいので、みのりんにやられたように、彼女にもみかんを与えて大人しくさせました。



「お風呂入ってくる」





みのりんはみかんの皮を片付けながら立ち上がると、わざわざこたつでぬくぬくする俺の目の前で大事なところを向けながら、そう宣言した。



ポニテちゃんがいる手前、匂いを嗅ぎにはいけなかった。



そしてみのりんは、着替えとバスタオルを持って浴室へと向かっていった。




仕方ないなあ。



こうなったら、ハプニングを装ってちょっくらどんなもんか、拝見しに行きますかと思っただけで、ポニテちゃんがスマホを取り出した。




「なに? もう通報する気?」





「え? 何がです?」







「あら、違うのね」






「マイプロやりましょうよ、マイプロ!」






「オッケー、負けないぜ!」







俺もスマホを取り出し、マイプロのアプリを立ち上げるフリをしながら、テーブルに胸を置く風呂上がりポニテちゃんを1枚パシャリとしてやった。








「何やってるの? 新井くん………」






背後にみのり様が眼鏡を光らせていた。




一体いつの間に………。






「お、お風呂に行ったんじゃなかったの?」






「嫌な予感がして戻ってきました。すぐに削除して下さい」








「了解であります」






「さっぱりした」





と、一言だけ発したみのりんが所定の位置に戻り、こたつがまた若干狭くなった。



しかしその狭いくらいのスペースのおかげで、シャンプーの少しだけ甘い香りが、前から横からやってくる。






そしてふと時計を見ると、もう間もなく日付が変わろうとするころだった。




「さやかちゃんは明日はバイトお休み?」





明日は日曜日。みのりんとギャル美がお休みなのは知っていたのだが……。





「カフェの方はお休みなんですが、明日は駅前で単発のバイトを」





「あら、そう。シェルバーの他にもバイトやってるんだ」





「ええ。専門学校のお金を貯めないといけないので」






「ふーん。どのくらいお金がかかるものなの? スポーツトレーナーの専門学校って」




「入学金と初年度の授業料でだいたい80万円くらいですね。………あと2ヶ月くらいとするとちょっと足らないので、今バイト探しているんですよ。夜勤でもあればやってみようかなって」




「それなら私のところで働いてみる?」




みのりんはそう言って、自分のスマホをピコピコと操作して、バイト情報サイトのとある1ページをポニテちゃんに見せた。




それはみのりんが勤めている洋菓子工場だ。




「再来週から1月末までの短期夜勤を15人くらい募集してるけどやってみる? MAX時給1500円だから結構稼げるよ」





「え? 本当ですか!? 1月末までですよね! やります、やります!」







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