ああ、本当にシーズンが終わる気がする……。

「佐竹さん! 写真お願いします!!」




「はいよ!」





バックネット横に控えていた、球団付きのカメラマンおじさんに声を掛ける。ビクトリーズのキャップを被り、無精髭を生やしたおじさんは待ってましたとばかりに駆け足でやって来る。



汗だくの選手達をグラウンド内に呼び寄せながら、とりあえずホームベース前に3列に並んで、ちょうど小山北中とバックスクリーンにっこり表示されているから、それを背景にして………などと簡単に打ち合わせる。




「よーし、みんな集まれー!! 写真撮るぞー!」




「「はいっ!!」」




グローブを持ったままの少年達がズドドドとホームベースに立つ俺の側に押し寄せる。




「おーい、君達もこっちにおいでー」





人数と時間の関係上、残念ながらシートノックには参加出来なかった小山北中の1年生達。



俺達はどうしようかと様子を伺っていた奴らにも声をかけると、彼らも笑顔で俺に飛び付いてくるような勢いで集まってきた。




「よし、3列に並べ!! 1番はしゃがんで、真ん中は中腰な! 背の高いのは後ろに行け!」




と、指示を出し、子供達を並ばせて俺の真ん中の1番前で寝そべる。



「監督さんと部長さんもよかったらどうぞ」




と、声を掛けて、おじさん2人が両サイドに並んでカメラマンおじさんは何回かシャッターを切った。





「次の大会も頑張れよー!優勝したからって、油断したりとか、相手を見下したりするなよ!常に高みを目指せ、坊主どもよ」




と、俺は彼らを激励しながら、子供達全員とハイタッチ。最後に用意していたサインボールと真っピンクのビクトリーズキャップを手渡して名残惜しみながらお別れをした。





また同じような企画があって、今回はノック出来なかった世代の子達が優勝したまた来てくれたら嬉しいし、こういうのがあるんだと次は俺たちがあそこで新井さんにノックしてもらうんだと、他の子供達も頑張ってくれるかもしれないし。





なかなかね。いくら野球が好きだとはいえ、高いモチベーションを持ったまま、練習やトレーニングに励み続けるのは、プロでも中学生でも小学生でも難しい。



特に優勝なんてしてしまったら特に。



今後、苦しい時に、つらい時に、成長するためのもうひと頑張り出来るような記憶になってくれたら、それより喜ばしいことはなかなかありません。




小学生、中学生の年代なんて、やればやった分だけ上手くなるものですから、限られた時間かもしれないけれど、どうか最後まで精一杯頑張って欲しいですわね。




最下位チームの選手が偉そうに言えることではありませんが。







「今シーズンは東日本リーグの最下位という結果に終わってしまいましたが、選手は本当に一生懸命頑張ってくれました。特に将来が楽しみな若い選手がたくさんいます!去年まではなかなか出番のなかった選手達も、今年はいい手応えを掴み、来年の飛躍に出来ると私は信じています。



どうか来年も熱い声援を是非、我らが北関東ビクトリーズによろしくお願い致します!」




という萩山監督のご挨拶も終わり、スタジアムは暖かい拍手に包まれた。



球団旗を持ったり、ちっちゃいフラッグを振ったり、時折サインボールやタオルを投げ込んだりしながら、みんなでゆっくりとグラウンドを1周。



そして選手達は最後に、スタンドゲートにそれぞれ散って、スタジアムを出ていくファン達とハイタッチをした。






それを狙ってか、たまたまか。みのりんやギャル美やポニテちゃんがちょうど俺がいたゲートから出ていくところで、他のファン達と同じようにハイタッチをした瞬間は、なんだかちょっと恥ずかしい気持ちが芽生えた。






そんなこんなありながら、午後3時半。ビクトリーズのファン感謝祭は終わり。




ガランとしたスタジアムを吹き抜ける北風を受けて、いよいよシーズンオフへと移っていく空気を俺は肌で感じた。







「カンパーイ!!」





と、いつもの3人娘と今日は宇都宮駅前の居酒屋に入ったのはファン感謝祭が終わってから2時間後。



さすがに彼女達はもうユニフォーム姿ではなかったが、今日手に入れたグッズをそれぞれ見せ合って盛り上がっていた。



「ねー、見て! 見て!! 紅白戦でチェンジになった時に飛んできたサインボールゲットしたのよ!」



と、レモンサワーをぐいっとグラス半分飲んだギャル美のテンションはもう最高潮。




どうやら今日はファーストを守っていた奥田さんがポイっと投げ入れたやつがちょうどいいところにきたらしい。



球団が用意していた選手の関係者向けのチケットは1塁側ベンチ上のわりといい席だったからね。



いろいろもらえるチャンスはありましたよ。




「目の前のコンクリートでバウンドしたボールがちょうどマイさんのバッグに入ったんですよね! 奇跡でした!」



その時の様子を身振り手振りで説明してくれるポニテちゃん。




「そういえばみんなありがとうな。迷子の女の子の親御さんを探すのを手伝ってくれて」



俺は3人に改めてお礼を言った。



「そんな。普通だよ、新井くん」



と、隣でみのりんは少し照れた顔をしたが、ギャル美はどこかちょっと腑に落ちない様子だった。



「でもさ、結局マイク放送するなら、最初っからそうしろって話。……あたし達がスタンドを走り回った苦労はなんだったのかしら」




というギャル美の意見にポニテちゃんも賛同して俺は劣勢に。





「ほらー、みんなー! 今日は俺の驕りだよー! 好きなものジャンジャン頼んでー!」






「「イエーイ!!」」




と、喜ぶギャル美とポニテちゃんと、それを含み笑いをしながら見つめるみのりん。




なんとかごまかし通せました。




ちょろいもんですよ。



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