鳩って案外和む。

そのマスコット2人が俺の背後に立って聞き耳を立てると、中でフシュー、フシューと荒く呼吸をしていた。


ふと見ると、ベンチ横のフェンスに折り畳み自転車が2台立て掛けられるようにして置いてあるのを発見。


ビック君と一緒にそれぞれ股がった。



「新井くーん!」




「新井さーん!」




ビック君と一緒に、まだイベント前ではあるが、フェンス際でゆっくりと自転車を漕ぎながら声援をくれるファンに手を振って回る。



今日はファン感謝祭ですからね。



時折自転車から降りて、イエーイとハイタッチをしたり、色紙やボールを差し出してねだるファンに、俺のでええんか?と言いながらサインをしたり。


したらまたチャリンコに乗って歌を歌いながらスタジアムをぐるりと回る。



じっくり時間を掛けて1周する頃にはグラウンド内の準備が整い、他の選手達も皆和気あいあいといった感じでベンチに集結していた。


そしてビクトリーズのロゴが入ったジャンバーを着て、左手に何枚かの用紙を挟んだバインダー。右手にマイクを持ったお姉さんがホームベースの後ろに現れる。


「大変お待たせいたしました!本日はたくさんの方のご来場誠にありがとうございます!ただいまより、2017年度、北関東ビクトリーズ、ファン感謝祭を開催致します!!」




「「ワアアアッー!!」」



こういう催し事では、だいぶ場慣れしている進行役のお姉さんの開会宣言に、集まった1万5000人くらいのお客さんから歓声が上がる。



それに合わせてドーン、ドーン!!



ライトスタンド後方の上空に、色のついた花火も打ち上がり、何故だかピンク色のリボンを付けた真っ白の鳩達が空に向かって放たれる。



「クルック!!」



その中の1羽が、ベンチ横で柴ちゃんと話をしていた俺の頭に一直線にやってきて、着地した。



「わー、みんな見て!新井さんの頭にハトが!!」



隣で柴ちゃんが騒ぎ立てる。




「アハハハ! スゲー!」



「さすが新井さん、愛されてますね!」



「よっほど乗りやすいんだろうなあ」




「ケータイ、ケータイ! はい、新井!こっち向いてー」



ベンチにいた輩がここぞとばかりに現れて、ひとしきり笑ったり、ポケットからスマホを出して写真を撮る奴もいる。



広報が回していたビデオカメラにも360度からガッチリと撮影されてしまった。




「………クルック!………フー……」




当事者のハトさんはそんな騒ぎなど、どこ吹く風といった感じ。


騒ぎ立てる人間達がうるさい辺りをキョロキョロすることもなく、足を折って腰を下ろしてしっかりと、当たり前のように、やれやれ。今日はなんだか賑やかだなあ……といった鳩具合で俺の頭の上で羽を休めていた。








頭の上のハトさんにゆっくりと手を伸ばす。ちょっと緊張する。素手で鳥類に触るのは初めてだし、人様のハトだし。



どこをどう持ち上げたらいいか分からなかったが、とりあえずお腹の下に両手を忍ばせるようにした。



俺の手が触れてもハトさんは少しも嫌がる素振りなど見せることない。結構ふっくらとして温かい印象だ。こうなると少し可愛らしく見えてくる。




当のハトさん本人は俺に持ち上げられても、どうかしましたか?



なんて言い出しそうに、小刻みに首を動かして不思議そうな顔をしているだけ。


しっかり飼育されていて、ふかふかの毛並みのそいつをがっしりと両手で掴み、ベンチ裏にいたハト師のおじさんに、リボンを外してあげながらちゃんと返してあげた。



そんなことをしてベンチに戻ると、バックスクリーンにはファン感謝祭のプログラムが写し出されており、1発目はポジションごちゃまぜの紅白戦。



ビクトリーズを代表するベテラン2人を監督に据えての5イニング制のガチ試合だ。



「新井!」



すると、グラコン姿でサングラスをして腕組みし、いかにも監督っぽい雰囲気を醸し出して、わりとノリノリな阿久津さんが俺を呼び止める。




「なんでしょう?」



「俺のチームの1番ピッチャーだ。頼んだぞ!」




「サー、イエッサー!!」

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