グミを買っておいて本当に良かった。

「ご、ごめんね、山吹さん!思いっきりポキッて音したけど、大丈夫?」




「全然大丈夫!むしろ、首の調子がよくなったくらいに」



「あ、あの、新井さん!私には? 私には何かないんですか?」



みのりんとギャル美の間で、ポニテちゃんがそう叫ぶ。



「…………と言われましても………」




コンビニ袋をまさぐって出てきたのは、100円ちょっとで買ったコーラ味のグミくらい。



これでもあげようと顔をあげると………。




「美味しそうですね!結構グミ好きなんですよ!あーん…………」



ポニテちゃんが上目遣いで俺に向かって口を開けていた。




興奮するぅ!!



グミを袋ごとあげようとしたけれど、そっちがご所望ならば仕方ない。包みを開けて、ざらざらした手触りのグミをつまんでポニテちゃんのお口に近づける。



「はい、あーん」



「あーん………ぱくん。……ぐにぐに………美味しいです!ちょっと酸っぱくて!いい固さですね!」



屈託のないポニテちゃんの笑顔がまぶしい。



「はい、もう1個。………あーん!」




「…………あーん。ぱくん」




いいね。




彼女の真っ白な歯にぬめりとした舌と口内。大口を開けて俺を欲しがる現役巨乳JD。



みのりんとギャル美の蔑むような冷たい視線なんて多少は気にならないくらいだ。



おケツはつねられてはいるけど。




「それじゃあ、俺はそろそろ行くから。また後でね」



おうちからキャッキャッ言いながら3人娘と仲良くスタジアムまでやってきたが、残念ながらここでお別れ。


涙ぐみながら、白いハンカチを振るみのりんに最後まで手を振りながら、俺は関係者入り口に経つ警備のおっちゃんに挨拶してスタジアムに入った。



ロッカールームに行くと、既に多くの選手がユニフォームに着替えようとしていた。


今日は2軍にいる選手達もみんな集まっているのでロッカールームの人口密度が高い。



2年前に出来たばかりのビクトリーズスタジアムのロッカールームは12球団の中でも1番きれいで広々としていて、ゆったり快適。


1人1人に与えられたロッカースペース中に、余裕で身を隠して居眠りできるくらい。



しかし今日はすでに帰国している、ロンパオとシェパード以外の58人の選手が集結していて、自分のロッカーがある1軍の選手は皆、1人もしくは2人の2軍選手にスペースを分け与えている状態だ。



ワイワイガヤガヤ。



香水やら制汗スプレーやら、色んな匂いが混ざり合っている。



空調もガンガン効かせているのに、むさ苦しい男臭が蔓延しはじめてきたので、準備を終えた俺は柴ちゃんと一緒にロッカールームを出た。





ロッカールームを出て、ベンチ裏に来たところで、宮森ちゃんがひょっこりと顔を出して現れる。



まるで俺の登場を待っていたかのように現れたのだ。正直、嫌な予感がする。




ニタニタした様子の宮森ちゃんは、両手で何やらお菓子の入った箱を持っており、側では別の広報担当の男性がカメラを回している。



「柴崎さん、新井さん。おはようございます!」



宮森ちゃんはいつもように明るい挨拶をかましたが、なんだかその表情はやはり怪しい。



「さっき、うちのスポンサーである、宇都宮桃菓堂さんから、差し入れのお饅頭をいただきましたのでよかったらおひとつどうぞ」



え? 今?


今食べなきゃダメなの?


一瞬そう思ったが、今日はファン感だし、わざわざカメラも回してるってことは何かあるんだろうなあと考えを巡らせる。



その結果、とりあえずはその企みに協力してやろうということになり、柴ちゃんと肩を組んで、桃菓堂サイコー! と、叫びながらお饅頭を頂いた。



「ありがとうございました。今日のファン感謝祭よろしくお願いしますね!」



宮森ちゃんはそう言って俺達の側から離れ、今度は少し後ろにいた、守谷ちゃんと浜出君の2塁手コンビにも、そのお饅頭を食べさせていた。



一体なんなのだろうか。






「ふう、まだ時間あるから座って待っておくか」



「そうっすね」



お饅頭のまったりとした感じをスポーツドリンクでリフレッシュした俺と柴ちゃんは、上着を1枚羽織ながら、ベンチの1番前に腰掛ける。


「新井さん、結構お客さん入ってますよね!試合の時より多いかも!」



「どれどれ」



ベンチから少し身を乗り出すと、スタンドはなかなかの埋まり具合。



バックネット裏や両ベンチ裏のよさげな席はパンパンで、その後ろの内野自由席からポール際までも8割くらいの席は埋まっていて、外野スタンドはまだまばらだが、そこにも少しずつお客さんがやってきている。




「柴ちゃん、彼女さんは呼べた?」



「いやあ、やっぱり仕事が忙しいみたいで……」



「そうかい。何の仕事してんの?」



「………それは内緒っす!」



「なんだよ……。おっ、ビックリした! ビック君とトリーズちゃんじゃないか!」



背後に妙な気配を感じて振り返ると、そこには2体のマスコット。



ビック君とトリーズちゃん。




ピンク色のパンダの姿をした愛くるしい兄妹がいた。



中身は、俳優を目指している山内さん(男性25歳)と、元体操選手で今はスタジアム近くのスポーツジムでインストラクターもしている三井さん(女性23歳)だ。



俺は知っている。



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