みのりんは、ライバルの存在を知らない。
「あらー、これは!えーっと………あの時の………」
「………私のこと、覚えてます?以前お会いしたことがあるんですが」
「も、もちろん覚えていますよ! えっと、女子アナですよね!キー局の人気アナウンサーの………」
「…………」
「…………」
だいぶガッカリしたような冷たい視線。気まずい雰囲気。
めちゃめちゃ興奮するぜ。
「水嵩です。みずかさあやのです」
「そうそう、水嵩アナ。3年目くらいの方ですよね!」
「新人です」
あー! 当てずっぽうで言うもんじゃないね。
申し訳ございません!決して老けて見えたとか、そういうことではないんです!と、俺は土下座しながら謝った。
「決してあれじゃありませんよ。新人に見えなかったからといって、別にふけてるとかそんなんじゃなくて、新人なのに落ち着きがあるなあと、思っている感じでして………」
「別に気にしていませんよ。今日はめでたい取材なんですから、いつも通り、明るくお願いしますね。新井選手」
右側の黒く長い髪の毛をかきあげながらそう言った彼女の表情がアナウンサーのそれに変わる。
それを見た俺も影響されるように少しシャキッとした表情になり、数%男前になったので、イケメンレベルがカンストしてしまった。
「それでは新井さんはそちらから、この場所まで歩いてきて頂いて、水嵩アナからトロフィーを受け取って下さい。そこから2人のやりとりになりますので、是非ともよろしくお願いします!」
「分かりました」
「それでは、カメラ回しまーす!」
カメラマンを兼任するディレクターに演出されながら、廊下の端まで移動して、そこから水嵩アナとカメラに向かって、ニコニコしながら歩き出す。
「どーも、どーも。お疲れ様です」
そんなことを言いながら、俺は脱帽しながら会釈するようにカメラの前に入り、ビクトリーズのピンクキャップを被り直す。
「新井選手、お忙しいところありがとうございます」
「いえいえ」
「今回はですね。我々は、現役プロ野球選手に聞いた100分の1アンケートの、アベレージヒッター部門で、新井選手が見事1位に輝きましたので、その表彰に参りました。こちらがアベレージヒッター部門のトロフィーになります。おめでとうございます!」
トロフィーは、正方形の台に乗ったバット型のモニュメントになっており、2017年度100分の1アンケート、アベレージヒッター部門。
北関東ビクトリーズ、新井時人選手と、トロフィーの下部に付いているキラキラしたプレートにわざわざ掘り込まれていた。
「おめでとうございます。100人のうち、実に64人の選手が新井さんに投票しまして、見事ダントツでのこの部門の受賞になりました」
水嵩アナの白い綺麗な歯ががキラリと光る。最近は、モリモリご飯を食べる新人アナウンサーとして、夕方のニュースのグルメ特集をこなしたりなど、人気も急上昇中な彼女。
ボディの方も順調に蓄えているようでして、なかなかの豊満な柔肌具合。
そんなお人ですから、色んな物をくわえこんできたであろうそのお口をニンマリとさせながら、俺にトロフィーを手渡した。
「いやー、こんな賞を貰えるなんて思っていなかったので、めちゃめちゃびっくりしています。1年間頑張ってきてよかったですね」
「普段対戦する東日本リーグに所属する選手はもちろんなんですが、西日本リーグの選手からもたくさんの投票がありましたよ」
「シーズン序盤はケガがあったりして、なかなか試合に出られなかったんですが………あまり知らない西日本リーグの選手達からそんな風に思われていたと思うと、男としてちょっとゾクゾクしちゃいますね」
カメラを持つディレクターはやってくれたとニンマリと笑い、水嵩アナはちょっと引いた表情を一瞬だけ見せた。
ゾクゾクしますわね。
「ご自身としては、このアベレージヒッター部門の受賞はいかがですか?」
「まあ………確実にミートするバッティングが自分の持ち味だと思っていますし、それくらいしか勝負出来るものがないですからね。
そんな中で、その部分がある程度評価されたのは、素直に嬉しいですし、自信になりますね」
「今シーズン新井さんは、規定打席が僅かに足りなかったんですが、4割1分2厘という打率でした。これに関してご自身としていかがですか?」
「打率に関してはね。上手く行き過ぎた部分もありますけど、バッティングのパワーで他の選手に対抗出来るわけではないんで。自分の出来ることを確実にこなしたという結果としては十分に満足しています。これ以上というのはちょっと無理ですけど」
「それでは最後に、新井さんを応援してくれるファンもたくさんいらっしゃいます。夢の打率4割というもの当然期待されると思います。来シーズンに向けての意気込みを頂いてもよろしいですか?」
「打率4割というのはね、果てなき夢になるかと思いますけど、個人の目標よりも、今シーズンはチームとして悔しい結果に終わってしまいましたから。まずはね、最下位から1つ2つ順位を上げられるように、チームに貢献していきたいですね」
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