いい具合に太ももがむちむちしていた。

「マイちゃーん。寝るなら俺のベッド使うかー。そんな格好じゃ風邪引くよー」



「うーん……」



体をゆすって声を掛けても、彼女はだるそうな声を漏らし、寝返りをして俺から逃げるようにしながら、また寝息を立てる。



仕方ないなあ。まあ、ギャル美もイラストレーターのお仕事で毎日お疲れみたいだしね。



俺はそう思いながら、自分のベッドから毛布と厚手の掛け布団を持ち出し、起こさぬようにゆっくりとギャル美の体に掛けてあげた。



そして、ほんとに風邪を引かれたらかわいそうなので、彼女がゴロンとなっているリビングにエアコンと加湿器を稼働させて電気を消した。



俺は俺ですぐ横の部屋のベッドに横になり、少し厚着をして、夏用の掛け布団を肩から被った。



多少悶々としながら。



だって仕方ないじゃない。


代表の合宿中は禁欲生活。すなわちオナ禁状態だったんだから。



家に帰ってきた今日は思う存分発散するぞ!と意気込んでいたのに。



まさかギャル美がやってくるなんてね。ちゃんとそういうところも考えながらお邪魔してきて欲しいですわよね。



それでなくても、夏に買っただけで積んだままのゲームを触りだけでも進めておこうと思っていたのに。





ひどい話ですよ。




美味しそうな太ももしてますしね。









なんて思いながらも、ベッドで横になるとあっという間に睡魔に襲われて、気がつけばカーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。


枕元のデジタルな目覚まし時計は目覚ましが鳴る寸前の6時40分を指している。



そろそろみのりんのお仕事が終わる時間だ。



お迎えに行かなくては。



そう思って俺はベッドから起き上がる。







そういえば、ギャル美が遊びにきていたな。




それを思い出しながらリビングに向かうと………。




既に彼女の姿はなかった。



テーブルの上に散らかっていたビールの空き缶や食べたおつまみやお菓子のゴミ。



それに加えて、餃子を食べたお皿やフライパンがきれいに片付けされており、心なしかキッチンも少しキレイになっていた。



そして、書き置きを見つけた。





〈昨日は急に来ちゃってごめんね。疲れているのに迷惑だったわよね。でも、あたしは久しぶりにあんたの顔見られて安心したわ。


ありがとね。


布団掛けてくれたりとか。……もしかしたら、襲われるんじゃないかってドキドキしてたけど。


……なんちゃって。とにかくありがと。また飲みましょ。起きたらちゃんとみのりを迎えに行くこと。あと、今日のことは内緒!〉










ふーん。




色々と乙女心がくすぐられていますわねえ。




さて、迎え、迎え。









「にゃー、にゃー」



「よしよーし。お前はいつ見てもかわいいなー。ほらー、ここが気持ちいいかー?だらしない顔しやがって」



「にゃー」



みのりんの勤める洋菓子工場の正門前にて。



この辺に住み着いている野良猫を可愛いがっていた俺の前に、仕事終わりでちょっとハイになっていらっしゃるみのりんが現れる。



5人くらいの若めな女の子の集団がキャッキャッ、キャッキャッしながら敷地内の建物から正門に向かって歩いてくる。



まるでショムニのように、横1列になって、俺の方へとやってくる。



その真ん中に、今日は赤縁の眼鏡に茶色のロングコート。白いマフラーを首に巻いて、俺が誕生日プレゼントであげたバッグを腕から下げたみのりん様が朝7時の御来光に照らされて近づいてくる。






すると、他の4人達も猫を可愛がっていた俺の存在に気付いて、さらにキャー、キャーと騒ぎ出す。




「えー!? やっぱり新井さんですよねー」



「お迎えかー。いいなー!ラブラブー!」



「みのりさん、羨ましー」




側まで寄ってきた女の子達は、顔を真っ赤にするみのりんをそんな風にからかう。



「ちょっと、みんな。そんなに騒がないで」



と、みのりんは彼女達に一応は注意しているが、その顔はちょっと嬉しそうだ。








「みのりさん、お疲れ様でしたー」



「新井さんも、さようならー!試合頑張って下さいねー!」



「おふたりとも、お幸せにー」



すぐにそれじゃあと別れるのも忍びないので、5分6分世間話をして、他4人の女の子達と別れた。



その女の子達は、専門学生だったり、短大生だったり、フリーターだったり。1人年上で30歳くらいの人もいたようだが、みんな一緒のチームで2年くらいやっている仲良しグループらしい。



仕事の合間や休憩時間なんかに、たまにながら野球選手である俺の話題になるようだ。



みのりんはそんな話になる度に、せがまれるようにして仕方なく喋ってしまうのか、毎日ご飯を作っていたり、移動日の時は一緒に過ごしたりと、仲睦まじい関係であることを彼女達はなんとなく知っていたようだ。



そうと知ったら、さっきは普通に話をしていたが、俺まで恥ずかしくなってきた。




「ごめんね、新井くん。変に盛り上がっちゃって」



帰り道。運動公園の側の道を歩きながら、みのりんはちょっとだけ俯くようにして、俺に謝る。



「いいって、いいって。ほんとのことなんだし。今さら恥ずかしがることもないでしょ? ほら、こんなに清々しい朝だ」




俺はそう返して、北風にさらされて少し冷たくなっていた彼女の手を優しく握ったのだった。

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