動画の中でもやっぱりイケメンだった。
「そういえばさっき、ネットニュースに、まだ決まっていないオリンピックまでのフル代表キャプテンを誰にするかって話で、稲木監督が記者の質問に答えていたらしくて、何人かの名前の中に、あんたの名前が入っていたらしいわよ」
「は? なんで俺なんだよ。今回呼ばれたばっかりだったのに。………他には誰の名前があったの?」
「えっと、確か………。スカイスターズの平柳とか、若手じゃないけど埼玉の豊田とか………」
「その辺りの選手がキャプテンなら妥当だけど、さすがに俺はないと思うけどねえ。間違ってちょっと活躍したから、監督もテンション上がっちゃっただけだろうし」
「まあ、ネットの情報だから、あたしは知らないけど。……とりあえずもう1本飲みなさいよ」
ギャル美はそう言って、勝手に冷蔵庫を開けにいき、勝手にビールをもってきて、勝手に俺のグラスに注ぐ。
台湾戦の感じを見て、右打ちの外野手枠として、なんとなく代表に置いておきたくなるのは分かる。国際大会となると、レベルの高いリリーフサウスポーは出てくるだろうし。
プロ野球12球団から選手を好きに代表に選んでいいという許可と権利を得ているとはいえ、なるべく12球団からまんべんなく選ばなければいけないという風潮があるからね。
福岡ハードバンクスとか東京スカイスターズとか、広島カルプスとか。
今はその3球団がちょっとぬけて強い感じなんだけど、じゃあその3球団からたくさん選手を選んで、リーグ最下位のチームとかからは選ばなくていいや。
というわけにもいかないという現状。
ビクトリーズみたいな、他球団の1軍半の寄せ集めみたいなチームからも、ワンポイント風のピッチャーとかでもいいから選んでおかないと、なんとなく失礼というか、せっかく協力してくれている球団の顔も立たない。
代表に入って試合をしたら当然ケガするリスクもあるし、シーズンに向けてのコンディション作りや試合が大きくなるにつれ、選手のメンタル的な部分でも負担が出る。
逆に1球団から選びすぎてしまうと、そういう部分で球団に不利益が生まれてしまう可能性もあるわけで、おたくのレギュラー選手を6人も7人も貸してくださいというのは言い出しづらいものだ。
俺の他にビクトリーズで代表に選ばれそうな選手と考えると…………あまり思い浮かばない。
抑えのキッシーが一応は150キロを投げられてフォークボールが使えるから、中南米相手ならワンチャンあるかなといったところだが。
彼は抑えの癖にピンチに弱いし、メンタルもお豆腐みたいだからね。
稲木監督としても、俺以外のビクトリーズの選手をちゃんと知っているかも怪しい。そこまでじっくりは見ていないだろうしなあ。
資料とか試合のハイライトで一応チェックしておくくらいなもので。
とりあえず俺を選んでおけば、今年のビクトリーズはもういいや。
正直今はそんな感じだろう。
「ねえ。ロンパオ凄かった? そういえば、あんたが三振したの初めて見たんだけど。………チョーウケる」
ギャル美は、俺のスマホで勝手に動画投稿サイトから俺とロンパオの対決した様子の動画を引っ張り出して閲覧している。
どれどれとちょっと彼女を意識させるように、ギャル美の体にピッタリくっつくようにして俺も覗き込む。
その動画を見るのは初めてだが、配信から5日で20万回も再生されていた。
動画自体はテレビ中継の切り抜きで、動画タイトルにはビクトリーズ対決! 新井対リ・ロンパオと明記されていた。
「あー。このカーブをファウルにしたのが痛かったのよねー」
と、ギャル美はいかにも野球知ってるやろ! ドヤ!
みたいな表情を俺に向けてくる。
まあ、正解ですが。
頑張れ、頑張れと俺は応援したが、動画内の俺はあえなく三振。
最後はインコースよりの高めのストレートを空振っていた。
「じゃー、風呂入ってくるわー」
と、俺が言うと……。
「じゃー、あたしもー」
と、返すギャル美さん。
またまたー。などと苦笑いしながら着替えとタオルを持って脱衣室に向かったわけだが、内心は結構ドキドキしていた。
ギャル美ならワンチャンあるんじゃね?
なんて思いながら素っ裸になり、丁寧にボディソープを泡立てて、ちょっと眉毛を整えたりなんかしたりして。
いつもちょっと時間を掛けて念入りに体の隅々まで洗っていた。
ガラガラ!
「はろーん! 背中流しにきたよー!!」
裸にバスタオルか下着同然の格好でギャル美がお風呂にやって来た!
なんて展開もなく、いつも通り、普段通りのちょっと時間が長いだけのバスタイムが過ぎていった。
湯加減だいじょうぶー?
とか、乾いたバスタオル置いておくねーなどと、必ず擦り扉の向こう側で声を掛けてくる、シルエットみのりんの方がよっぽどドキドキ出来た。
ドライヤーで髪の毛を乾かし、歯もきれいに磨いてリステリンまで施し、部屋に戻ってみると……。
「かー、かー」
といびきをかきながら、短パンを脱いだ生足を投げ出しているギャル美は、いつも俺がおケツに敷いているお気に入りクッションを枕にして、お腹いっぱい、夢いっぱい。
満足そうな顔で眠っていたのだ。
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