結構、そういうところきっちりしてんねや。

「ありがとうございました。お世話になりました!」



水道橋ドームを出発したバスが滞在先のホテルに到着。



荷下ろしをしてくれたドライバーおじさんに改めてお礼を言った。



するとおじさんはキャップと両手の白い手袋を外して俺に両手を差し出す。



「こちらこそお世話になりました。応援してるんで頑張ってね」



「ええ。また日本代表にくるつもりなんでまたその時は。……くれぐれも体に気をつけて下さい」



俺は両手でおじさんとガッチリ握手を交わして、俺はホテルへと入っていく。



「新井さーん!メッシ!メッシ!」



と、平柳君にまた急かされるようにして、部屋に荷物を置いてから、前村君と合流してビュッフェレストランに向かった。



もう10日も行っているとすっかり顔パスになり、ホテルやレストランの従業員。他のお客さんやローストビーフをカットしてくれるシェフまでもが、優勝おめでとうございますと声を掛けてくれる。



俺は初戦の台湾戦にしか出ていないので、ちょっとむず痒い感じだったが、気持ち多めに盛り付けられたローストビーフサラダにご満悦。



テーブルに着いてから別途で初めてアルコール類も注文して、3人でコチンとワイングラスで乾杯して互いの活躍を労った。







レストランの美味しい料理とお酒に満足しながらも、俺達3人は風呂に行った後、ホテルを出て近くのコンビニへと入っていく。



「なんでも好きなもの買ってあげますよー。2人とも、頑張ってましたからねー」



と、平柳君が買い物かごを持つ。



前村君と一緒にイエーイとテンションが上がったのだが、ここでちょっとした事件が……。



なんでも買ってあげると言われたので、全部飲めやしないのに500ミリのビール缶3本と800円のビーフジャーキーと、おおぶりの酢イカやら300円のプレミアムアイスなど。



それをホクホク顔で抱えて平柳君のところに持っていったのだが………。



俺が持ってきたものを見て彼は………。



「何を考えてるんすか!?それはダメっす!」



と、酔いのしゃっくりをしながらそう言った。彼の声がコンビニ中に響いてびっくりするやつ。



「ビールはダメっす。飲むならこっちのを………。このビーフジャーキーもしょっぱいからダメ!アイスも脂肪分が高いからこっちのやつ!」



などと指摘しながら、ビールは糖質プリン体オフの発泡酒に。


ビーフジャーキーはプレーンなサラダチキンに。



プレミアムアイスはただのソーダアイスに。



それぞれ替えられてしまった。





なんということだ。なんでも買ってあげると言ってたじゃないの。









「普段口にするものから、気を使わないとダメっすよ! 野球選手なんすから!試合が終わってオフになるからって、なんでも食べていいわけじゃないんですからね!」


と、平柳君は真顔でまるでみのりんと同じ事を言いながら俺を叱る。



その平柳君の後ろにいた前村君。



俺とほぼ同じような意識低い系の食べ物を抱えていた彼は平柳君に見つからないように、その大きな体を縮めながら持っていた商品を棚に戻していた。



君も君でずるいぞ! 日本代表のエースよ。



「いいっすか、新井さん。そういうところをしっかりしないと長く活躍出来ないっすよ!」



「ふあーい」



すなわち、怒られたのは俺だけだ。




そんなこんなでだいぶ欲しいものとは遠ざかってしまったものを買ってもらい、部屋に戻って、なんだかんだ美味しく楽しく飲み食いしていた。



キャッキャッキャッキャッしながら、3人でプロ野球のスマホゲーム、マイプロをプレイ。




そして点けていたテレビから、ふいに俺の声が聞こえた。





「プロ野球のシーズンが終わっても、マイプロのシーズンはこれからだ!!」








「え!?」




「え!?」





平柳君と前村君が反射的に顔を上げてテレビに釘付けになった。そして互いにビックリした顔のまま見合わせている。










「マエムー、見た? 新井さんがCMやってる!今まさにやってるマイプロのやつ!」



スマホ片手に平柳君がテレビ画面を指差して騒ぎ始める。



「見ました! 新井さん!CMなんていつの間に撮っていたんですか!?教えておいて下さいよー!」



前村君は口をあんぐりと開けて、俺とテレビ画面を見比べる。




するとまた、マイプロのCMが流れ始めた。




CMはビクトリーズの真っピンクなユニフォーム姿俺がニコニコしながら椅子に座り、スマホを手にするところから始まる。



「おっ、結構リアルっすね!」



「これ俺じゃないっすか!」




などと、スマホをピコピコしながら楽しそうにしていて時折プレイ画面が混ざる。



フレンド対戦で真剣勝負と出て、宮森ちゃんとの試合画面がハイライトで入り、最後にカツーンと宮森ちゃんに逆転の3ランホームランを食らった俺が……。



「みやもりぃー!!」




と、悲痛な叫び声を上げるところがオチ。




〈4割打者もハマる本格プロ野球アプリ、マイプロで検索!!〉



と、ナレーションが入って……。



スマホ片手にカメラ目線の俺が………。



「プロ野球のシーズンが終わっても、マイプロのシーズンはこれからだ!」



と言ってCMは終了。





「「ギャハハハハハ!!」」




今度は2人が大爆笑した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る