先制点を取られたらあかんよ!

「韓国の先発は今シーズン、韓国リーグで17勝を挙げたソン。球速は最速151キロで平均が144キロほどなんですが、今の平柳への投球を見るとかなり力があるストレートを投げてきますね」



「ええ。多少、テイクバックが小さめでリリースポイントが見にくい部分はあると思いますが、ストレートに強い平柳君が差し込まれていますからね」



「日本の前村は15勝。韓国のソンは17勝。今回召集された選手の中では共に今シーズン最も勝利数を挙げているピッチャーの投げ合いとなりました、この第4戦の優勝決定戦です」




「日本は狙い球でしょうね。攻略のポイントは。……後はなるべく球数を投げさせて、早めに降板させる。日本の特徴である足で撹乱させていきたいですね」




「なるほど。5球目打ちました! しかし、これはセカンドの正面へのゴロ。………1塁送球アウト、2アウトです」







2番の藤並君はきっちりボールを選びながら、最後は真ん中付近のストレートを打っていったがやはり詰まされた。




そして3番の下林くんは2球速いボールで追い込まれて、最後はインコースの落ちるボールに空振り三振。



こちらも3者凡退で1回の表裏が終了。




やはりエース同士の投げ合い。




簡単に点は入りそうにもない。








試合はやはり膠着。



前村君は最速153キロのストレートに得意のスライダーとスプリットで韓国打線を寄せ付けない。


特に左バッター相手に4人中3人から三振を奪う完璧なピッチングを披露した。



しかし対するソンもストレートの速さこそ前村君に劣るが、ストレートを意識させて横に曲がる系と縦に落ちる系の2種類あるスライダーを投げ分けで外野に打球を飛ばさせないピッチング。


互いに3回を無安打に抑える投球内容で試合はあっという間に4回の表を迎えた。





カンッ!





韓国の1番バッターが低めのボールを引っ張ると打球は1、2塁間へ。




セカンドの平君が横っ飛びするも、打球はその横をすり抜けるようにしてライト前へと転がる。



これが両チーム合わせて初めてのヒット。3塁側スタンドにわずかながら集まった韓国ファンが青い棒状の応援グッズをバシバシと叩いて盛り上がる。




ノーアウトのランナーが出てしまった。




試合が始まって初めてのランナー。ここまで投手戦な試合展開。


送りバントかセーフティバントか。



まずはそんな素振りをしてくるだろうと考えていたら、1塁ランナーがスタートを切った。



そして韓国の2番バッターが高めのボールを強引に打ちにいく。



叩きつけられた打球が1塁線に高く弾んだ。






「打球は1塁線! 高いバウンドになりました!………ファースト柿山ジャーンプ!」



水道橋ドームの人工芝に叩き付けられた打球が高く弾む。



やばい、抜ける!



そう思った瞬間に、柿山君のミットも思っていたよりも高く上がった。



そしてそのファーストミットの先っぽにボールがギリギリ収まった。



1塁ベンチからはみ出したボールが少し見えるくらいのギリギリ加減。



ジャンプ具合もギリギリだったようで、着地した瞬間に若干よろめいたファーストの柿山君だったが、なんとかバッターランナーよりも速く1塁ベースを踏んでなんとか1アウト。



抜けていればノーアウト1、3塁という場面になるところだった。




続くバッターはボテボテのセカンドゴロで2アウト3塁となり、打順は韓国の4番に回った。




スコアラーが持っていた資料で確認すると、韓国リーグでは全試合に出場していながら、3番打者よりもホームランが少なく、5番打者よりも打点が少ない。



そのバッター達を押し退けて代表チームの4番に座っているのだから何かあると思った。




しかしそう思った瞬間には、ストレートを打ち返し、詰まった打球がライト線にふらふらっと上がり、ダイビングキャッチを試みた下林君の前に落ちていた。







「………打球はライト線! フェアーゾーンだ!ライト下林が飛び込むー!


………落ちた、届かないー! ヒットになります!3塁ランナーホームイン!! 下林が立ち上がって転々とするボールを追いかける! バッターランナーは2塁へ!…………韓国代表が4回表、1点を先制しました! 4番キムのタイムリーヒットです」



「速いボールで詰まらせたことは詰まらせたんですがねえ……。ちょっと高かったですよねえ」



「あー、そうですね。確かにインコースですが、高さはベルトよりも少し高いくらいのゾーンでしょうか」




3塁側の韓国ベンチは選手達がみんなグラウンドに飛び出してくる勢いで喜ぶ一方、日本ベンチはバックスクリーンのリプレイ映像を眺めながら落胆した雰囲気。




そんな中、ターイムと言いながらピッチングコーチがマウンドに向かっていった。




確かに先制点は取られたが、言い換えれば1点を取られただけ。しかもまだ4回で、多少打ち取ったような不運な当たりでもあったし、何よりマウンドには今日の日本代表では1番のピッチャーである前村君。



慌てて時間を取るような場面ではないが、継投とこうした場面でもアドバイスタイムを一任されているピッチングコーチはマウンドに向かっていったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る