長身サウスポーかっこよし。

身長190センチ左腕の前村君が水道橋ドームのマウンドに立つ。


少し目線が下がるベンチから見ると、まるで巨人が野球をしているようでちょっと他の選手とは迫力が違う。


前にそんなオーラ的なものを平柳君にも感じたが、選手としての凄みという部分では、西日本リーグを代表するピッチャーの方が上かもしれない。


やっぱり堂々とした姿でマウンドに上がるというのはやはりカッコいいものだ。





ズドン!!




今日もまた満員御礼。試合前のざわついた環境の中でも、前村君の投球練習のボールをキャッチした浦野君のミットの音がベンチまで届く。



3塁側ベンチにいる韓国代表の選手達も、打順の近い選手は立ち上がってバットを構えながら、他の選手もベンチの柵に両腕を伸ばして食い入るようにして、前村の君の投球練習を凝視してはなにかを話している。





そして、投球練習の最後の1球。



低めにバチンといったボールを捕球した浦野君が2塁ベースへボールを送り、それをもらった平柳君達内野陣がボール回しをする。



その間、マウンド上の前村君にも多少の緊張があるのか、手の付け根辺りで側頭部を叩いたり、肩を上下に揺らしたりしながら、自分になにかを言い聞かせるようになにかを呟いていた。





韓国の1番バッターが左バッターボックスに入ると、水道橋ドームのざわざわした雰囲気がぐっと緊張感に変わり、球審がプレイをかけると、一気にシーンと静まり返った。



そんな中、1つ2つで簡単にバッテリーはサインを交わし、振りかぶった前村君がダイナミックなフォームで初球を投げ込む。


真ん中低めいっぱい。浦野君が構えたところよりかは少し内側にきたが、それでも低さは申し分ない。



ボールがズドンと浦野君のミットに収まると、ワンテンポ置いて主審の右手が挙がった。



「ストライーク!!」



その瞬間、唾を飲み込むようにして静かになっていた観客が拍手が巻き起こる。



そして2球目も。



今度は真ん中アウトコースへのスライダー。甘いコースがきたと、果敢に振っていった韓国代表の1番バッターのバットが空を切る。



1球ファウルされ、低めに変化球が外れての4球目。



決めにいったボールはインコース低めのストレート。



だいぶホームベース近くに立っているバッターが思わず腰を引いたが…………。



捕球した浦野君はもうサードの青竹君にボールを投げようとしていた。



完璧なコースだ。



150キロを計測している。






「ストライク、バッターアウト!」



弓を射るような球審の決めポーズが炸裂。



初回の1番バッターを見逃し三振に仕留めた。









「空振り三振、最後はインコースへ切れ込むスライダー!これもいいコースに決まりました!初回1、2番を連続三振です!」



ストレート、ストレート、ストレートと、3つ速いボールで押し込んで最後は右バッターの懐へグインとくる変化球。


なんとかカットしようと中途半端なスイングになったバッターが空振りを取られて2アウト。




続く3番バッターは左。今シーズン、韓国リーグでは30本塁打を放ったスラッガーだが、前2人への配球がだいぶ効いていたようで追い込まれる前に慌ててバットを出した感じ。



2番バッターから三振を奪ったボールと同じスライダーを引っ掛けてくれて、力のないサードゴロ。



キャプテンの青竹君が前進し、ニコニコしながら軽やかに捌いて3アウトチェンジ。



勝てば優勝の決まる韓国戦の重要な初回に、前村君は完璧な立ち上がりを見せた。


どんなピッチャーでも、立ち上がりはどうなるか分からないところがある中で、相手にバッティングをさせないピッチングはやっぱりさすがですよ。



スタンドを埋めた観客から素晴らしいピッチングを称える拍手と歓声が起こり、追い越していく守備陣がナイスピッチングと声を掛け、前村君がそれに頷いた。




さすがは西日本リーグを代表するエースだ。







「よっしゃあ! 先制点取りにいくぞ!!」



「ウェーイ!!」



初回の守りをテンポよく3人で終えて、ベンチに帰ってきたキャプテンの青竹君が、やかましいくらいに周りを見渡しながら気合いを入れる。



そして、目を見開いて俺の真ん前に立ちながら先制点だー!と、大声を出した。



ツッコミ待ちということなんでしょうか。




「おおっ、向こうのピッチャー、結構速いな」



後ろで誰かがそう言った。



韓国の先発はソン。これまた前村君と同じく左ピッチャー。



前村君は身長190センチのどちらかといえばスラッと体型だが、韓国のピッチャーは170センチ後半くらいでずんぐりとした体つき。



ロンパオみたいに馬力があって直球にかなり力があるタイプだ。




バキィ!




現に、果敢に初球から振っていった平柳君のバットが真っ二つにへし折れた。



バックネット前に上がった打球をマスクを投げ捨てたキャッチャーが追いかける。


フェンス際までいったギリギリのところでがっちりキャッチで1アウト。



バックスクリーンに写し出されたリプレイ映像では、打ったのはインコースのベルトの高さくらいのストレート。



インコースに強い平柳君があっさりバットを折られたのだから、やはりストレートの威力というのはかなりありそうだ。


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