どれどれ、前村君の力量を見せてもらおうじゃないの。

おじさん3人が集まって、呑気にそんな会話をしていたので、バッティング練習が終わった後、稲木監督の肩を背後からゆさゆさとしながら、かんとくぅ! スタメンで使ってくださいよぉ!


と、お願いしてみたのだが………。



「ダメダメ。この前も言っただろう! 預かってる選手に無理はさせられないんだよ! もうさっきスタメン記入しちゃったし、今日は代打で頑張ってくれ」



と、振りほどかれてしまった。





いけずなおじさんだぜ。




とはいえですね。取材しているメディアや解説者おじさん達は、大一番だし、また平柳、新井の並び。



台湾戦で見せたような相性抜群の1、2番が見たいよねえと、俺の顔を見る度にそう煽ってくるのだ。




もちろん俺だって、出来ることならスタメンで出て行って、日本チームの為に、働いていきたいところだけど、結局は稲木監督の判断が全てだからね。




これが世界大会の決勝で、後にきっちりバックアップ出来る選手がいるなら手負いの俺を一か八かのスタメン起用があるかもだけど、お試しで開催した若手のアジア杯だからね。



リスクを負っていく試合でもない。








対韓国 スターティングメンバー。




1番 6 平柳


2番 8 藤並


3番 9  下林


4番 DH 棚橋


5番 3 柿山


6番 2 浦野


7番 5 青竹


8番 7 斎藤


9番 4 平


P 前村




30分後に発表されたスタメン表に、もちろん俺の名前はなかった。





「今大会ここまで打撃好調であります、平柳と藤並という並びで1、2番を組んできました稲木監督です」



「そうですね。2人とも足も使えますし、この2人でどんどん塁上をかき回す展開になればクリンナップの攻撃力がさらに活きてくるでしょうね」




「第1戦の台湾戦では2番に入っていたビクトリーズの新井なんですが、残念ながらこの試合もスタメンからは外れました。またちょっと本調子ではないんでしょうか」



「ええ。しかしね、今日は全体練習をこなしていましたし、バッティング練習でもいい当たりを飛ばしていました。………その後話をしましたら、だいぶ腰の痛みもなくなってきたんで期待して下さいと言っていたんで………。まあ、出番があれば期待しましょう」



「スタメンからは外れましたが、どこか勝負どころで代打で起用される場面はあるでしょうか。そして、3番は下林。4番棚橋は第1戦から変わりません。………しかし、下林がまだこの大会ノーヒットなんですね。昨日も2三振ノーヒットといいところはありませんでした」



「ええ。ちょっとね……まあ、厳しい攻め方もされますし、仕方ないところもありますが。……結構いい当たりは出ているんでね。……1本出たら爆発する可能性はありますよ」










「その他打線の注目は、ここまで打率5割、広島カルプスの浦野でしょうか。打撃好調で今日は6番に入っています」



「ええ、シーズン終盤からクライマックスシリーズまで非常にいい形でバットが振れていますね。キャッチャーの選手のバッティングが好調ですと、非常に打線に厚みが出ますからねえ。打つ方でもいい仕事を期待したいですよ」




「そして今日の日本代表の先発は、大阪ジャガース、エース左腕の前村。今シーズンは15勝5敗。防御率はリーグ2位の2、61。惜しくも最多勝と最優秀防御率は逃しましたが、西日本リーグ最多の190奪三振。満を持して今日の韓国戦の先発マウンドに上がります」



「力量というところでは、やはり前村が頭1つ抜けている評価ですからねえ。その分、恐らくは韓国代表も相当前村に関しては研究してきているでしょうけど、ちょっと力が違うんだぞというピッチングを期待したいですね。


キャッチャーも同じ西日本リーグの浦野ですから、問題はないでしょう。……無駄なフォアボールを出さないことですね」




「なるほど。さあそして、試合前両監督による記念撮影とメンバー表交換が終わりまして、いよいよ試合開始です! まずは後攻の日本代表が守備に向かいます」






「守ります、日本代表。………ライト、下林。…………センター、藤並。……………レフト、斎藤」




チームメイト達がアナウンスされてグラウンドに飛び出す度に、触られる前に触ってやれとばかりに、ベンチの1番前に乗り出して、ベンチから出ていく選手のおケツをつるんと触ってあげる。



中には逃げていく選手もいるので、それをベンチの中で追いかけ回すわけだが、はしゃぎ過ぎてベンチのヘリに、思いっきり右すねを強打。



なにしてんだ、こいつ………。という監督とコーチ陣の冷たい視線が突き刺さる。



ベンチの床でひっくり返る俺のおケツが今度は逆に、グラウンドへ出ていく選手達によって、次々につるんとつるんと触られていく。




「だ、大丈夫っすか?思いっきりぶつけたように見えましたけど」



今まさにマウンドに上がろうとする先発ピッチャーである前村君にすら半笑いで心配される始末。



「このくらいいつものことだよ。……君も力まないように気をつけるんじゃよ」




「新井さんを見ていたら、勝手に余計な力なんて抜けていきますよ」




そう言って前村君は帽子を被り直しながら、大股で颯爽とベンチを飛び出していった。





「日本代表、先発ピッチャーは…………リキ、マエムラー!!」



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