そりゃ、決勝戦は出ますわよ。
水道橋ドームの試合だからやっばりなんだかんだ基本的には平柳君のところにいったりと、試合には出ていないが、カメラに写っている時間や回数はなかなかのもの。
テレビ中継でも、昨日大活躍しながら今日は腰に違和感があるため新井はベンチスタートですなどと紹介されたりしているだろうから、それを踏まえて、ベンチの中でおもむろに立ち上がって腰を回したりだとか。
いつでも代打の準備はしていますよアピールで、バットをにぎにぎしてみたりと、それなりの抜きポイントを野球中継の流れを汲みながらその都度提供していくのも、日本代表に選ばれた選手の役割である。
そんな努力もあってか、中国代表相手に試合を優位に進めた日本。
2回に浦野君のタイムリーで先制すると、3回には4番棚橋君、5番柿山君の連続タイムリー。
中盤には、チームのキャプテン青竹君のソロホームランと打撃好調の浦野君にも2ランホームランが飛び出し、リードを広げ、終盤8回には満塁のチャンスで代打横川君にもタイムリーが飛び出して試合を決めた。
投手陣も4人の継投で中国打線を完封し、9ー0の完勝。
その勢いは第3戦のオーストラリア、ニュージーランド連合相手にも衰えることはなかった。
185センチ、190センチという体格の選手が当たり前のようにいる、オーストラリアニュージーランドチームに最初見た時は驚いた。
みんなラグビー選手のようにすごい体つきをしているし。
中にはメジャー経験のある選手や日本でもプレー経験がある選手が選出されていたりしたが、多くの選手が来日するのが初めてだったようだ。
オーストラリアは絶賛シーズン中だから、特にパワーのある中軸には気を付けろと言うのがミーティングでは何度も打ち合わせされていた。
しかし逆に言えば怖いのはそのくらいということになる。
そんな中、来日してから強化試合をここまで2試合こなしてきたとはいえ、白い天井の水道橋ドームにはまだ慣れていないようで、2か国の連合チーム故、内野の連携にも隙があり、セーフティバントや盗塁を絡めた日本らしい野球が効果てきめん。
平柳君が3盗塁、藤並君、平君が2盗塁ずつと、とにかく足で積極的かき回し得点を積み重ねた。
相手の中軸にパワフルなホームランを2本食らう場面もあったが、それはご愛嬌。
終始試合をリードする状態で進め、8ー3のスコアで快勝。
中1日おいて3連勝で迎え撃つは、同じく無敗で第4戦目を迎える宿敵韓国。
さすがにこの試合には、俺が出なくてはならないだろう。
と、思いましたので韓国戦の当日。
今日も残念ながら別メニュー。
というわけにはいかない。今日でアジアなんちゃらカップも終わりなんだから。これは出来るというところを見せなければならないと心に決めた俺。
若手選手2人に手伝ってもらって、トレーニング用である、のびーるカラフルなゴムを引っ張ってもらって、ヘッドコーチの目の前でリンボーダンスをして、腰の状態をアピールする俺。
するとそのヘッドコーチは………。
「分かったよ。稲木監督には言っておくから。みんなの練習に混ざれ。……くれぐれも無理はするなよ」
と、ため息をつきながら許しをもらった。
よっしゃあと気合いを入れてキャッチボールしたり、ティーバッティングしたり、ノックを受けたり。
3日休んでじっくりマッサージを受ける時間も多かったので体は軽くて絶好調。
元気よく声を出して練習に取り組んでいると、周りの選手達も嬉しそうに俺のおケツを触ってくる。
後はピッチャーの投げるボールがちゃんと見えるかどうかと、自分のスイングにズレがないかを確認する感じ。
ちょっとその辺りは心配しながらフリーバッティングのケージに入ったのだが……。
カアンッ!
カアンッ!
カアアンンッ!
いいね、いいねえ!
バッティングおじさんが放ってくれる打ちやすいボール。
それにバットをかち合わせると、静かな水道橋ドームの中に、乾いた打球音が心地よく響く。
だいたいの試合の日が満員から来る大歓声でグラウンド包み込まれる、日本で1番最初のドーム球場の試合前練習の時間。
この別世界のように静まった雰囲気が割と好きだったりする。
そんな世界の中で、俺の打球音が響き渡るのだ。
それだけで相当なモチベーションになる。
肝心の打球はというと、右中間へ左中間へ。はたまたライト線へ。台湾でやらかしたようなホームラン性の打球こそはでないが、ヒットゾーンへなかなかに鋭い打球が飛んでいる。
自分でもバットが振れているのがよく分かる。
そんな中、バッティングケージの外で難しい顔をして俺のバッティング練習を見つめる、稲木監督をはじめ、ヘッドコーチ、打撃コーチの会話に聞き耳を立てる。
「思ったよりも、新井君いいなぁ」
「そうですね。どうします? 監督。一応本人はもう腰は大丈夫って言ってますけど。リンボーダンスをしながら」
「うーん。でも、スタメンはちょっとなあ。あいつすぐヘッドスライディングするし、守備も危なっかしいからね。………使っても代打かなあ」
「僕も賛成します。左ピッチャーも苦にしないんで中盤からベンチ裏でバットを振らせておきます」
「そうだね、よろしく頼むよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます