実況！４割打者の新井さん２

自分でも怖いです、はい。

調子に乗ったバッティングをして後悔することだけはないようにしよう。

そんな風に思いながら俺は打席に入る。

１打席目はまだしも、２打席目の左中間へのホームランははっきり言って自分のバッティングではなく、北海道や大阪などのもう少し広い他の球場ならレフトフライになっていた打球だ。

結果的には一時勝ち越しとなるホームランになったとはいえ、手放しで喜べるようなバッティングではない。

そう言った意味も含めて、日本代表の首脳陣達は打席に入る直前の俺をわざわざ呼び止めたのかもしれない。

俺が調子に乗らないように。

そうだったとしたら、なかなか俺の扱い方を弁えているじゃないかと、お褒めの言葉を遣わそう。

そんな感じで２打数２安打で迎えた３打席目とはいえ、かなりフラットな気持ちで俺は打席に入りバットを構えた。

狙うはストレート。

ストレート１本。

前の打席は落ち損ないのフォークボールをホームランにしているからね。

なおさら男ならば、この場面はつべこべ言わずにストレート１本狙いだ。

他のボールが３つきたら、見逃し三振でも仕方ない。

そのくらいの気持ちで俺は相手ピッチャーのボールに狙いを定めた。

ピッチャーがセットポジションから投球動作に入る。

ビシュッ！！

ギュイン！

ククッ！！

あ、全然スライダーだった。

カアアンンッ！！

ストレート狙いだって言ってるのに。

アウトコースギリギリのいいコースなのに。

スライダーだったのに。初球から手を出すようなボールじゃないのに。

それを打ちにいってしまった自分に心底驚いた。

バットを持った瞬間、まるでもう１人の自分がいて、普段は表にはいないそいつの意思によってスイングさせられたみたいだ。

勝手に体が反応した。試合が終わった後に聞かれたら俺はそう答えるしかない。

そんなスイング。そんなバッティングだった。

ただ打球は誰もいない右中間の真ん中へ。

１塁ランナーの平柳君がものすごいスピードで２塁ベースに向かっている。

俺もそれに釣られるようにしてバットを放り投げて走り出した。

「初球変化球打ち返した！………右中間だ！ 広く空いた右中間の真ん中を破っていくー！！ ２塁ランナーの藤並が３塁を回る！………フェンスに到達したボールにようやくセンターが追い付いた！………俊足の平柳も……３塁を回ってくる、回ってくる！

打った新井も３塁へ向かう！ ボールはセンターから中継のショート！ ３塁へ送られる！！ ………新井はヘッドスライディング！ タッチは………セーフだ！！ ………スリーベース！！ 再び新井のバットで勝ち越し、５ー３！！ 日本に貴重な貴重な勝ち越し点が入りました！

見たか、台湾！ピンクバットの輝き！これがビクトリーズの新井であります！」

俺のユニフォームがまた１つ土で汚れた。

今日何発目となるだろうか。

目の前で藤並君と平柳君もかましていたし、もはや、絶対にやらなくてはいけない気がしてくるヘッドスライディングで、なんとか１つ先の塁を奪うことに成功した。

右バッターボックスから、３塁ベースまでの全力疾走で得たのは今日３本目となるヒットと勝ち越しの２点。

そしてホームランを打った時よりもすごい、割れんばかりの大歓声。

スタンドは揺れて総立ち。

俺はヘルメットを外しながら軽く右手を挙げて、歓声に応え、１塁ベンチにも向かって拳を突き挙げた。

ホームインした藤並君と平柳君も、俺の方を振り返りながらガッツポーズを見せる。

日本代表の試合だぜ、これ。

もう俺はいろいろと泣きそうになった。

まるで自分が自分じゃないみたい。

諦めずにやってきてよかったと、またそんな風に考えてたりしていた。

「またしても新井の一振りです。自身今日３本目のヒットは、再び勝ち越す２点タイムリースリーベースヒット！ ビクトリーズの遅咲きルーキーが代表戦で輝いています！！」

「打ったのはスライダーでしたね。外角ギリギリの難しいボールでしたが、見事狙い打ちしましたねえ。素晴らしいバッティングですよ。普段から染み付いた右方向への意識。最高の輝きですよ」

「ナイス、ナイス！！」

「もう、新井さん、大好き！！」

「新井さん、サイコーっす！！」

「新井さん、最強！MVPっす！」

チェンジになってベンチに戻ると、そんなお褒めの言葉を投げ掛けながら、俺のおケツ目当ての輩がまたしてもワラワラと集まってくる。

そして当たり前のように、面白がりながら俺の可愛いおケツを愛撫していく。

それをしっかりとフォーカスするテレビカメラ。

そのうち、１８禁野球みたいなことになりかねないかもしれないぞ。

そうなっても俺は一切責任は取りませんからね。俺が触らせてるわけではないので。奴らが勝手に触ってきやがるんで。

しかし、ちょっとそんな雰囲気になるくらい、この２点で５ー３と勝ち越したのは大きかった。

同点に追い付いて、よし！ ここをしっかりと抑えて終盤勝負だ！ と、目論んでいた台湾代表に冷水を浴びせた形。

粘り強く試合をしてきた台湾の勢いを削ぐには十分な１打だった。

７回表、８回表と、日本代表のリリーフ陣は磐石。

所属チームで抑えやセットアッパーを務める防御率ガチ勢のブルペン陣が台湾代表に出塁すら許さない。

試合は５ー３と日本リードのまま、８回裏。

このままいけば、今日最後となる俺の打席が近づいてきた。