やっぱりこれってドームラ……

「新井さーん!!」



「イエーイ!!」



「コラ、触るな!」



「新井さん、ウェーイ!!」



「揉むな!」



「ほんとに新井さんですか!?」



「新井さんだよ!」



「すげえ、すげえ!! ナイスホームランっす!」



「新井さん、こっちにもお尻向けてー!!」




「ふざけんな!」



と、ハイタッチの列がキャッチャーの浦野君を過ぎて選手ゾーンに入ると酷いもの。



平柳君を先頭にして、皆少し下に向けた目をギラギラと輝かせている。



そしてすぐさまもみくちゃにされて、俺の可愛いおケツが悲惨な目になっている。



しかし、それくらい俺のホームランをまるで自分のことのように喜んでもらえるのは嬉しい。


ほとんどの選手は面識もないのに、これだけ盛り上げてくれると、涙が出そうになる。


額の汗を拭うようにして誤魔化しながら俺はベンチにようやく腰を落ち着けた。



おケツが揉まれ過ぎてもんごもんごしている。



そのおケツを触れたので少し落ち着きを取り戻した平柳君も俺の隣に戻る。



「まさか新井さんに先を越されるとは……」



「はっ、まぐれだよ、まぐれ」



「でも、自然にバットが出てていいホームランでしたよ」



「ああ、どうも………」




ホームランが出やすいこの球場の左中間じゃなかったら入ってなかったね。



と、言い出しかけた俺だったが、平柳君はこの水道橋ドームをフランチャイズとするチームの選手なので、それは止めておいた。







3番の下林君がセンターフライに倒れて3アウトチェンジ。


しかし、3回裏のスコアボードに1という数字が入った。


打った人に似て、やたらイケメンな数字の1。



トータルスコアで3ー2と日本代表1点を勝ち越した状況に、スタンドを埋める観衆から拍手が起こっているのがベンチの中にいても分かる。


そして俺が守備に就くためにグラウンドに出ると、拍手がさらに大きくなり、さらに歓声また一段と大きくなった。



まるで俺の為に集まった4万人の大観衆。そう錯覚してしまうくらいに。



「でも、調子に乗ったらダメっすよ?」



後ろから追い付いた平柳君がそう言う。



「分かってるよ」



「だいたい新井さんは調子に乗ったらダメになるんで」



「俺の何を知ってる……」




「ナニを知ってる………?」





あ。こいつはヤベー奴だった。相手にしない方がいいぞ!




俺はジュニアとおケツを隠しながら逃げるようにレフトのポジションへと走っていく。



「ア・ラ・イ!!」



ドドドン!




「ア・ラ・イ!!」




ドドドン!



「ア・ラ・イ!!」



ドドドン!




というライトスタンドの応援団からコールが飛んでいたので、藤並君が投げてきたボールを山なりで返しながら、帽子を持った右手を挙げて俺はその大きなコールに応えた。









「低めいっぱい見逃し三振!! 最後は150キロストレート!! 2者連続三振で4回を投げ終えました、添田。3ー2! 依然、日本が1点リードです!最後三振に取ったボールは抜群のコントロールでした!」



「そうですねえ。添田投手は立ち上がりからかなり苦労しましたけど、ようやく自分のボールが投げられたという感じですねえ」



だいぶスロースターター癖のある添田君にもエンジンがかかってきて、レギュラーシーズン12勝をマークしたそのピッチングを遺憾なく発揮して台湾打線を封じ込めた。



そして4回を球数70球。2失点と形作ったところでピッチングコーチおじさんが添田君のところへ行って、一言二言何か言葉を交わして、軽く握手をした。


どうやらピッチャー交代のようだ。出来ることならもう1イニングいってくれると助かる感じではあるけど。



中4日。大会最終日に、1番大事になると思われる韓国戦が控えているからね。添田君はそこの試合でも登板があるのかもしれない。




そして5回表、代わった東京スカイスターズの万能左腕と言われていた北川投手を台湾の中軸に捉えられ、2アウト2塁からライトフェンス直撃のタイムリーツーベースを打たれて、3ー3。



試合は再び同点となった。




試合は6回裏の日本代表の攻撃へと移る。







「この回先頭の7番浦野がセカンドゴロに倒れまして、1アウトランナーなしでバッターボックスには8番の平が入ります。


………今シーズン所属する大阪ジャガースでは自己最多の116試合に出場し、打率2割4分6厘でしたが、6本塁打も自己最多。……大原さん、平はオールスター前に少し怪我がありましてねえ……」




「ええ、そうですね。9月に1度球場で会ったんですが、あの時は2軍から上がったばかりで、また少し足に痛みはあるといっていましたけど、ジャガースの内野では欠かせない存在でしたからね」




「9月の中頃までは、大阪ジャガースも西日本リーグの3位を狙える位置にいましたからね。……ちょうど平が離脱したタイミングで5連敗、6連敗がありまして…………。


さあ、これはいい当たりだ、平! 打球はセンターの……前に落ちます! 見事なバッティング! 平は今日初ヒット! 日本、勝ち越しのランナーが出ます!!低めの変化球だったでしょうか。見事な当たり、クリーンヒットです!」






平君の打球がヒットになった瞬間、1塁側の日本ベンチが盛り上がる。



「よっしゃあ! 繋げよ、藤並!!」




「ランナー貯めて上位に回せ!!」



控え選手達の声がうるさいくらいにベンチに響いていた。






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