ロンパオ!選ばれたんなら教えておいてくれい!
「リ・ロンパオ! 背番号36」
ん? ロンパオ?
なんか聞き覚えのある名前だなあと思ってグラウンドに目を向けてみると、ベンチから飛び出してきたのは、普段からよく目にする、もちゃっとした体型のまん丸お顔。
ロンパオって、ロンパオか!確かにあいつ台湾人だったもんね。
と、そんなアホな思い出しをするくらい意外だった。
確かにビクトリーズのリリーフの中ではそこそこ活躍はしたけれども。
なるほどねえ。………あいつが台湾代表ねえ。なかなかやるじゃないの。俺に対してここまで内緒に出来るとは。
ロンパオは他の選手達と同じく、列の先頭からハイタッチをしていく。
並んだ台湾の選手は、3塁側スタンドに体を向ける形で待機しているのだが、ロンパオはくるりと1塁ベンチの方を向いて帽子を取って軽く会釈した。
もしかして、俺に挨拶したのかしら。
まあ、場内の照明がくらいからベンチの何処に俺がいるかは見えないでしょうけども。
最後に日本でも活躍した経験のある台湾代表の監督さんがアナウンスされて、次は日本代表の番だ。
「お待たせ致しました! 続きまして、日本代表スターティングメンバーをご紹介致します!」
そうアナウンスされると、台湾代表の時は大人しく見ていた観客達がわあっと盛り上がった。
「それじゃあ、新井さん。お先に行ってきます」
「いちいち言わんでいいよ」
1塁ベンチから少しフライング気味に、JAPANとロゴの入ったキャップを被り直して、平柳君がグラウンドに足を踏み出す。
「後攻の日本代表………1番、ショート、平柳」
「「ウワワァァァッッー!!」」
アナウンスされて、スポットライトに照らされた平柳君に観客から割れんばかりの大歓声。
この水道橋ドームを本拠地とする、東京スカイスターズの看板選手。さらにはついこの前の日本シリーズでも大活躍でMVPですから、当然と言えば当然の反応。
まるでハリウッドスターが来日したかのようなもの凄い注目度に、相手である台湾代表の選手達も、思わず振り返る。
そしてその平柳君が1塁線に辿り着くと………。
「2番、レフト、新井。背番号64」
後ろから誰かにおケツを触られながら俺はグラウンドに飛び出した。
すると………。
「……え?……ウ……ウオーッ………」
というざわざわとした歓声。
平柳君の時とはまるで違うじゃないか。
まあ、スカイスターズさん相手にはそこそこ打たせてもらいましたし、ご自慢の平柳君が霞んで見えるくらいのイケメンですから、素直に歓声を送るのが恥ずかしいのは分かりますけど。
とか考えていたら普通にベンチを出たところでこけてしまいました。
そりゃあ、ぽっと出の選手かもしれないが、もっと期待がこもったような歓声をくれてもいいんじゃないの?
どちらかといえば、え? 新井が2番なの? スタメンなの?
という驚きのリアクションが水道橋ドームに蔓延した中での、見事なずっこけだったから、まあまあのウケ具合だ。
まあ、とにもかくにも俺もフェアグラウンドまで行くと、平柳君が右手を挙げて俺を見ていた。
少し暗い中でもよく分かるくらいにニカッとした眩しい笑顔だ。
パチンとハイタッチされると、平柳君はさも当たり前のように、俺のおケツをパチンと叩いた。
「新井さん! なにこけてるんすか!爆笑ですよ!」
「なあに。ほんの挨拶代わりさ。これでみんなの緊張も解けるってもんだろ?」
そう返しながら、俺は少し振り返り、ロンパオがいる方向に手を振った。
もちゃ男もそれに気付いて、小さく手を振り返す。
「3番、ライト、下林」
「「ワワァァァッー!!」」
あ。下林君はいいやつの歓声だ。
ずるいぞ。
その後も、Uー25縛りの代表選手とはいえ、所属チームでは中心選手として活躍している選手ばかりなので、期待するファンからの応援は熱い。
その声援が耳に入る度に、俺の心の中にある真っ黒な炎がメラメラと蠢きはじめるのを感じた。
「よーし、みんな準備いいか!」
試合前のセレモニーが終わり、ドームの照明が元に戻り、バックスクリーンに改めて、両チームのスタメンと先発投手が表示され、いよいよ試合開始。
ベンチ前では選手全員が集まり、今大会のキャプテンを任されのは25歳、俺を除けば最年長である愛知ドラゴンスの柿山が円陣の真ん中で片膝を着く。
「えー、ついに始まってしまうけども。お客さんもいっぱいいますし、1人1人が積極的に思いきってプレーしましょう! 緊張して転んでしまった人もいるんで、集中していきましょう!絶対勝つぞ!!」
「「オオイッ!!」」
軽く弄られながらの円陣が解かれて、まずは後攻の日本代表の選手達が守備に就く。
俺もグラブの中にサインボールをたんまりと詰め込んでレフトの守備位置に向かっていく。
「日本代表、先発投手は………添田。背番号18」
そして最後に、ピッチャーの添田ベンチから軽く駆け足で現れて、まっさらなマウンドに立つ。
キャッチャーの浦野からボールを受け取り、マウンドに足場を作って、ロジンバックを手にしているが、その姿はどこか不安げ。
動作1つ1つが少しぎこちない感じ。ピッチングコーチおじさんが懸念していた通り、だいぶまだ緊張しているようだ。
さてさて、そんな時はさっきのオチャメなずっこけに続いてまたまた俺の出番かな?
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