平柳君、それ犯罪ですよ。

「新井さーん、ナイスバントー!」



「ナイバーン!」



「やりますねー、新井さーん!」



などと、チームメイト達は白い歯を光らせながら右手を差し出す。代表に選ばれての1番最初の打席。


誰もがまずは自分のバッティングをやりたいシチュエーションで出た送りバントのサインに従って、きっちり1発で決める。


こんな姿また、オールドルーキーの味である。



俺はみんながそうやって注目するものだから、少し興奮しつつ、ハイタッチに応えようと両手を差し出したのだが………。



もにゅ。



もみもみ。




パーン!パーン!




チームメイト達の手は俺とハイタッチすることなく、俺の可愛いおケツに向けられていた。



柔剛猛襲。




ニヤニヤした若い奴らは、バントを決めて返ってきた俺のお尻目掛けて手を伸ばす。



「これが噂に聞く新井さんのお尻かー」



「いい感じっすねー!」



「ご利益がありますように」



「次の打席でヒット打てるようにお願いします!」




撫でたり、揉んだり、掴んだり。



挙げ句の果てには俺の可愛いおケツを拝む奴まで現れた。



別に神様か何が住んでいるわけではないんですがねえ。



とりあえず、チームメイト達のそんな衝動が収まるのを待ってからようやく、俺はベンチに腰を下ろした。



すると……。





カアンッ!!







バッターボックスには、トップに返ってスカイスターズの平柳君。


初球のストレートを思い切りよく振り抜くと、会心の当たりとはならなかったが、打球は高く跳ね上がって、ピッチャーの頭の上を越えてセンターへ。



3塁ランナーに続いて、2塁ランナーもズザザーと滑り込んで2者生還。



Uー25日本代表が3回裏に、日本シリーズMVPの1打でまずは2点を先制した。



よっしゃあ! と、両手を挙げるベンチの皆々に、満足のいくヒットではなかったからか、1塁ベース上で少し恥ずかしそうな顔をする平柳君。



それでも、俺が右の拳を何回も振ると、それに合わせて平柳君も、顔の横で小さくガッツポーズをした。





その後、3番下林、4番棚橋の連打でさらに1点追加。



3ー0とリードを広げた。





試合はそのスコアのまましばらく進み、5回裏。



この回先頭打者として、俺の第2打席が回ってきた。



マウンド上のピッチャーは3人目。右投げの社会人ピッチャーが現れ、俺に向かって振りかぶる。



しかし、いまいち馴染まないのか、投げながらマウンドを掘り直したり、何度も腕を振る動作を確認しながら俺に投げていたが、カウント3ー1からのストレートが低めに外れてフォアボール。



俺はその直後に代走を出されて交代となった。





試合後半は、ベンチからチームメイト達に声援を送る側に回り、試合はプロが実力と意地を見せた形になり、8ー0とわたくし達の完勝。



1番の平柳君が3安打2打点。4番棚橋が2本のツーベースで3打点と、稲木監督がチームの中心に据えた、今年のプロ野球を象徴する2人が結果を出した、Uー25日本代表。


アマチュア選抜相手ながら、まずは上々の船出となった。




船には乗ってませんけどね!



その後は大阪に行くために新幹線には乗りましたけどね!




次の日には、大阪サウザンドドームで独立リーグ選抜との強化試合が行われた。



試合は序盤に2本のホームランを許して0ー3とリードされるも、この日は下位打線に入った8番キャッチャーの浦野、9番センターの藤並が大当たり。共に猛打賞の活躍で打線に勢いをつけた。



4回に同点、5回に勝ち越すと、6回には打者1巡の猛攻で一気に独立リーグ選抜を突き放し、15安打11得点と打線が爆発した。



これがプロの意地。プロの力。ここでアピールすれば、ドラフト指名もあるのではと目論んだ独立リーガーの野望を粉々に砕いた形だ。まあ、ホームランを打った3番、4番の選手は凄かったけれども。



そんな中で俺は6回からレフトの守備に就き、回ってきた1打席は、相手ピッチャーが急にコントロールを乱して、またしてもフォアボールでしたとさ。




これもまた味である。








「ふー、疲れたー」



「疲れましたねー。なかなかこの時期の試合はきついっすよ」



大阪での強化試合を終えて、都内のホテルに帰ってきた日本代表。



俺はまるで旅行先から帰ってきた気分になり、手に持っていた荷物を放り出して、ベッドに飛び込んだ。



「俺もー!」



平柳君もどうしてか俺を追いかけるようにして同じベッドに飛び込み、シーツに顔を埋めながら俺のおケツを揉む。




「離れろや、コラァ!」



「きゃうん!」



俺は平柳君の体をベッドから突き落とした。




「いててて……。新井さんはひどいなあ」



そう言いながらも、エヘエヘとにやつかせた顔をベッド下から覗かせた。



キモイです。



宮森ちゃんが俺にキモイと言ってしまう気持ちが分かりました。



「あ、そーだ。新井さん、連絡先交換しましょうよ!」



「何だよ、唐突に……」



「いいじゃないですかー。じゃあ、ケータイ借りますね」



ベッドの下から、無駄に機敏な動きでポーンと跳ね上がると、彼は俺のスマホを手に取り、画面ロックを解除した。



「………って、なんで暗証番号を知ってるんだよ」



「移動中のバスで、新井さんがみのりんっていう女の子にメッセージ送ってる時にちらっと。2回横目で見たらなんとなく分かりますよ」





キモイです。


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