高橋蒼太が大人気

今ドラフト1番の当たりくじを引いた埼玉ブルーライトレオンズの監督さんがテレビカメラをインタビューを受ける。



インタビュアーが来るまでの間、カメラと音声の準備が整うまでの間も、隠しきれない嬉しさでそわそわしている様子だった。





「いやー、5球団競合というのは想像以上でしたが、当たりを引けてよかったです。僕達と一緒に、埼玉ブルーライトレオンズで頑張りましょう!いい返事を待ってます!!」



そう答えた埼玉の監督さんの様子を見ていたNo.1投手の頬が思わず緩み、白い歯がキラリと光って、カメラのフラッシュがこれでもかと焚かれた。



昨今のプロ野球ドラフトでは、指名前に希望の球団を口にすることは御法度らしく、例え意中の球団に指名されても、すぐさまヤッター! などと満面の笑みで喜ぶ。


なんてのも、イメージや他の球団に失礼とかそんな理由で在籍するチームからそう教育されるらしく、カメラ越しには、指名される選手は、みんないい子に見えるような印象になってしまう。



そんな様子を毎年のように見えていると、たまにはもっと尖った選手が出てこないかと思っているのだが。


ビクトリーズかよ、クソが。チッ……。くらいのヤツが現れて欲しい気持ちもある。



まあ、それで春になって活躍出来ればいいけど、しくったらめちゃめちゃ叩かれそうだしね。



大人しくしているのが無難と言えば無難ではあるが。







「まだ1位指名の確定していない、北関東ビクトリーズ。大阪ジャガース、愛知ドラゴンス、福岡ハードバンクスは、改めて1位指名の選手を提出して下さい」



当たりくじを引けなかったチームは選び直し。どうしようかと首をかしげて相談する、各球団の監督や人事関係、スカウトのボスなど、険しい表情を浮かべるおじさん達の様子がテレビ画面に写し出されている。



そんな中、いわゆる外れ1位と言われる指名が始まる。




「第1巡選択希望選手。……北関東ビクトリア。…………高橋蒼太。23歳、投手、東部中央ガス」






ビクトリーズの外れ1位はまたしてもピッチャー。社会人野球では毎年全国大会に顔を出すチームのエースピッチャー。


完成度が非常に高くすぐに先発で投げられる逸材と評判。



先発投手の頭数として計算出来る大卒社会人の即戦力ピッチャーは、どこも欲しいところ



「第1巡選択希望選手。……大阪ジャガース。………高橋蒼太。23歳、投手、東部中央ガス」





「第1巡選択希望選手。………愛知ドラゴンス。……高橋蒼太。23歳、投手、東部中央ガス」






「第1巡選択希望選手。……福岡ハードバンクス。……高橋蒼太。……23歳、投手、東部中央ガス」





高橋蒼太、大人気やんけ。







「やったー!! 」



と、喜んだのは大阪ジャガース陣営。



手にした当たりくじを確認した大阪ジャガース球団代表が両手を握ってガッツポーズし、振り返ってジャガースの丸テーブルにいる数人のおじさん達と喜びを分かち合う。



外れた3球団は、早くも今日2匹目の苦虫を噛むことになり、がっかりした様子で自分達のテーブルに戻り、泣きそうな顔でペットボトルの水を大して乾いてもいない口に含んだ。



そしてその後すぐに、外れ外れ1位の指名に移ることになり、3球団の指名選手はようやくばらけ、全ての球団の1位指名が確定した。



ビクトリーズが2人のピッチャーを外した後に、1位で指名したのは、キャッチャー。



六大学リーグで活躍した、緑川という右投左打ちの打てるキャッチャー候補。



3位か、よくて2位くらいの指名になるのではないかと言われていた選手。



確かにキャッチャーというポジションは、うちの補強ポイントの1つではあった。



ベテラン鶴石さんの後釜候補が正直不在という形だから、キャッチャーを早めに確保したいところであったが、即戦力のピッチャーを立て続けに外したのは悔しい。



ドラフトの2巡目からは今年の下位球団からのウェーバー方式により、すぐさまビクトリーズの2位指名が行われる。




「第2巡選択希望選手。北関東ビクトリア。………福原智也。22歳、内野手、貫志大学」






プロ野球のドラフト会議の1番の魅力といえば、やはりドラ1選手のくじ引きにあると思うが、各球団の思惑や駆け引きが絡み合う2巡目以降もなかなか見ていて楽しいものだ。



今年、投手力が奮わなかったチームは、大学生・社会人の即戦力ピッチャーを取りに行く。



内野手の高齢化が目立つチームは、前評判が高くアマチュアのチームで中心を担っていた活きのいい大型内野手の獲得に乗り出す。



期待出来そうな全国区のキャッチャーを、2位3位で根こそぎ持っていくチームもあるし、将来性を期待して、のびしろのある高校生スラッガーを上位で指名するところもある。



それを見ているだけで、来シーズンからどんな戦い方をしたいのか、どんな選手に期待しているのかが見て取れて、各球団が思い描く数年後のチームカラーというものがなんとなく予想出来る。



我がビクトリーズは、全てのポジションが補強ポイントと言ってしまっても過言ではない状態だ。



ちょうど1年前。北関東ビクトリーズという球団が参入すると決まり、他球団から移籍したいという選手がいれば受け入れる体制ではあったのだが。



中には移籍拒否があったり、交渉が上手くいかなかったりと、思うように新球団トレードが進まなかった背景がうちにはあった。





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