ちょっと宮森ちゃん、それは酷いですわよ。

とりあえず、今日は帰ってゆっくり出来るんじゃないかと思っていたら、ところがどっこい。


そのまま球団事務所に連れていかれて、パンイチにされた。まだこっちは心の準備が整っていないというのに。



パーティションとか保健室にあるような白い布の目隠しなんて何もなしのところでおパンツ一丁である。



そして宮森ちゃんは、事務所の隅にある棚からお裁縫箱みたいなものを引っ張り出し、中からビニール製でふにゃふにゃタイプのメジャーを取り出す。



「それじゃあ、新井さんの体を測りますからじっとしていて下さいね。…………えーっとまずは………」




どうやら日本代表ユニフォームのための採寸をするらしい。



あと半月くらいで大会は始まってしまうので、今から俺のユニフォームを1から作ることは出来ないが、あるサイズから最適なものを選び出すために、細かな寸法が必要らしい。



日本代表の協会から届いたメールには書いてある。



その文面をプリントアウトした用紙を宮森ちゃんは何回も確認するようにして覗き込む。



そして、まずは俺のバストを計る。



ビニール製のメジャーの冷たい感触が俺の乳輪に襲いかかる。



「…………あっ、…………はうんっ!」




「ちょっと! 変な声出さないで下さいよ!」



吐息も感じられるくらいのすぐ近くで、宮森ちゃんが顔を赤くした。赤くしながらも、最近は、日頃のトレーニングのおかげで、なかなかの仕上がりになってきた俺の体にメジャーをあてがう。





「えっと、ひとまず寸法はこれでよしですね」



スリーサイズやスリーサイズやスリーサイズなど、俺のプライベートな部分全てにメジャーが当てられて、文字通り俺は丸裸にされてしまった。



まるで貞操を奪われた気分だ。初めてはみのりんかワンチャンあればポニテちゃんと、心を決めていたのに。



まさか、宮森ちゃんに奪われてしまうなんて。




「あと最後に………背番号は何番がいいかとありますが」



「背番号………日本代表の背番号か。これはなかなかに考えさせられる案件だな」



宮森ちゃんに訊ねられた俺。表向きはカッコつけて感慨深そうな顔をしていたが、正直背番号なんて何番でもいいや。25歳以下のヤング選手だけの日本代表だし。変に気負う必要もないだろう。



という気持ちだった。



「いいよ、今の俺の背番号で」



そう答えると、宮森ちゃんの目が一瞬泳いだ。



「わ、分かりました」



彼女はそう言って、用紙に記入するわけではなく、どうしてか自らのスマホを取り出して、ピコピコと操作し始めた。



俺はその姿を見て発狂した。



「きさまぁ! まさか、俺の背番号が分からないのか!?」



「ち、違います! 突然として、友達からメールが!」



「嘘つくな!貸せ!!」



俺は彼女のスマホを取り上げた。



ビクトリーズ 新井さん 背番号 とブラウザ検索しようとするところだった。



全く。とんでもない娘ですわね。



毎日のように目にしている俺の背番号が分からないなんて。









10月28日。午後2時。



秋キャンプから離脱した俺は、午前中は朝からビクトリーズスタジアムに隣接する室内練習場でトレーニングを行っていた。


1時間じっくりとウォーミングアップを行い、2軍の関西弁トレーニングコーチに付き合ってもらって、キャッチボールやゴロ捕球のノックを受けて、その後はマシン相手に300スイング。



125キロ程の真っ直ぐに、右ピッチャー左ピッチャー両方の変化球を意識した打ち込みをして、最後に軽くマッサージを受けて帰ってきました。



今はみのりんの作ったオムライスなどなどを頂きまして、彼女の部屋のソファーで横になっていたら、ドラフト会議が始まりました。



もうそんな時期なんですねえ。すっかり忘れていましたわ。



去年はドラ10の俺のところまでテレビはおろか、ラジオですらやっていなかったから、あんまりドラフトに関しての思い入れはない。



自分が指名されたのを知ったのは、だいぶ時間が経ってからだったし。どうかしてますよ。




後になって慌てて、フル動画のドラフトをユアチューブで探しましたよ。




それを見たら全球団の支配下指名の最後の最後にちゃんと指名されていました。



第10巡選択希望選手、北関東ビクトリア。



新井時人。27歳、外野手。フリー。




そんな感じで。




フリーってなんやねん。俺はノンアルビールかよとそんな気持ちになったりもしました。



テレビ中継では、今まさに各球団の1位指名が続々と発表されているところ。


最下位のビクトリーズが、大学生No.1投手と呼び声の高い右ピッチャーを指名すると、それを皮切りにそのピッチャーの名前が重複していく。


MAX155キロ。春のリーグ戦ではノーヒットノーランも達成したというピ爽やかな青年の指名は、最後の福岡ハードバンクスも含めて5球団が競合する展開。



頭が若干薄くなり始めたおじさん達が緊張した面持ちで、壇上に横1列にずらりと並ぶ。



その中には、うちの萩山監督の姿もある。



ストライプが入った紺色スーツに身を包み、左胸にビクトリーズマークが入ったピンクシルバーのピンバッジを着けている。


その萩山監督が指名した選手のくじ引き。その最初の1枚を引く。



5枚のうちの1枚。



確率は20%。



その確率で今年のNo.1評価のピッチャーがゲット出来る。



大事なくじ引き。



5人目のおじさんが残った最後の1枚のくじを引くと、一呼吸置いてアナウンスが流れ、5人のおじさんが一斉におぼつかない手つきで自らが引いたくじの中身を確認する。



その瞬間、会場がざわめき立つ。




画面左端の萩山監督は、うわあっ、しまった!といった悔しそうな表情。



ガッツポーズしたのは、5人のちょうど真ん中。埼玉ブルーライトレオンズの監督さんだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る