第1章 第一波 未知との遭遇
第5話 聖職者 VS 地球産ゾンビ 未知との遭遇 ゾンビウィルスもし戦わば
「死体が消えた?」
二人の兵士が安置されていた寝台は無人だった。
薄暗い地下室にあるべきものがないというのは恐怖である。
「誰だ、勝手に遺体を動かした者は」
司祭Aは咎めるようにあたりを見回すと部屋の隅に兵士がいた。
鎧を見ると、見張り役でも任されたかのような下級兵士らしい。
そんな身分の低い者が自分を無視する失礼に憤慨した司祭は兵士を肩を掴む。
「貴様か、このようなイタズラをしたのは?」
一介の兵士ごときが自分の仕事を邪魔したことに憤りを感じて怒鳴った。が、振り向いた兵士の顔を見て司祭は言葉を失った。
その兵士の顔は上半分が削り取られていたからだ。
「AAAAAA!!!!!!」
兵士は突然、司祭に襲いかかる。
目がないはずの兵士は司祭Aの首筋に噛みつくと、頸動脈と僧坊筋をかじり取る。
「!!!!!!!!!」
想像もしない激痛に司祭は助けを呼ぼうとしたが、喉笛を噛みつかれてはかなわなかった。
「っ! !!!!」
何とか押し退けて逃げようとした司祭Aの前に別の兵士の姿が見えた。
助かった!!
この者が身を呈して自分を逃がせば、優秀な治療師なら、この状態でも治癒できる。
誰かは知らないが神に感謝したい気分だった。
だが、
「UUUUUUU!!!!!」
その兵士も頬がかじり取られた異形の化け物だった。
この部屋にいた死体は二つ。
その片割れは何の迷いもなく司祭Aの頭に噛みついた。
はげしい吐き気と意識の混濁を感じたが不思議と痛みはなかった。脳には痛覚がないからだ。
振動で自分の頭蓋骨がかみ砕かれるのを認識しながら、司祭Aは自分の死を悟ると、ぼんやりと部屋の隅に横たわる兵士の鎧が見えた。
ああ、この化け物たちは、逃げる彼らを食べていたから姿が見えなかったのだな。
だとしたら、彼らも自分も目の前の化け物のようになるのだろう。
何の根拠もないが、そう確信しながら司祭Aは生き絶えた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ゾンビが出ました!」
地下の様子を見ていた兵士が急を告げる。
念のために司祭Aを囮にして様子を見させていたのである。
「よし!では予定通り聖職者たちを派遣せよ」
「はっ!」
聖職者。
それは現代だと教会の牧師や神父となるのだろうが、ファンタジー世界だと一味違う。
クレリック・プリーストなど様々な呼び名があるが、基本的に毒消しから回復魔法まで神の加護による神聖な魔法を使用する補助魔法職である。
その魔法の中にはアンデットを消滅させる聖属性の魔法も含まれる。
力が強くて凶悪なゾンビが敵と判断した王様は彼らを集め、どこからか攻撃を仕掛けている(と推測した)死霊使いへの対抗策としていたのだ。
10人で構成された聖職者は女性をリーダーとして地下へ向かった。
その姿を見て彼女たちの上司に当たる司教は、
『彼女なら大丈夫だろう』とゆるぎない信頼で見送った。
彼女たちは勝てないまでも、すべての聖属性魔法をすべて使ってから死んでくれるはずだ。
その結果によって自分が功績を横取りするか、別の手ゴマを派遣すれば良い。
そう判断していた。
慎重で狡猾な司祭は、油断せず捨て駒として自分の地位を脅かす存在を派遣したのである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
彼女たちが現場に到着した時とゾンビが安置室の扉を破ったのは、ちょうど同時だった。
「あ!聖職者様方!」
扉を守っていた兵士たちの顔に希望が灯る。
彼女たちは優秀なアンデット退治の専門家で、これまでに何度もゾンビやグールなどの不死生物を退治してきたからだ。
そんな専門家が10人も来ているのである。
「早く、この汚れた者たちを退治してください!!」
と兵士の従者が憧れの籠った目ですがる。
荘厳な衣装に身を包んだ聖職者は杖を振り上げると、それに呼応して他の聖職者も杖を掲げ呪文を叫ぶ。
「「「「「「「「「「ターンアンデット!!!」」」」」」」」」」
聖なる光が膨大な束となってゾンビとなった守備隊長を包み、神の祝福の元ただの死体に…………………………ならなかった。
「………………………あ、あら?」
説明しよう!
ファンタジー世界のゾンビとはブードゥー教をベースとした『魔法によって死者が蘇っただけの存在』であり、某国民的ゲームのように回復魔法や浄化魔法で退治できる雑魚モンスターである。
だが、地球産のゾンビとは●ウィルスとかの細菌兵器で変異したものが多く、邪悪な存在とか魔法的な要素は一切ないのである。
つまり
「…………なんで平然と歩いてくるのよ」
無効。
全くの無効。
ウイルスに魔属性も聖属性もない。
熊に蚊取り線香を使うくらい、意味のない攻撃だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「きゃあああああああああ!!!!!!」
聖職者の叫びが地下に響き渡る。それは恐怖よりも血だらけで不潔な存在が迫って来る生理的嫌悪から来るものだった。
ゾンビなど見慣れているが、接近されるのは初めてだ。
「
変色して気味が悪くなった腕を突きだすゾンビに、パニックを起こした聖職者は思いつく限りの対不死属性呪文を唱える。
あまりにも慌てすぎて権利的にやばそうな名前の呪文まで総動員するが、当然効果はない。
むしろウイルスのHPが微妙に回復して寿命がほんの少し延びたのだが、微生物の知識を持たない彼女にそんなことはわかるはずもなかった。
台所で
そこで
「これでも食らえ!!!」
密かに聖職者に憧れていた従者が、ありったけの勇気でゾンビにランタンをたたきつけた。
アンデッドには火炎系の魔法が有効。
これは古来よりF●シリーズなどで言い伝えられてきた常識。
最近のFPS系ゾンビゲームでも火炎放射器などが用いられていることからも明らかである。
だが
「ぎゃあああああああ!!!!!!!」
従者の叫び声があがる。
人間の体というのは火葬場で800度以上の温度で燃やしても白骨化するのに1時間ほど時間がかかる。
たかがランタンの火程度では、水分を十分含んだ地球産ゾンビの表皮を燃やせても筋肉まではなかなか燃やせないのである。
つまり、意志を持って襲いかかる炎の塊をつくったようなものだ。
火が燃え移ったゾンビは、何事もないように歩き続け、従者に襲いかかると彼の体をも火だるまにしたのである。
「撤退よ!」
敵がもはや自分達の手に負えないと判断した聖職者は逃亡を決めた。
火に燃えながら、ゾンビにかじられた哀れな従者が恨めしそうに彼女の後姿を見つめていた。
■聖職者VS地球産ゾンビ
結果;ゾンビの勝ち 決まり手;無属性攻撃と火焔
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エクソシストって映画でも悪魔払いの専門家が登場するものの、逆に体をのっとられるそうですね(未視聴
アンデッドひと山いくらのファンタジー世界と違って地球産のアンデッドは特注品のごときチートさがあると思います。
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