第3話 第一戦 王宮の守備隊 VS 地球産ゾンビ
今回から残酷描写が入ります。
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「客人よ。我々にあなたを拘束する意図はないのだ。その証明として、扉を開けよう。だから落ち着いて対話に応じてほしい」
そう言うと守備隊長は扉を開けた。
「え?」
その目に映ったのは黒い黒い口の中だった。
大きく開いた口の奥。真っ白な歯が近づくのが見えて…
「ぎゃあああああああああ!!!!!!!!!!」
守備隊長は絶叫した。
頭蓋骨の一部を噛み砕かれ、右目を失ったからだ。
端正な顔の半分は真っ赤な鮮血で染まり、骨の破片や肉片が床に飛び散る。
あまりにも予想外の光景に、部下たちはとっさに動けなかった。
「GAAAAAAAA!!!!!!」
想像を絶する激痛に守備隊長は右目を押さえると、地球から来た軍人は彼にのしかかり首筋に噛みついた。
「…なっ!何をする!!!」
慌てて引きはがそうとするが、ビクともしない。
まるで獅子や虎にのしかかられたように強力な力で抑えられ、自分の体がゆっくりとかじり取られていくのが、骨の振動を通して聞こえてくる。
鼻孔がかじりとられ、右耳が引きちぎられ、右ほほの感触が消えてくる。
それを何の抵抗も出来ない無力な自分。
「あああああ・・・・やめろ・・・やめてくれ・・・・」
プチプチプチン。と軽い音をたてて筋肉が裂け、血が吹き出す。
まるでごちそうにありついた犬のように一心不乱に守備隊長を貪る軍人。
「貴様ぁあああああ!!!!」
やっと我に返った兵士たちが槍で背中を突き刺したが
「……………Aー」
軍人はまったく痛みを感じた様子もなく、真っ白な脂肪と青白い静脈血をつけた血だらけの顔で振り返った。
その目は白目を剥いており、一目で異常だとわかった。
「副隊長!槍が効いていません!」
兵士の一人が叫ぶ。
3本の槍で体を貫かれているのに、目の前の軍人は悠然と骨を噛み砕きながらこちらを見る。
そして、全く重さを感じさせない動きで、ゆっくりと体を反転させた。
「うわぁあ!」
槍ごと体を持ち上げられた兵士たちは軍人の背中に従って180度回転する。
「……………Uー」
背中の守備兵を追いかけて軍人は後ろを振り向く。
兵士は振り回される。
まるで自分のしっぽを追いかける犬のような光景だが、ほほえましさはない。
こらえきれず手を離した兵士が尻餅をつくと
「UGYAAAAAAAAA!!!!!!」
今まで亀のようにゆっくりと動いていた軍人は、熊のような凶暴さで兵士に襲いかかり、地面に押しつけると鼻をかじった。
「っ~~~~~~っっっっっ!!!!!!!!!」
言葉にならない悲鳴を上げる兵士。
そんな事はお構いなしに兵士の顔をかじり続ける軍人ゾンビ。空腹時に餌にがっつく犬のようなその勢いは誰も止められない。
「助けて!!!誰か…止めろ!目をかじるな!ああ!」
そこで兵士の言葉は途切れた。
ガタガタ動くのが面倒だったのか、軍人が上唇を骨ごとかみ砕いたからだ。
「くそっ!!!離れろ!」
他の兵士も懸命に槍で首を刺したり、引きはがそうとしたが軍人ゾンビに致命傷は当てられなかった。もう死んでいるから。
顔の半分をかじりとられた哀れな兵士はショックと失血で死亡した。
アンデッド系のモンスターは基本的に刃物で切断するのが基本である。
だがこの世界では『ゾンビは死んだ人間が呪文で動くもの』というファンタジー世界独特の常識があり、『噛まれただけでゾンビになるパターンもある』とは思いもしなかった。
パニック系の最強サメが現実に存在するなどと常人が考えもしないようなものである。
それゆえに兵士たちは初動を誤り2人の犠牲者を出したのである。
■王宮の守備隊VS地球産ゾンビ
結果;ゾンビの勝ち 決まり手;不意打ちと単純な暴力
「何事ですか!」
変事を聞きつけて他の兵士たちも駆けつけたが、軍人は全く動じる様子もなく音のする方向へ向き直る。
「うわぁ!なんだこいつ!」
体中に鮮血を浴び、目や鼻の一部を顔に張り付けている光景は戦争慣れしている兵士でも目を背けたくなるほどの凄惨さだった。
人間同士の戦いやモンスターと戦ったときでもここまで顔を破損した死体と言うものにはお目にかかった事がない。
三毛別のヒグマと正対した村人もこのような気持だっただろう
自分の想像を超えた異世界の異常者を見て嘔吐するものまでいるなか、奥歯をガチガチと震わせながら抵抗しようとしたその時
「へえ、真面目そうな男と思ったけど、中々にイカレてるね。君」
という楽しげな声とともに軍人の右目にナイフが突き立てられる。
突如現れた黒いフードに黒い短剣の男。
「だめだよ、王宮でおイタをしちゃあ」
そう言うと軍人の影の中に入り、兵士の影から姿を現す。
異世界魔法の使い手、暗殺者の登場である。
次回 第2戦 闇系暗殺者 VS 地球産ゾンビ に続く。
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卑怯なるだまし討ちによって倒されたファンタジー世界の兵士たちですが、身体能力自体は決して低くないです。
中世ヨーロッパを想定して書かれた彼らは従軍経験もあるし機械で楽ができないので普段から力仕事による腕力、徒歩による強靱な足腰、戦争による殺戮には慣れています。
ゾンビ映画のタフガイポジションより少し弱い程度が一般兵の力、今回犠牲となった守備隊長は同程度の実力くらいでしょう。
不幸だったのは『発祥するまではふつうの人間だけど、一度ゾンビになると見境無く襲いかかって来る』という地球産ゾンビのお約束を知らなかった事。
コロナだって、数年後に特性が理解されたら「何で飲み会とか密閉空間でカラオケなんかやったの?」と思われるかもしれませんし「きちんとした防止策をとれば大丈夫だったのに、なんでそんな簡単な事をしなかったのだろう?」となるかもしれません。
分からない物に対して人間は初め様々な試行錯誤をするため色々、頓珍漢な事をやってしまいますが、そういった例が集まって初めて有効な対策が見つかるものだと思います。
次回は影の中をワープできるチートキャラとの対決。
動きの鈍いゾンビとの相性は良いですが、どのような結果になるでしょうか?
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