最終話

 桜も散り始めて、場所によっては葉桜となってしまっている春四月。出会いもあれば別れもある季節だ。俺と萌々花は自宅アパートの最寄り駅のホームで互いにバッグに入った大きな荷物を抱えて人目を気にすることなく佇んで話し合う。


 ――萌々花と出会ってからかれこれ三年が経っていた。


「あのね……。わたし、漣と別れたくない……」


「……萌々花。頼むからワガママを言わないでおくれ、こればかりは仕方ないんだ。もう――諦めてくれ」


 俺は今、ただ真剣な眼差しをもって萌々花と見つめ合うことしか出来ない。いっぽうの萌々花の目には薄っすらと涙のようなものが浮かんでいる。目尻も心なしか赤いような気がする。


 俺が乗らなくてはいけない列車はもうまもなくホームに到着するとアナウンスが流れている。


『急行池袋行きがまもなくホームに到着いたします。黄色い線の内側でお待ち下さい――』


「もう、行くね?」

「嫌――、待って……」


 ……。

 ……。



「わたし、別々の学校に登校するのは未だに慣れないよ……。今日は前期の初登校日だから荷物も多いし」

「さすがにこの生活もまる一年なんだよ? 俺ら大学二年だぞ、萌々花もいい加減慣れなよ」


「だって、駅まで一緒なのにホームで上り下り方面でお別れなんて悲しすぎるでしょ?」

「それはわかるけど。俺と萌々花じゃ元より大学が別々なんだし、そもそも学校の場所さえぜんぜん違うんだからしょうがないじゃん⁉」


「だよね~ 分かってる~ そんなことよりもまだ花粉症が辛いんですけど! もう少しでシーズン終わるって言ってたのにまだ目が痒いんですけどー!!」

「いや、それは……薬飲んで我慢してもらうしかないよね⁉」



 俺たちは一年前に高校を卒業した。受験勉強を頑張った甲斐があってお互いが志望する大学に合格していたのでその年の春から大学へおのおの通うことになった。けど当たり前かもしれないが、いかんせんお互いのキャンパスのある場所がぜんぜん違う。だから登校するのが別々の方角になるのは仕方ないところ。


 萌々花の通う家政系の大学は県東部にあって、電車は一度下り方面に乗らないといけない。一方の俺の通っている大学は都内にあるので、当然ながら上り方面だ。


 それなので講義の時間帯がたまたま合って俺と萌々花が一緒に登校する場合に毎度繰り返されるのが、『漣と別れたくない』のくだりなんだよね。


 お約束な寸劇ってやつを二人で楽しんでいたりするってわけさ。


 大学入学に際して、通学時間のことも考慮して通学しやすい場所に引っ越しするって話もあがったんだけど、二人が出会ったこの場所を離れるにはまだ名残惜しさが消えなかったんだ。この場所の思い出が深すぎて、単純に効率を考えてあっさりと違う場所にって思えなかったんだよね。


 まあ、この他にもいくつか引っ越さなかった理由はあるんだけどね。

 実は高三になった時、思い切って拓也たちに俺たちが義兄妹になった、なっていたことや一緒に暮らしていることなんかを告白したんだ。まあびっくりもされたし、なぜだか納得もされたよ。どうもいろいろと恋人関係以上のものをみんなは俺と萌々花に感じていたらしいんだよね。その告白の後ぐらいから我が家がみんなのたまり場になっていたりするんだ。これはその告白から二年経った今も同じ。たまにうちに集まってワイワイとパーティー紛いなことを楽しんでいたりしている。


 だから今でも高校時代から住んでいたマンションにずっとふたりで住んでいるってわけ。


 因みに拓哉はスポーツ推薦で大学でもサッカーをやっている。雫ちゃんはそれをサポートするようにメディカルトレーナーを目指して専門学校に通っている。雫ちゃんが思いの外拓哉に尽くすタイプだったんでちょっと驚いたりもしたね。

 北山さんは文学部に入学したし、ジンは相当受験勉強を頑張って北山さんと同じ大学の経営学部に入った。二人同じ大学なんてなかなかロマンチックじゃないか? ジンは未だにホムセンバイトを続けているみたいだし、両家は家族ぐるみの付き合いに発展しているそうだよ。変わらないもの、変わるものいろいろだよな。


 俺としてはこの二組が高校卒業と同時にお別れ、なんてことにならなくて実はホッとしていたりしていたんだよね。実際、例えばユヅルくんと篠田さんは高校卒業後の進路の違いが原因の一つになって交際がだめになったみたいだしさ……。


 新しい道を歩み始めた時、同じ方向を見ているのか別の方向に目が行っているのかなんていうのはものの良し悪しの問題じゃないもんな。こればっかりはしょうがないね。いい風に言えば発展的解消ってことになるのかな? でも別れなくて済むならそっちのほうがいいなって俺は思うんだけど……。


 そういえば、須藤だけど予定より遅れたけど結婚したよ。もちろんお相手は佐藤先生だ。

 俺らが高校三年に上がった時、佐藤先生が担任から外れたんでどうしたのかなって思っていたら、須藤との間に赤ちゃんが出来たようで産休を見越しての担任外しだったようだった。三年生の担任じゃ、いちばん大変な時期に産休・育休に入ることになるからだそうだ。

 その月には須藤たち二人は籍を入れて、その後、俺の両親を仲人に据えて小さな結婚式を挙げていたのは今でも目に焼き付いているよ。ふたりとも本当に幸せそうだったね。まったく須藤のくせに生意気だよな。


 赤ちゃんといえば、もう一歳になるけど俺たちの妹も生まれているよ。名前は佳凜かりんっていうんだ。もうどうしてくれようかってくらい可愛くって、実家に帰った時はずっとかまっていたんだけど、かまいすぎてちょっと嫌われた感が……。


 ある日、「にぃに、ちらい!」って言われた時のショックといったら例えようのないものがあったな……。おにいちゃんかなしい……。おねえちゃんにはすごく懐いているっていうのにさぁ~。悔しくなんかないからねっ。


 佳凛は超パパっ子なので誠治父さんのデレデレっぷりもかなりの見ものだよ。いつもは一応フィットネスクラブの社長としてキリリとしているんだけど佳凛の前ではもうその威厳なんてこれっぽっちもなくなるんだからさ。

 母さんもひとり佳凛を生んだので慣れたからもう一人二人生むんだって張り切っていたよ。父さん、佳凛ばかりにかまけていると近いうちに佳子母さんに襲われちゃうかもよ?


 そういう二人を見ていて、いつか俺と萌々花もこの両親のような夫婦になりたいなって思うんだよね。


 そういうわけで俺たちも我が家族も仲間も、今でも、たぶん将来もけっこう幸せたっぷりです。



 おしまい



※※※★※※※

これにて『親に捨てられ知らない土地で一人暮らしするはずだったんだけど、どういうわけかギャルな美少女が転がり込んできたので二人暮らしになりました。』は完結となります。長い間ありがとうございました。

途中、1年以上更新が空いてしまったり、下書きがPCの故障で吹っ飛んでしまったりと色々ありましたが、ここに完結できてホッとしております。

読者の皆様方の応援があってからこそのこの完結と思っております。

次作はまだホワッとしか構想が無いのでどうなるかわかりませんが、もしよろしかったら、公開の際には読んでみてください。


本当にありがとうございました。


PS.

まだ★点けていない方は忘れずに★★★にしておいてくださいね♥










※長めのエピローグ一話あります。

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