第71話
ちょっと長いです。うまく分けれませんでした。
※※※★※※※
冬休みで特に何も予定もなく、あまりにも暇なので午後一からバイトを入れることにしていた。試験中はバイトを休んでいたので、穴埋めにはちょうどいいかもしれない。
「漣、忘れていたけど学校のテスト以外でなにか試験を受けていたわよね?」
「うん。フィットネスクラブ・マネジメント技能士っていう国家資格だね」
「なにそれ?」
「まだ3級なんだけど、フィットネスクラブ・ジムの運営とかに必要な感じの技能士資格なんだよ。まだわからないけど、将来父さんの跡を継ぐって可能性もあるしね。もしかしたら来月生まれてくる妹ちゃんが継ぐかもだけどね」
父さんからは会社のことはなにも言われていないけど、たまたま見つけた資格だから取るだけでも損はないかなって思って受験してみたんだ。
「もう受かったの?」
「分かんない。正答は発表されているらしいけど忙しくて見るの忘れていたし、どうせ来月には合否発表もあるからいいかなって」
「受験しておきながら気にならないって漣もすごいね」
「そう? なんか簡単だったから多分受かっているだろうなぁっては考えているんだけどね」
平日の真っ昼間なのでお客様も少なく、バイト中でも無駄話をしている暇があるんだ。
本当はだめなんだろうけど、他のトレーナーさんとか社員も似たような感じなのでそれに習っている感じ。
「おっ、君方んちの倅は意識高くて羨ましいな!」
「あうっ、社長。お疲れ様です。そ、んなことはないですよ……」
ううう。気づかないうちに俺たちの後ろにここのジムの社長さんがいた。
「まぁ、うちの息子に比べたら色々考えてくれているのは本当だぞ? うちのはまだ中坊だけどネ」
フィットネスクラブも競争が激しいから、新規の事業者が雨後の竹の子の如く出現しては消えていくって話なんだよね。こっちとしても生き残りに必死にならなきゃだし、現状にあぐらはかいていられないってわけなんだ。まあ、これはどこの業界でも似たりよったりなんだろうけどね。
「将来はまだわかりませんけど、準備できることは早めにやって損はないかなって思っています」
「こりゃ将来有望だね。うちのガキに君方くんの爪の垢を煎じて飲ませたい気分だよ。あははは! じゃあ、頑張って!」
「「はい」」
社長は筋肉ムキムキのマッチョマンだけど社長だけあって脳筋ってわけじゃないんだな。
「漣もいろいろ考えているんだね」
「まぁね。士業にも興味があるんだけどさ。ちょっと悩みどころだし、まだ決定する必要もないかなとも思っているよ」
弁護士とか司法書士とか、俺のこの年じゃ普通は関わり合いがほぼ無いんだろうけど、実際に自分が結構世話になった関係上、かなり興味があるんだよね。だからちょっと高みを目指そうかなって頑張ってはいる。
「すごいね! そこまで考えているなんて。わたしなんてほんわかしかイメージ湧いていないのに」
「まあ、だから押し付けられて勉強するんじゃなくて自発的に、目標をもってね。目標もって勉強するのだって萌々花が服飾を目指したいっていうの聞いて『俺も』って、目覚めた感じだからね」
「そっか。わたしも漣に影響与えていたんだね……。えへへ、嬉しいな」
「ああ、そういうこと。おっと、お客様が増えてきたね。仕事、ちゃんとやろうか」
お喋りタイムはこれでおしまい。残り時間は終業までかなり忙しく働きました。
そんなこんなで今日はすでに大晦日。
今回は晦日、大晦日と正月三が日だけ帰省の計画だ。母さんが臨月なんで、あまり負担をかけちゃ悪いなって思ってね。
実家に行っても俺たちは大してお手伝いも出来ないんだよね。勝手が違うっていうのかな、余計に母さんに無駄な仕事を増やしちゃう感じ。
――なんて考えていたけど、急遽昨夜方針転換をしたんだ。
「だから、ちょっとイラって来るかもしれないけど、そこはまぁ目を瞑ってもらってこの年末年始の四日間は俺たちに任せてほしいんだけど。だめかな?」
「イラっとはしないと思うけど、気にしなくていいのよ? そんなにはお客さんも来ないと思うし、せっかくの冬休みをそんなことに使ってもらっちゃうと漣くんたちに申し訳ないわ」
俺の提案に異を唱える母さん。
「赤ちゃんが生まれたら、今度はお母さんが忙しくなるんですから、わたしたちに任せてくださ……じゃなくて、任して! ね、お母さん」
「う、うん……。ももちゃんがいいっていうなら任せちゃおっかな⁉」
「はい! 任されました」
……ねぇ。なんで俺が任せてって言ったら渋ったのに萌々花が任せてって言ったら任せるってなるのさ……。俺の信用なさすぎくない? まあいいけどさ。
ということで、年末年始の家事全般は俺と萌々花で請け負うこととなった。父さんは大晦日だっていうのにジムが営業しているからこの場にはいないけど、否は言わないだろうから事後報告ってことでいいだろう。
「そうと決まったら、食材を買いに行っちゃおうぜ。午前中には買い物は終わりにして午後からはおせち……は無理かもだからなんちゃっておせちを作ろうぜ」
「はーい。じゃあ、お母さん。いってきますので、ゆっくりしててね~」
「はいはい、頼みましたよ。ふたりともお願いね」
バリバリのスポーツウーマンの母さんでも妊婦の大きなお腹では動くの一つとってもだいぶキツそうなのでせめてこの年末年始だけはゆっくりしてもらおうと昨夜萌々花と話し合って家事全部を請け負うことにしたんだ。母さんはちょっと心配そうな顔していたけど、二人で上手いこと生活しているんだから大丈夫、任せて! と言いたい。言っても大丈夫、だと俺は思いたい。
「普段の食事よりちょっと豪華なやつと、おせちっぽいのを二、三品で構わないってお父さんは言ってたよ」
「ああ、今夜は寄せ鍋にして締めに年越しそばを入れるからな」
正月中の朝は多分全員寝ていると思うのでなしの方向で。もし起きてお腹が空いていたら、焼き餅と残り物で済ましてもらうんだ。いきなりの手抜きだけど、ここは仕方ない。
「昼は、お父さんは出かけていていないって言っていたよね?」
「うん、元旦から年始回りだってさ。二日も三日も昼はいないって言っていたから食事の用意はいらないみたいだな」
昼飯を考えないでいいだけでもだいぶ楽だと思うんだ。元旦は近所の小さい神社に初詣してそのまま外食だし、二日目も三日目もお昼は母さんが一緒に出かけたいっていうから外食の予定なんだ。だから基本的には夕飯しか作らなくていいみたいになってしまったよ。
「うわぁ蒲鉾が高い!」
「普段は一〇〇円で売ってたりするのにな。一〇〇円の商品自体が無いよ……。他のものも全部高いなぁ」
「でも買わないわけにはいかないもんね」
「そうだな。母さんに渡されたメモ通り買って帰れば大丈夫だろう」
おせちとかお正月の料理なんて思い浮かばなかったので、何が必要かは母さんに指定してもらった。買って帰って作ったり用意したりするのを俺たちが担当するって感じになる。
「今年は本当にいろいろあったけど、いい年になったな。萌々花とも出会えたし、恋人になれたし、ついでに兄妹にもなったけどな」
「うん。わたしにとっても一大転換点の年だったよ。もうあのままだったら気が腐って、今頃は
運命と言ってしまえば簡単だけど、何の因果かわからないが萌々花と知り合い、仲を深めたことで萌々花だけじゃなくて俺も相当に人生が変わったと思うんだ。萌々花があのままじゃ腐っていたというが、たぶん俺も似たりよったりなクソつまんない高校生活になっていたに違いないと強く感じる。
「「萌々花(漣)に逢えて良かった」」
年末のキンと冷えた青い空に二人の気持ちは同じく重なったようだ。
来年も、いやこの先ずっと……。
この気持を大事にしていこう。
※※※★※※※
次回最終話になります。
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