第68話

 あっという間に一週間は過ぎ去ったが、テスト勉強は順調にこなせていたので、特に不安になる材料は、俺にも萌々花にも何もなかった。


 だから期末考査が始まっても俺も萌々花も順調に滞りなく科目をこなしていったんだ。

 また今回のテストでは俺も萌々花に教えることで深く理解を得ることができるという副次的成果も感じられたのも良い。


 まあそんなこんなで、結果として俺は学年一位の座をキープできた。さすがに全科目満点とはいかなかったけれども、半数以上の科目で満点を獲得したのは今回が初めてだった。特に進学校ではないうちの学校でもこれだけの結果がでたのは俺が始めてだそうで佐藤先生もいつもとは違って、鼻が高いとはしゃいでいたような気がする。俺としても頑張った結果が伴ってくれたので大変満足できる成果だと思っている。


 いっぽうの萌々花はどうかというと、学年二〇位にまで順位をかけ登ってきていた。学年で上位一〇パーセント内にランクインだ。これは俺としても驚いた。だって年度初めは最下位グループで、ちょっと前まで学年でも真ん中辺りの順位にいたのにあっという間に成績上位陣のグループにまで登ってきたんだから驚異としか言いようがない。


「萌々花、スゴくないか? でもちょっと頑張り過ぎじゃないか……いや、この成績は評価に値するってことで、頑張りを咎めているわけじゃなくてちゃんと褒めているんだけどさ」


「うん、漣が戸惑うのもわかるよ。自分でも今回の結果は出来すぎだと思う。でも、無理した感じは自分の中では無いから大丈夫だよ。多分、わたしの中で大学進学っていう目標があるのと心が今までよりもずっと安定しているおかげだと思うんだよね」


 萌々花の地頭は良い方なんだと思う。ただ今までは自親のネグレクトによって真価が発揮されていなかっただけ。そこに義父義母義兄ではあるけど心を許せる家族ができて、安心して心身を預けられたことが萌々花に劇的な変化を齎したのだと俺は考えているんだ。なんていったって俺が今の両親と萌々花を得たことによって相当変わっていったという前例があるからな。間違いはないだろうと感じているんだ。


「よっしゃ、じゃあこれで心置きなく温泉旅館で萌々花の誕生日を祝えるし、楽しめるな!」

「うん! 絶対に楽しんでやるんだからね~」



 今回俺たちが旅行先に選んだのは群馬県にある伊香保温泉という古い温泉街だ。ここだけではなく他のところも候補にはいくつか挙がったのだけど部屋に温泉がついてないとか希望に沿わなかったり、どうしても自宅から現地までの移動に時間がかかり過ぎたりとかで選べなかったんだ。そういう伊香保温泉だって自宅からは鉄道で三時間はかかってしまう距離にある。ウェブのマップで経路確認をしんだけど、もし仮に伊香保まで自動車で行くとしたら最短一時間半で着くんだっていう。電車の半分の時間で到着するなんて、早く自動車運転免許証が取れる年齢になりたいよ!


「はあ……。移動時間も乗り換えばかりで楽しんでいる余裕もなさそうだ」

「そんなに大変なの? そういえば聞いてなかったけど、どういうルートで行くの?」


 自宅最寄り駅から大宮駅まで一旦出て、新幹線に乗る。つぎに高崎駅で降りて、在来線に乗り換えて温泉宿の最寄り駅である渋川駅まで行く。そこから宿のある石段街まではバスでの移動となる。乗車時間はそれぞれ長くても二〇分ちょっとで、あとは列車の待ち時間(長くても三〇分ぐらい)だったりする。何をするにも全部中途半端な時間ばかりで、ほんと只の移動でしかない。


「なんかごめんな。せっかくの誕生日なのに午前中は移動だけで終わりにしちゃいそうだ」

「ううん。ぜんぜん大丈夫だし、楽しみだよ! 確かに乗り換えは多いほうなのかもしれないけどそれも楽しんじゃえばいいんだよ。初めての二人だけの旅行だよ⁉ 楽しんだもの勝ちなんでしょ!」


「……うん、そうだな。忙しないのも楽しんじゃえばいいんだよなっ! 向こうに着いてからもっと濃く楽しんじゃって良い感じにしちゃおう!」

「おー!」



 二学期の終業式を終えた翌日が萌々花の誕生日で、待ちに待った一泊二日の温泉旅行当日になる。ソワソワして朝もいつもより早く起きてしまったぐらいだ。


 昨夜は、一応クリスマスイベントをひと通りしたんだけどメインは今日の萌々花の誕生日なのでクリスマスプレゼントの交換もしなかったし、クリスマスの飾りも小さいツリーの飾り物をテーブルに置いた程度で済ませていたんだ。


「おはよ」

「うにゅぅ……おはょ、漣。早くない?」


「早いね。萌々花はもう少し寝ていてもいいよ。今日の朝ごはんは俺が用意するし」

「そうなの? じゃあお言葉に甘えて二度寝します……ふわぁ~」


 今日は萌々花の誕生日なので、丸一日お姫様になってもらうんだもんね。ま、やることはいつもとほぼ一緒なんだけど、俺の気持ちの問題かな?


 ということで、いつもなら朝食はほとんど萌々花が用意してくれるところを俺が準備していく。朝ごはんなので、ベーコンと目玉焼きを焼いて常備菜にしていたほうれん草のおひたしを器に盛って出すぐらいだけどね。


「あとは味噌汁だけ用意すれば準備完了っと」




「ごちそうさまでした」

「お粗末さまでした」


「じゃ、出かける用意を直ぐするね。洗い物も本当に頼んじゃって良かったの?」

「今日は萌々花の誕生日なんだから、おもてなしをしっかり受けてもらわないと、ね」


「うん。ありがとう。じゃあ、頑張って用意してくる!」

「あいよっ」


 俺は起きた直後に身だしなみは整え済みなので、最後すでに用意してある旅行用の着替えなどが入ったバッグを持てばいつでも出発できる状態になっているんだ。起きたままの姿で朝食をとった萌々花はこれから用意を始める。なんで、余裕があるのは俺だし、洗い物もお任せください。



 黒のハイネックニットに赤と緑のチェック柄のロングスカート。アウターはロング丈のダウンコートというのが今日の萌々花の出で立ちだ。スカートはクリスマスをイメージしたような色合いでとても華やかで可愛らしい感じ。


「伊香保は寒いって言うから、インナーでガッツリ防寒しているんだよ。だからこれを脱ぐ姿は漣に見せられないからね⁉」


「うん。そういうことするのは宿で浴衣に着替えてからにするから大丈夫」


「漣、そういうことじゃないの……」



※※※★※※※

萌々花の成績の上がりようよ! 目標ができるって素晴らしいよね。


作者も★がたくさん付くように頑張っていますので、たとえ一つでも評価いただけると嬉しいです!

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