第67話
とある日・・・。
※※※★※※※
「期末考査っていつからだっけ?」
「ん? 確か二週目の火曜日から週末にかけてだったと思うぞ」
「えっ? じゃあもう一週間前じゃない⁉ だからか! バイトなんで休みにしたのかと思ったよ。それじゃ、わたしめっちゃ試験勉強しなきゃいけないやつじゃん」
萌々花は急に慌てだしているけど、今頃試験の日程を確認してくる時点で遅くね? 今週来週とバイト休みにした理由わかってなかったのかよ……。
「別に俺と一緒に日々の予習復習はやってんだから大丈夫じゃないか?」
俺は昔からの習慣もあって、短い時間ではあるがほぼ毎日予習復習は欠かしていないんだ。だから萌々花も予習復習は俺と一緒にやっているんだけど。
「そんな一日一時間程度の勉強じゃ足りないわよ」
必要なところだけをまとめて復習するのと、翌日授業のある教科の教科書眺めてちょこっと予習すれば結構身についていると思うんだけどね。萌々花はそれじゃ足りない、と。
「試験用の勉強をするのか?」
「モチのロンだよ。わたしは漣とは違うんだからちゃんと試験勉強しないと点数取れないと思うんだよね」
まあそんな殊勝なことを言っていますが、我々は只今絶賛丸裸でベッド布団にくるまっている最中です。萌々花の言う試験勉強をするにはこの温かい場所から出ていかないとだね。しかも、昨夜脱いじゃった服はベッドから少し離れたな場所に脱ぎ捨ててあったりするんだよね。寒いね~ 出たくないね~ 昨夜に引き続きもう一回暖かくなることしようか?
――やる気を出した萌々花が布団をあっけなく抜け出してしまったので俺も仕方なく後に続いた。ちぇっ。
「それで、なんの勉強から始めるんだ?」
「とりあえず、数学全般と物理と英語をお願いします。あと社会科系科目と国語系科目も少々……。お願いします、漣先生。教えてください」
「ほぼ全部じゃね? でも萌々花も最近は理解度上がっているんじゃないのか?」
中間テストだって萌々花は結構いい成績とっていたもんな。
「実際のテストじゃどうなるかわからないじゃない? 万全を期して試験に望むのよ」
「まあ出来ないよりは出来たほうがいいからな。じゃあ、数学から始めようか」
「よろしく~」
初日から飛ばしても後が続かないと意味ないから、助走的に教科書のテスト範囲の復習をゆっくりと一つ一つ片付けてみることにした。ところが、俺の思っていた通り以前よりも萌々花の習熟度は格段に上がっており、あれもこれも答えが出てこないなんてことはなかった。これなら、これまで以上にいい成績も望めるのではないかと思ったので、追加の副教材なんかもあわせて少しペースを上げて問題を解いていったりした。
最初はおどおどと回答していたのに案外と正答を出し続けることが出来たために自信がついたのか萌々花にも余裕が出てきた。
「思いの外わたしアタマ良かったみたいだね。ただなぁ……わたし、本番に弱いんだよね。昔から虚仮威しで大きく見せていたせいもあって、大丈夫そうに見せかけておいて気がちっちゃくてイザってときに((((;゚Д゚))))ガクガクブルブルってなるのよ」
「そうなのか? そうは見えないけどな。萌々花ってそれなりに大胆じゃね?」
「そんなことないでしょ、そう見えないだけの小心者よ。この前の中間テストのときだって緊張して解答欄を一つずらして書き込んでいたぐらいだもん。まあ、途中で気づいたから事なきを得たけど……」
それは助かったね。でもそれって気が小さいのとはチガクね?
「萌々花って単純にドジっ子属性なだけじゃないのか?」
「……」
「緊張シイなのはそうなのかもしれないけど、基本突っ走り系ドジなだけな気がするけどなぁ」
「え? わたし気が小さいんじゃなくて、要するにおっちょこちょいのやらかし女だったってこと?」
陽キャヤンキー気取っていたときもなんか空回りしていた感じだし、まあそういうことで間違いないんじゃないかな?
「そ、そっか。属性違いだったんだね……」
長年の勘違いが晴れて逆にどんよりしてしまった萌々花だけど、まあすぐに復活はするでしょ。
「まあまあ、気にしないで。全部ひっくるめて萌々花だし、俺は大好きだよ」
「……好き……、えへへ。わたしも漣が好きだよ。ありがとう……」
うじうじしないで切り替えが早いのもいいところだよね。
「テスト終わったらご褒美に泊りがけで温泉でも行かねぇか?」
「温泉。いいね。でも温泉宿って高校生で予約取れるの?」
夜。勉強も一段落して後は寝るだけの状態でソファーにだらしなく横たわりながら萌々花と他愛も無い話をしている。
「それな! 調べたけどほとんど高校生だけじゃ無理だったわ。最低でも親の名前で予約した上で親の許可書が必要とか、親がクレジットカードで宿泊料の先払いをするってパターンが多かったよ」
旅館もネットで予約完了して当日『ガキだけで来た!』ってトラブルになっても嫌だもんね……。
「じゃあお父さんにお願いする?」
「それもまた恥ずかしいよな。泊まりたいと思っているところの宿は部屋に温泉が付いているところだからさ……」
このマセガキって今更ながら思われるのも恥ずかしいなぁ、ってね。ほんと今更なんだけど。
「え~いいんじゃないの? 兄妹水入らずでの旅行だってことだもん。ね?」
「それを大義名分にするほうがよっぽど恥ずかしいって! 嘘じゃないけど真実でもない言い訳のための手練手管って感じじゃないか?」
「じゃあ素直に萌々花と一緒に温泉行きたいから予約取って、って言うのが早いんじゃないの?」
「……うん。そうだな。何を繕っていみたところで恥ずかしいだけな気がするから素直に頼むよ」
早速父さんに連絡をして、その日のうちに予約を取ってもらった。もちろん、高校生の子ども二人で行くっていうことも先方には了解済みなので問題はない。
父さんには『温泉旅行なんてずるい』だの『二人きりで部屋風呂でなにするつもりだ?』なんてからかわれたりはしたけど、概ね余計なことは父さんに言われることなく旅行の計画は立てられた。なんでだか自分がまだ子どもだって自覚するような行為は未だに恥ずかしいと思ってしまうんだよね。これも長年実親に放置されていたせいなのかね?
「よっしゃ。二五日、萌々花の誕生日は温泉で祝おうな!」
「わーい! これで勉強にも更に気合が入るってことだねっ」
そうか、いまテスト勉強していたんだっけ。旅行のことで頭いっぱいで期末テストのことはすっかり忘れていたよ……。
まあ仕方ないからボチボチ頑張ってトップの座は守ろうかね。
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