第66話

 修学旅行が終わると学期末の定期考査までこれといったイベントはなくなる。しばらくは平々凡々な日々を送ることになるんだけど、今年は俺的にも波乱万丈だったからこれぐらい静かに過ごせるのは久しぶりな気がする。変なフラグにならないといいけど……。


「なあ須藤、佐藤先生とはどうなん?」


 特に興味はないが、話すネタも尽きたのでそう須藤に恋愛話を振ってみた。


 今日の放課後は生徒会の女子部会とやらで萌々花は生徒会室に行っているので俺一人暇だった。バイトもないので、萌々花の用事が終わるまで学校で待っていようと俺も帰宅せずに居残っているんだ。そういうことで、あまりにも暇がすぎるのでちょっとした暇つぶしに須藤の相手でもしようかと体育館の職員室まで足を運んでやったというわけ。


「どうと言われても……。あの、えと、言いづらいんですけど」

「何? とうとう別れたのか?」


「なんで別れたことになっているんですか⁉ ものすっごく順調ですよ、むしろこれからこの先に進むところですよっ」


 冗談だってば! ムキにならないでほしいなぁ~ 只の一生徒の戯言ですよ?


「ん? この先って?」

「あ、いや。そろそろ、あの、け、結婚など……考えていまして……はい」


 須藤が確か二五歳で、佐藤先生は須藤の二つ上、か。佐藤先生はアラサーと言われはじめる頃だしな、結婚は意識するってことか?


「お前がプロポーズをしたのか?」

「ま、まだです。ポロポーズはまだしていません。し、師匠! プロポーズってどうしたらいいと思います??」


「……しらねーよ。俺まだ高校二年生。ピチピチの一七歳で結婚可能年齢でもありませんから! そんなんわかるわけねぇじゃん」

「そ、そんなぁ~ 相談に乗ってくださいよ~」


「い・や・だ」

 そんな重大なもん俺には荷が重すぎる。


「そんな…………意地悪です、師匠」

 ゴリゴリの体育教師が生徒の前で拗ねるな! 気持ち悪い。



 また数日後。今日の萌々花は最近仲良くなったクラスメイトと買い物にでかけている。年度初めまではあの風見鶏と付き合いがあったせいで友人らしき姿はあのグループ内にしかなかったんだけど、開放された後はツンケンさが皆無になったのでお友達が増えているところであり、俺としてはたいへん喜ばしい限りだ。まあその代わりに俺が放置される時間がやや増えているんだけどね……。

 お、俺だって友達は増えたぞ? ただ、放課後まで遊ぶような関係かどうかは微妙なところってだけだから……。悲しくなんかないやいっ!


「暇つぶしには、体育館職員室だよな」


「スミマセン。おれも部活の顧問なんでいつも師匠の相手をできるとは限らないんですよ?」

「………分かってるよ、そんなこと」


 ちくしょう。こんどユヅルでも誘って遊びに行こうかな……。でもユヅルも篠田さんにべったりだからなぁ……。


「あの、師匠。先日お話した件なのですが……。おれ、あゆみにプロポーズしました」


「そっか、断られたのか。まあ、気落ちするなよ、つぎがんばれよ」

「いや、なんで断られたのが前提なんすか? ちゃんとOKもらいましたよ!」


「なんだOKなんだ。じゃあおめでとうと言っておきましょう。ぱちぱち」

 手を叩いてお座なりな祝福をする。ほんとはものすごく祝福したい気分なんだけど、なんだかこっ恥ずかしいいじゃない?


「まだ本決まりではないですが、仰々しい結婚式は挙げないでパーティーだけとか家族と近しい人だけで小ぢんまりとやろうって案もあるのです。その時、できれば大師匠ご夫妻に仲人みたいなものをやっていただいたうえで、師匠と萌々花さんにも出席してもらえないかなって思っているんですよ」


「まあ、それくらいなら出られると思うしお祝いはさせてもらうよ。父さんにも言っておくよ。因みにその予定の日取りは?」


 いつもふざけているけど、二人の結婚にお祝いはしっかりとしたいと思う。なんだかんだって言っても須藤にも佐藤先生にもスゴく世話になっているし。


「パーティーだけなら今年の十二月二五日、クリスマスなんか――」

「欠席で」


「そうですか……って、エエ‼ な、何でですか⁉」

 前言は早々に撤回。舌の根はまだびちゃびちゃなんですが。


「だってその日、萌々花の誕生日だし、須藤の結婚パーティーより数倍、いや数十倍はそっちのほうが重要だし」

 須藤と萌々花じゃ優先順位が雲泥の差で違いすぎます。


「ううう、分かりました。別に急いでいるわけでもないので、他の候補日を探します……」


「いいや。そっち都合でかまわないからな。俺たちに気を使う必要はないから。あっ、あと年明けたら佳子母さんが臨月だから一月と出産直後の二月も無理かもな」


 確か一月の中旬頃が予定日だったと記憶している。やや高齢の初産だから翌月も大人しくしていてほしいからね。


「もし結婚式を挙げるにしても挙げないにしても、そんな早く決めなくても大丈夫ですから、君方家に合わせます。お世話になっていますので、それくらいはさせてください」


 普通は結婚する両家に合わせるのだから、わざわざうちの都合に合わせなくたっていいのにな。どうしても合わせたいなら、それはそれ、任せるけどさ。あとで佐藤先生に怒られたって知らないからね?




「――ということがあった」


 夜自宅にて、萌々花と一緒に風呂に入りながら昼間のことをふと思い出したので伝えたところだった。


「へ~それはおめでたいね。でもそれならそうで、わたしが帰宅した直後にでも話してくれても良かったのに」

「ん~忘れていた。いや、まじで」


「ひどくない?」

「だって萌々花の誕生日の日に自分のパーティーを当ててくるぐらい悪辣なやつだよ? 忘れても仕方ないとぼかぁ思うんですけどねぇ~」


「先生はわたしの誕生日を知らなかっただけでしょ? だから漣もそういうこと言わないの!」

「は~い。わかりましたぁ。じゃあ次は、萌々花の背中も……前の方もぜんぶ洗ったげるからね」


「もう、前は自分であらえますよ~ 漣はエッチなことしようとしているだけでしょ? じゃあお願い」

「っ、お願いされた!」


 こんなことを毎日、じゃないけどそこそこ頻繁に繰り返していたら師走の声が聞こえてきた。

 道理で萌々花と二人、布団の中で、まっ裸で抱き合って寝ていても冷えるわけだ。もう冬真っ盛り。



※※※★※※※

あっちも真っ盛り・・・。

須藤先生、佐藤先生、ご婚約おめでとうございます!


そんなおめでたい気持ちのまま、オメデトウの気持ちを込めて★★★とよろしくお願いします。

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