第63話
次の予定地の県立博物館は首里城から歩いても三~四〇分ぐらいだってことなので、ゆいレールは使わずに歩いて向かうことにした。俺としてもこれといって歩くのには問題ないが、土地勘のないところをこれまた行ったこともない目的地まで歩こうっていう拓哉とジンの考えがすごいと思ったよ。
俺? 地図アプリ見ながらでも迷子になる自信あるよ。
「なんかやっぱうちの方とは景色が違うな。漣も迷子になる心配ばかりしているんじゃなくて周りの景色も見ろよな」
「拓哉に言われなくたってちゃんと周りは見ているさ。ん? ジンは人んちを覗き込んで何を見てるんだよ?」
「え? 覗きとか人聞きの悪いこと言うなよぉ。アレだよ、やっぱ沖縄ってどこの家にもシーサーが置いてあるんだなって思ってさ」
ジンの指差す先を見てみるとみると、門柱だったり玄関脇だったり、あるいは屋根の上などにシーサーの像が鎮座している。一見同じように見える像も家ごとに違う顔立ちをしているし、よく見ると一対の左右でも特徴が違うんだな。何がどう違うのか後で調べてみよう。もしかしたら神社の狛犬の阿吽みたいなものかな?
「ねえ拓哉。あたしには読めないけどこの『石敢當』ってなに?」
「雫さぁ、おれに聞かれてもわかんないよ、おれだって読めないし。せ、せきとうふ? じゃないよな? なぁ、漣ならわかるか?」
「ンなの俺も知らないって! 人んちの表札じゃないの? ねえ、北山さんはわかる?」
「表札なわけ無いでしょ、おもしろいこと言わないでよ。えっと、それは『いしがんとう』って言うやつで魔除けだった気がするよ。確かそうだよね、仁志くん」
「ああ、マジムン(魔物)は真っ直ぐしか道を進めず、曲がることができないそうなんだ。だから丁字路とか分かれ道にぶつかるとそのままそこにある家に入って来るんだって。それを防ぐのが、石敢當ってわけ。ちゃんと事前に調べてたから間違いないよ」
だから丁字路とかY字路のところに石敢當って文字が書かれた石碑だったり石版が置いてあったり掲げてあったりするんだ。
「へ~おもしろいね。じゃあ、せっかくだから写真を撮っておいてレポートに入れようよ」
「ああ、萌々花の言う通りシーサーとその石敢當ってのはレポートにまとめようぜ」
ただ歩いているだけでもレポートの素材が見つかるなんてやっぱ異文化は面白いな。
三〇分の道のりを一時間以上かけて寄り道回り道をしながら沖縄の普通の住宅街を楽しんで歩いていく。普通って言っても俺らの地元とは家の作りから何からぜんぜん違うのでおもしろいんだよね。庭にバナナの木が植わっていたりするしさ。そうして歩いて行くとふと突然に開けた場所に出る。
「もうそろそろ博物館のある区画に入るんじゃないかな?」
ジンがスマホの地図を見ながら教えてくれた。そういえば住宅街から普通のビルやマンションばかりの景色に変わっている。
「それじゃさっさと調べ物と見学をして、遊ぶ時間を捻出しようぜ!」
「なぁ拓哉、飯は?」
「漣くんや、飯はお勉強が終わってからだ。終わったらど定番の国際通りで飯にしようってプランだぞ」
「じゃあ、早く調べ物は片付けちゃおうよ。漣もそれでいいよね」
「みんなも萌々花もそう言うなら、俺はそれでかまわないぞ」
今日は行動プランも考えないでおんぶにだっこなんで、みんなに着いていきます!
「やばいな。思いの外博物館が面白すぎて計画より時間をかけちまった」
「いいんじゃないの、拓哉。みんなも楽しんでたし、ちょっとぐらいのズレはおっけでしょ?」
「そうだぞ。雫ちゃんの言う通り。博物館とか美術館てそうそうこないからいい経験になったよ。な? 萌々花」
「わたしはそうそう来ないどころか、小学校の遠足以来の博物館だったよ」
「みんなそうなんだ。僕と沙織はたまに上野あたりの美術館とか博物館にはデートで行くんだけど?」
「ね? 私たちはそんな感じだよね」
ジンと北山さんはデートに美術館をチョイスするんだな。意外と大人っぽいデートコースを選んでいることに驚いたよ。俺らなんて二人してインドア派ってわけじゃないのに出不精だからしょっちゅうおうちデートだもんな。まあ一緒に住んでいるのをおうちデートって言うかは知らんけどね。
「じゃ、移動! また歩くよ」
歩いても三〇分弱、バスに乗っても三〇分弱みたいなので、元気が有り余っている俺たちは歩くことにした。
「ここが有名な国際通りなの?」
「北山さん、国際通りって有名なの?」
「君方くんは知らないの? けっこう有名だと思うんだけど……」
「へ~ 萌々花は知っていた?」
首を横にふる萌々花。まあ、俺たち育ってきた環境もあんなだし、案外知らないこと多いんだよね。
「じゃ、君方くんもももちゃんも見るもの全部楽しく思えるんじゃないかな?」
「そっか。そりゃ楽しみだな。でもまずは腹ごしらえからしたいんだけど、拓哉は飯屋のプランも考えているんだろ?」
「まあな。沖縄って言えばステーキだろ? 肉を食うぜ」
「? そうなのか。ネットで見たけどソーキそばとかじゃないんだ。あとなんだっけ、げんこつみたいなやつ」
「サーターアンダギー?」
「そう、それそれ」
ネットで調べた時、砂糖を油で揚げたやつって言うのの訛った言い方がサーターアンダギーだってのが面白いって思ったんだよね。
「漣よ、サーターアンダギーは食事じゃないし。もうウダウダ言っているとランチの時間が終わっちゃうからさっさと店に行くぞ」
時計を見ると確かに微妙な時間に差し掛かって来ていた。みんなで小走りして目的のステーキ店に駆け込んだ。
「美味かった。拓哉GJ!」
「さんきゅ仁志。漣もサーターアンダギーじゃなくて良かったろ?」
「まじ満足、まさしくGJだ。思う存分に肉を堪能したよ。ま、サーターアンダギーも後で食うけどな」
二千円でお釣りが来るステーキだから期待はしてなかったんだけど意外や意外の大満足だった。いつもは少食な萌々花でさえぺろりと完食していたよ。
「次は買い物だよ。ももちゃんも沙織ちゃんもしっかりいいもの買おうね!」
「「おー!!」」
女性陣はお腹が膨れたら買い物熱が出てきたようだ。俺たち男どもはここからは只の荷物持ちのポーターと化すんだ。ま、愛しの彼女が楽しんでいるんだからこれっぽっちも否はないんだけどね。
※※※★※※※
住宅街の隅っこにあるステーキ屋さんで食ったけど美味かったな。ビールは置いていないので「隣のコンビニで買ってきて」って言われたのは笑ったけど。。。
そんなこんなで、おもしろいなって思ってくれたらぜひ評価お願いします。
星、白くないですか☆? ★にしましょうよ~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます